FILL THE WORLD with DEMENTIA-FRIENDLY COMMUNITIES
TOYOTA FOUNDATION RESEARCH PROJECT
FILL THE WORLD with DEMENTIA-FRIENDLY COMMUNITIES
TOYOTA FOUNDATION RESEARCH PROJECT
■日本における認知症と地域共生社会の先進モデル①
人とつながり まちを元気にする
――Community Nurse Company株式会社 青山美千子
日常のなかで健康に働きかける存在
私は看護師として病院や訪問看護という在宅の現場で働き、現在はコミュニティナースの実践講座の修了生として島根県雲南市にある「みんなのお家 雲南ラーニングセンター」を拠点に活動しています。コミュニティナースとは、職業や資格ではなく、地域の人の暮らしの身近な存在として日々の「うれしい」や「楽しい」、心と体の健康と安心をまちの人と一緒につくっていく実践のあり方です。
私たちの活動は「誰もが誰かの心と体の健康を応援できる社会を目指して」というビジョンのもと、「人とつながり、まちを元気にする」というコンセプトに基づいて 、暮らしの中から心と身体の健康を応援していく実践を重ねています。
もともと実践を重ねて広げた知見を、コミュニティナースの活動に興味があるという方や、自分たちの地域でも実践したいという方に対して、研修を通してシェアする”コミュニティナースプロジェクト”という育成講座を行っていました。
現在は400人を超える修了生が、ガソリンスタンドやスナック、シェアオフィスなどの地域住民の方が集まる場所にいたり、コーヒーの屋台を引いて歩いたり、ママさんのランチ会やスポーツのイベントを企画したりといった、暮らしの中での出会いのきっかけをつくったりしながら活動を展開しています。こういう活動を通じて、身構えられてしまう専門家ではなく、その人にとって一番信頼できる「身近な人」になることで、元気なうちから心と身体、社会の健康に働きかける活動を全国各地で広げています。
また、健康的なまちづくりを推進している企業や自治体とも連携して、まちのみんなと協働してコミュニティナーシングを広げていくモデルづくり もしています。
コロナ禍では、介護になる前の元気なうちからライフスタイルとしてご利用いただく「ナスくる」というサービスモデルの開発も始めました。
まずは地元に帰れなくなった息子さん世代の方を対象にご契約し、親御さんのもとにコミュニティナースがうかがい、生きがいを高めていく関わりやつながりづくり、併せて体調のチェックを行います。また、ご両親の元気な様子をアプリケーションで息子さん世代の方に届け、繋がっている息子さんたちにも笑顔が広がる取り組みとして進めているところです。
編み物を通して人とのつながりをつくりたい
健康の定義は「身体的健康」「精神的健康」「社会的健康」の3つとされますが、人とのつながりの低下が、心身の健康に強く影響を及ぼすということは、このコロナ禍で多くの人が実感しているところだと思います。
私たちコミュニティナースは、長らく社会的健康の担い手だった「まちにいる、おせっかい焼きの人たち」の取り組みを、「健康おせっかい」と呼んでいます。
雲南ラーニングセンターでは、まちのおせっかい焼きの人たちと出会い、すでに町の中にある健康おせっかいを掘り起こしながら、住民と一緒にチームコミュニティナースをつくり、社会的健康に重点的に働きかけるまちづくりのモデルとしての実践を手掛けています。
このモデルは「地域おせっかい会議」と名付け、事務局は雲南ラーニングセンターのコミュニティナースを中心に担っています。
これは住民の方の健康おせっかいな思いを持ち寄る/応援する/ネットワークすることを事務局を中心に企画運営するものです。そうすることで、応援された健康おせっかいがどんどん形になっていきます。健康おせっかいは「あの人にこんなことをしてあげたい」という社会的健康の資源そのものなので、それらをどんどん形にしていくと喜びも広がり、健康も高めていくことができる、地域共生社会のインフラ、つまり生活を支える基盤として貢献できると考えています。
その取り組みの1つとして紹介したいのが、「編みテロ!in島根」です。
これは編み物を通して楽しく人とのつながりをつくりたいという学校の先生が、おせっかい会議の活動に共感され、「私も編み物を通して健康おせっかいをやってみたい」と実際におせっかい会議にそのアイデアを持ち込み、たくさんの人の応援を得て実行に移されたものです。
10㎝四方の編地を繋ぎ合わせて、みんなで大きな作品を作っていくという取り組みです。取り組む中で、この取り組みに共感した住民や民生委員の方が、繋がりのある方の中から認知症の方を連れてきてくれました。そのかたは、非常に編み物がお上手で、認知機能の衰えはあれど編み物なら楽しく皆さんとの活動をできるのではないかという粋なお誘いでした。雲南ラーニングセンターでは、その認知症の方からも編み物を教わり合うなど、一緒にすばらしい時間を過ごすことができました。
その他にも、外出が少なくなってしまった今、家で何か楽しんでできることはないかと模索されている子育て世代のママさんたちなど、いろんな方たちとも繋がり合い、お互いを知り合えたすてきな取り組みになっています。
雲南ラーニングセンターでは、コミュニティナーシングを行う人材の発掘と育成も手がけています。また実践の先に生み出される便益を評価することも行なっています。
私たちは、まちの人たちを“ケアする対象者”として捉えるのではなく、住民の皆さん自身も「心と身体の元気を生み出せる主体者」として、共に実践していくことを目指しています。
こういった取り組みを続けながら、社会課題の先進地である島根県雲南市から、これからの共生社会のあり方について、みなさんと考えていきたいと思っています。
© 2019