FILL THE WORLD with DEMENTIA-FRIENDLY COMMUNITIES
TOYOTA FOUNDATION RESEARCH PROJECT
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■日本における認知症と地域共生社会の先進モデル②
誰もが人とのつながりを感じられる社会をつくる
――一般社団法人えんがお代表理事 浜野将行
「困った時に頼る相手がいない」という現実
一般社団法人えんがおは、「誰もが人とのつながりを感じられる社会」を目指し、多くの人や企業と連携しながら高齢者が孤立しない社会づくりのためにさまざまな活動を行っています。
内閣府の調査によると、日本の高齢者は、▽約30%が「つながりがない」と回答、▽独居高齢者の多くが「生活の困りごとを頼む人がいない」、▽独居高齢者の10人に1人が、会話頻度週に1回以下――と、孤立が進んでいるというデータが出ています。実際、私も「週に1度も人と会えない」という方々と会う中で、話し相手はもとより、困った時に頼る相手がいないという現実を見てきました。
こうした方々に対して、私たちが行っている事業の一つが、高齢者の家に訪問して困りごとを聞く訪問型生活支援事業です。この事業を展開する中で、「寒いけど自分では布団を出せないから、寒いまま我慢していた」「電気が切れたけど変えられないから、暗いままで過ごしている」「とにかく話し相手がほしい。ずっと家で寝転んでいる」といった声を聞きました。
私たちの訪問型生活支援事業は、そうした高齢者の方々のちょっとした困り事への対応ですが、大きな特徴の一つは、中学生から大学生まで学生を連れていくということです。年間延べ1000人ほどの学生が困りごとに対応している間、高齢者の話を聞いたり、おばあちゃんに恋バナをしたり、おじいちゃんに悩みを聞いてもらったりしています。
支援する側とされる側という関係性ではなく、つながりの中でそのおばあちゃんは何が得意なのか引き出して、例えば掃除が苦手だけど料理が得意だったら、掃除をする代わりに地域のイベントで料理をしてもらうなど、訪問型生活支援事業では孤立をなくすだけでなく、高齢者に「地域のプレーヤー」になってもらうことを大切にしています。
「世代を超えたつながり」にいかに価値があるか
訪問型生活支援事業のほか、世代間交流事業として、地域の空き店舗や空き家を使って地域サロンも運営しています。地域サロンは1階が地域交流スペースになっていて、日中高齢者が集まってみんなでごはんを食べ、普通にお茶を飲む場所になっています。一方、2階はWi-Fiとコンセントがある学生の勉強場所になっていて高校生は1日100円、大学生は200円で使えます。ここに勉強しに来た学生は1階で高齢者と一緒にお茶を飲んだり、お弁当を食べたりもします。
その中で、学生から聞こえてきた声は、「あのおばあちゃんが名前覚えてくれたんです。それがすごくうれしい。だから毎日ここに来ます」というものです。日本の若者には、自己肯定感が低く、自分のことを好きになれず、自分に自信がない人が多い中で、そうした声を聞くと、「世代を超えたつながり」にいかに価値があるかを日々実感させられます。
緊急事態宣言以降、要介護の申請が急増しているというデータもあり、コロナ禍でつながりがなくなって、身体機能や認知機能が一気に落ちてしまったケースは全国的に頻発しているようです。やはりコロナ対策をしながら、どうつながりをつくっていくかが大事だと日々感じます。ただ、介護予防は運動していればいい、居場所はお茶飲み場があればいい、というわけではなく、いかに「役割」があるかが大事です。そこに役割があって初めて人の居場所になると思うので、いかに集まってくれた人たちにいろんな役割をお願いできるかが、特に高齢者の文脈では大事だと思っています。
地域サロンには認知症の人もいらっしゃいますが、その人が地域でプレーヤーになれるようにする。それが私たちの本当に大事にしている部分です。
地域の人とグループホーム入居者が一緒にヨガを
この地域サロンは、年間延べ3000人くらいの人が来てくれていますが、徒歩2分圏内にある6軒の空き家と空き店舗を活用して、無料宿泊所やシェアハウス、シェアオフィス、地域食堂、障害者向けグループホームなどを展開しています。
そして、障害者向けグループホームやシェアハウスの入居者、あるいは子どもの遊び場に来た人が日常的に分断なく関われるコミュニティづくりが、私たちの活動です。障害者向けグループホームに入居している方が地域サロンに来て、日常的に高齢者とお茶を飲み、グループホームの一角に地域の人が集まって入居者と一緒にヨガをする。試行錯誤しながらそんな景色づくりを目指しています。
高齢者が幸せでないと若者が一生懸命生きない
認知症の方も、子どもと一緒にいると、すごく一生懸命教えたりします。精神疾患、知的障害を抱えた方も、「人の役に立ちたい」という思いがとても強い。今の日本社会は、子どもは子ども、大人は大人、学生は学生、障害者は障害者、高齢者は高齢者と分断されていますが、「分断」すると苦手が「できない」になってしまいます。それをごちゃまぜにすれば、得意なことでお互いに貢献し合えます。互いに得意なことで貢献し合える関係性づくりが、もっと地域に増えるべきであり、そのために私たち自身がそれをつくるようにトライしています。
いつも意識しているのは、「いかにそこに住む人の生活に選択肢を増やせるか」です。さまざまな事業を展開するなかで、「人とのつながり」がすべての社会課題を生んでいるとの想いが強くなりました。昔だったら、ちょっと貧しい家庭があっても、地域のおばあちゃんが差し入れをしてくれたり、ごはんをつくってくれたりすることがありました。虐待も早期発見できたはずですし、いろんな格差も、地域でつながっていて誰かが助ければ、それほど目立たなかったはずです。
そのようなつながりがなくなったことで、さまざまな社会課題が生まれ、その結果、子どもも親も高齢者も障害を抱えた方も外国の方も、いろんなところに弊害が出ていると感じます。
僕らが高齢者にこだわるのは、高齢者は幸せでなければいけないからです。
高齢者が笑っていない社会は、景色の汚い山登りみたいなもので、誰も登りたいとは思いません。高齢者が笑ってないと、「どうせ一生懸命生きても、孤立でしょ」と若い人に思われてしまう。2020年度の日本の中高生の自殺者数が過去最大になったのもそこにつながってくると思います。そういう社会を私たち大人がつくってしまったのです。高齢者が当たり前のように幸せで、大人が幸せそうな社会がないと、若者が一生懸命生きないと思います。
高齢者の孤立だけに向き合っていても、高齢者の孤立は解決できないことがわかりました。人とのつながりの力で、あらゆる社会課題と向き合うことが大切です。
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