FILL THE WORLD with DEMENTIA-FRIENDLY COMMUNITIES
TOYOTA FOUNDATION RESEARCH PROJECT
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■日本における認知症と地域共生社会の先進モデル③
関わる全ての人に幸せが芽吹く居場所づくり
――Happy Care life株式会社代表取締役 中林正太
「管理される暮らし」の割合が高くていいのか?
当社は「関わる全ての人に幸せが芽吹く居場所づくり」という経営理念を掲げて、2013年に佐賀県嬉野市で創業し、「デイサービス宅老所 芽吹き」「分校Café haruhi」「ありのまま春日」「さとみち」といった事業を行ってきました。今回は「デイサービス宅老所 芽吹き」と今年4月にオープンした「さとみち」、そして「ありのまま春日」という3つのプロジェクトを紹介します。
「デイサービス宅老所 芽吹き」は2014年6月に開業したデイサービスです。
要介護状態になっても、今できることや知識、経験を生かして社会とつながることができる。それが役割になり、生き甲斐になって、「長生きして良かったな」と言ってもらえるような仕組みをつくりたい、という思いでスタートしました。
ここでは「味噌プロジェクト」として、食品衛生法上の味噌製造業の免許を取得して、スタッフと利用者様が一体となって長年の知恵や経験をもとに味噌を製造しています。その名も「500歳の手作り味噌」。「芽吹き」のある地域は農家の方が多く、高齢者のほとんどは自宅で味噌や醤油を手作りしていたという経験の持ち主です。また商品化された味噌は「芽吹き」として地域のイベントに出店し、そこで利用者様は売り子となっています。
また、味噌製造を一緒にやりたい人をFacebookで募集して、味噌づくりを体験してもらう「味噌づくり」体験会も開催しています。さらに味噌の売り上げを使って、地域の高齢者の方々をお呼びし、一緒に体操を行った後に食事をする「みそしる会」も開催しています。これは、いわゆる高齢者の居場所づくりで、つまり売り上げは地域に還元しているのです。
一方、「さと道」は、「管理されない介護がある空間」をつくりたいと思って始めたプロジェクトです。これは小規模多機能と住宅型有料老人ホームにカフェを併設した複合型施設で、カフェは入居される方々が希望に応じて働けるようにしています。このカフェは、入居者様や利用者様、スタッフとその子どもたち、地域の方々が集まってくる場所を目指しています。
「耕作放棄茶園」を活用した「茶の実プロジェクト」
嬉野町は人口2万6000人弱の町で、その山間地に春日地区という地域があります。ここは40世帯、116人が住み、高齢化率も50%弱の町です。
ここで「分校Café haruhi」を開いたのが、「ありのまま春日」というプロジェクトです。2001年に旧吉田小学校春日分校が廃校になり、そこを拠点に地域を盛り上げようと2016年にカフェを始めました。2年間運営して、ある程度お客様が来ていただけるようになった段階で、「春日分校食事会」という、この地区の元気な高齢者をお呼びした食事会を始めました。
最初は雑談から始めたのですが、皆さん盛り上がって、自ら「むかし美人の会」と命名され、「分校Café haruhi」で行うイベントにその会として郷土料理を出してくれたりしました。
ただ、この段階ではあくまで、「分校Café haruhi」を中心とした活動に留まっていましたが、「いかに地域全体を良くしていくか」を皆さんと考えた結果、「耕作放棄茶園」を活用して新たな特産品を開発する「茶の実プロジェクト」を始めることになりました。
嬉野は九州三大銘茶の1つに数えられる「うれしの茶」の生産地ですが、少子高齢化によってどんどん耕作放棄が増えています。ただ、ここを整備して、再びお茶の葉っぱでやっていくのは現実的ではない。そこで、「お茶の実」に活路を見出したのです。
お茶の実は葉っぱより、収穫や管理は簡単で高齢者でもできます。お茶の実からは茶の実油が取れます。中国の一部の地域では古くから「不老長寿の油」と呼ばれる程の質の良い油で、その油を活用するため、「分校Café haruhi」の裏の倉庫に搾乳機を導入し、食品油脂性製造業の免許も取得しました。そして「むかし美人の会」の方々と一緒に実を集め、絞って、その油を使って石鹸を開発。来年には販売していけるように動いているところです。
さらに、昨年末から農業にも本格参入し、「見える農業、魅せる農業」という形で、「芽吹き」「さと道」に育苗施設を併設しました。利用者様に育苗してもらい、その苗を春日地区に持って行って、「むかし美人の会」の方々と野菜にして、事業所で使ったり、加工販売したりと、法人内で福祉連携をやっていけたらと思っております。
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