〈コンセプト・特色〉
ひとりのニーズからはじまる共生型の地域づくり
〈運営主体について〉
「社会福祉法人ゆうゆう」(拠点運営法人)
当別町内にある「北海道医療大学」の学生ボランティアセンターの中心メンバーが設立した「NPO法人当別町青少年活動センターゆうゆう24」がルーツ。障害児一時預かりサービスを開始して以来、支援する児童の成長に合わせて、就労拠点やグループホームなど町内に種々の障害福祉サービスを展開すると同時に、「ひとりの想いを、文化にする」ことを理念に掲げ、年齢や属性を問わない地域のあらゆるニーズに応えるオーダーメイドの支援開発にも取り組んでいます。
「サポートクラブぺこちゃん」(地域住民主体のボランティアグループ)
「ぺこぺこのはたけ」の開設準備委員会に関わった団塊世代を中心とした地域住民が、拠点の設立後も引き続き拠点を「地域のもの」として盛り立てていくべく立ち上げたボランティアグループ。
〈取り組みをスタートした時期〉
2010年(開設準備委員会設立)
〈概要〉
■エリア概要
当別町(北海道)、人口約15,000人。
町内は、中心市街の本町地区と札幌に隣接する太美(ふとみ)地区、山林が大部分を占める北部の3地域に大別されます。
紹介する取り組みは、太美地区(小学校1校、中学校1校)で行われています。太美地区は、1990年代の札幌大橋開通と宅地開発により転入した移住者が多い地域で、特に地区内の「スウェーデンヒルズ」と呼ばれる北欧風の住宅が立ち並ぶエリアには、定年退職後に本州から移住した団塊世代の住民が多数住んでいます。
■取り組み概要
当別町・太美地区に設立した「共生型コミュニティー農園ぺこぺこのはたけ」は、設立以来、一つひとつのニーズに応え続けるなかで、次のような機能が形成されていきました。
①飲食のプロとタイアップした障害者の就労拠点
「地産地消」をコンセプトに、地元で生産された野菜や畜産物を使った和食レストラン。厨房やホールでは、調理師たちと一緒に障害のある方がスタッフとして活躍しています。
②団塊世代が企画する多世代交流
地域住民の交流の場として設計された土間スペースで、団塊世代の男性たちを中心に活動しているボランティアグループ「サポートクラブぺこちゃん」が、地域の子どもたちを楽しませることを目標に、隔月でさまざまなイベントを企画・実施しています。春は種まき、夏は夏祭り、秋は収穫祭、冬は雪まつりと、四季折々の風景を感じながら多世代の交流が生まれています。
③認知症高齢者を含む多世代が活動するコミュニティー農園
拠点に併設されている畑では、レストランで調理・提供する野菜や交流イベント用の野菜を栽培しています。ここで農作業に携わるのは、地域の高齢者やレストランで働く障害者。ときには遊びに来た幼稚園児、小学生たちもはしゃぎながら農業体験をしています。年齢や属性を問わず、いろいろな方が、それぞれの得意を活かして作業に取り組めるよう、農業者や作業療法士、介護関係者が間接的にサポートしています。
④子どもの居場所・学習支援拠点
週に1度、木曜日の午後には、子どもの学習支援拠点「ゆうゆう塾」として土間スペースを子どもたちの勉強や遊びの場として開放しています。自然に恵まれ、拠点を訪れるさまざまな方と関われる環境の中で、子どもたちの豊かな学びが広がっています。
〈取り組みのきっかけ〉
当時、障害福祉の資源がなかった太美地区で、初の障害者の就労拠点を創ろう、ということで、補助金を活用した新規拠点の設立を構想しました。地域に関するリサーチを進めていく中で、「和食レストラン」という事業の方向性が固まるとともに、豊富な知識や経験をもって移住してきた団塊世代の男性が多く住む地域であることも判明し、彼らの力を地域に生かしたいという想いが芽生え、開設準備委員会に地域住民を巻き込んでいく動きが始まりました。
〈運営コスト〉
拠点運営の基盤となっているのは、障害福祉サービス事業収入・喫茶事業(レストラン)収入です。
多世代交流イベントなどについては、その都度、参加費(数百円)を参加者から徴収しています。
自分の家の畑で採れた野菜を持ち寄って、参加者に振る舞う料理をつくったり、これまでの生業や趣味(大工や、ひょっとこ踊り)などを活かしたイベント企画を実施したりなど、サポートクラブぺこちゃんのメンバーたちが、無理をせず、負担をかけず、自分たちのできること、得意なこと、好きなことを中心に、それぞれの強みを活かした企画運営に取り組んでいます。
〈運営に必要な費用概算〉
146万6,000円/月(拠点人件費、事業費等含む)
〈運営資金の確保〉
自費、寄付、その他の公的補助、自治体予算
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
■ゆるやかにつながり続けること
隔月で実施されるサポートクラブぺこちゃんの会合や活動の後には、必ず懇親会がセットで行われます。土間に設置された「いろり」を囲んで、職員も一緒になってお酒を飲み交わします。
こうしたコミュニケーションがゆるやかに積み重なることで、刻々と時が移ろう中で変化する一人ひとりや地域全体の状況に対する肌感覚が養われ、「お互い様」のちょっとした気づきや声かけ、心遣いなどのケアの文化が住民同士で相互に育まれていきます。
■福祉以外のさまざまな専門性との連携
レストランをするなら飲食のプロと、農作業は理解ある地元農家さんに指導いただきながら、といったように、各種専門家とのコラボレーションによって「福祉」を言い訳にしない「本物」にこだわっています。そうしたところから、新しいつながりや信頼関係の深まりが生まれ、事業がさらにワクワクする方向へ展開していきます。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
「地域住民にとっての財産」になるために。つながりと対話。
新たに進出するエリアでの拠点づくりであったため、社会福祉協議会や介護業界の皆さんと協力しながら、地域の自治会長や意欲的にボランティアに参加している人たちに声かけし、「この拠点が地域にとってどんな場所であったらよいか?」を一緒に考えていく開設準備委員会を発足しました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
拠点をハブに、地域のさまざまな資源同士がつながり、役割が生まれていくこと。
近隣の有料老人ホームに入居している高齢女性たちと担当ケアマネジャーが多世代交流イベントに遊びにきたのをきっかけに、拠点との交流が生まれ、定期的に農園での農作業を一緒にするようになりました。
そこからさらに、生活支援コーディネーターが地域の農家さんを紹介して、黒豆の選別作業を仕事として請け負うことになりました。日々コツコツとチームで取り組み、納品し、稼いだお金は仲間たちとのすき焼きパーティー資金となったようです。
拠点をハブとして、高齢者の地域とのつながりと役割が生まれ続けています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
認知症者の家族の安心も含めた支援づくり。
一緒に地域活動してきた仲間が認知症になっても、変わらずつながり、声をかけ合う間柄は継続します。しかし一方で、家族は認知症の本人が心配なあまり、家以外の場所で活動をすることについてリスクを感じ外出を控えてほしいと願っていたり、本人の活動を応援したくても十分にサポートする余裕がなかったり、といった状況もあります。
家族の応援もあってはじめて、本人が本人らしく地域で活躍できる機会が生まれます。
家族も安心して本人を応援できるように、世帯全体に対する専門職のサポートや「地域力」が必要とされています。
〈今後のビジョン〉
社会状況の大きな変化へ対応した新しい「人とのつながり方」の提案。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、ぺこぺこのはたけにおけるこれまでの活動にも大きな影響を与えました。レストランの営業自粛や、イベントの中止のほか、拠点での日常だった人と人との関わり合いも大きく減り、お互いに会えない期間をもどかしく感じる日々が続きます。
こんな時だからこそ、今までのつながりをただただ減失していくのではなく、創意工夫による新しいつながり方を模索していく必要があります。
例えば、レストランのデリバリーに地域の人と一緒に取り組んで「おいしさ」と安否確認・ちょっとしたコミュニケーションを届ける仕掛けづくりや、オンラインを活用した多世代共通の「学び」のプラットフォームづくりなどです。自分たちと地域のこれからを、自分たち自身で学び、考え、行動していく、そうした地域住民のコミュニティー自治の創造に私たちも伴走していきます。
■事業名:共生型コミュニティー農園ぺこぺこのはたけ
■事業者名:社会福祉法人ゆうゆう
■取材協力者名:古城 亜耶美(社会福祉法人ゆうゆう 地域包括ケアシステム推進室)
■事業所住所:〒061-3776 北海道石狩郡当別町太美町1481-6
■サイト:http://yu-yu.or.jp/