〈コンセプト・特色〉
弊社の理念は、「こどもからお年寄りまでのワンダーランド」です。
100年後の子どもたちが明るく楽しく暮らせる社会を目指して、「いつまでも自分らしく、社会の一員として活躍できること」をコンセプトに、世代や障がいの有無にかかわらず、仕事を通して相互理解および社会参加できることを目的に事業を展開しています。
〈法人について〉
弊社は、「セルフデザイン」という、①仕事、②趣味活動、③健康と美、④生活の4つのkeywordを組み合わせた独自の自立支援システムで事業を行っています。具体的には、地域密着型デイサービス3か所、介護旅行事業、子ども食堂を中心とした多世代交流型カフェなどで、地域密着型デイサービスとして、趣味特化型の「かなえるデイサービスまる」、お仕事特化型の「無添加お弁当二重まる一番町・二重まるカフェ」、健康と美特化型の「ウェルネスサロンキャトルフィユ」があります。
今回紹介する、お仕事特化型の共生型デイサービス「無添加お弁当二重まる一番町」は2019年9月、併設の「二重まるカフェ」は2020年8月にオープンしました。
〈事業をスタートしたきっかけ〉
お仕事特化型のデイサービスを始めるにあたり、どんな仕事にするかを考えていたときに、私がお弁当屋さんにすることを思いつきました。当時「かなえるデイサービスまる」の食事を担当してくれていた専属の調理師がつくる昼食が、彩りもよくてすごくおいしくて。しかも、前職でも介護に携わっていたようで、調理だけではなく職員との連携や利用者への接し方もいい。だから、一番いいのはお弁当だろうと考えました。調理師さんがいなかったら、もしかしたら違う形になっていたかもしれません。
〈事業の概要〉
二重まるには、調理師のほか数名の介護スタッフがいます。お店を始めるために保健所に飲食店の許可をもらい、建物の審査を受け、スタッフに食品衛生責任者の研修を受けてもらって資格を得ました。
利用者さんは、9時15分から16時30分までの時間をここで過ごします。朝来たら、今日は何のお仕事をするかを決めてもらい、紙にそれぞれの役割を書いてから始めます。お弁当づくりや接客などは分担で行います。メニューもみんなで考えます。午前は仕事をしますが、午後は通常のデイサービスのように、ソファのある部屋で休憩できますし、お風呂もあります。3時のおやつをみんなでつくったり、買い物や畑仕事をしたりなど、やりたいことをやって過ごしてもらいます。
みんなでつくったメニューは、お弁当、カフェのランチ、デイサービスの昼食になります。多い日では全部で70食くらいつくります。カフェではスープとドリンクがセットでつきますし、「かなえるデイサービスまる」の昼食も、スタッフが取りに来て、おかずをむこうで盛り付けていただきます。また、お弁当の配食もしていて、夕方の送迎と一緒に必要な方へ届けたりもしています。利用者さんが畑でつくった野菜は自然栽培なので、特に夏野菜などはお弁当のメニューに加えることも多いです。こだわりは、「おいしいものをつくる」ということ。利用者さんが食べる食事も、高齢者だからとか、要介護5だからといって最初から刻んで出したりすることはないです。見た目も食感も含め、おいしいから食べるし食べたい、当たり前のことですよね。
〈運営コスト〉
基本は介護保険収入となります。そのほか、「かなえるデイサービスまる」でつくる漬物や味噌の販売、二重まるのお弁当やカフェの売り上げなどで収入を得ています。
支出は6割以上が人件費です。そのほか、減価償却費が2割程度と諸経費です。他のデイサービスに比べて、イベントでの支出が多い分、経費がかかりますが、サービスの質と薄利多売の精神で、高い稼働率をキープできています。
〈人材育成の仕組み〉
3か月に1回くらい法人全体でミーティングをして、考えていることを共有しています。ただ、私が考えていることすべてを皆が理解しているかといえばそうではなくて、理解の仕方もさまざまだし、共有しようとしてもできないこともあります。仕事のスキルに関しても、職員を一緒くたにしてすべてを求めすぎてもダメです。それぞれができること、苦手なことがあります。私は、楽しんで仕事をしてほしいと思っていますから、当然、目指すことを共有することは続けますが、その中から何かを感じ取ってもらって、それぞれやり方が違ってもいいし、できないところを手伝ったりしながら、互いを理解して、スキルを合わせて、そこに近づけばいいなぁという思いでかかわっています。
スタッフ支援の一例として、先日も発達障がいの利用者とのかかわりについてスタッフが話し合いをしていたので、障がい者支援の専門の方に協力いただき、みんなの困りごとなどを聞いてもらいました。スタッフは、その方の人生がよりよいものになるために、どうしたらわかり合えるか、どうかかわればいいかを一生懸命考えていましたので、話を聞いてもらい助言いただくことで、みんなも安心していたし、自分たちのかかわりが間違ってないんだということが確認できて、すごくよかったようです。
〈やってよかったこと〉
カフェの改修を自分たちで行ったことです。物件はこだわって探し、3年くらいかけて元々保険屋だったこの場所にたどり着きました。内装費などのコストを抑えるために、私がネット通販などを活用しながら壁材やドア、照明器具、家具などを探しました。壁はフランス壁で、これは全部職員と利用者とで塗りました。蜜蝋も塗っているので、お子さんが触れても安心・安全です。仕上がりがちょっと不格好ですが、味があっていいと思います。靴箱も利用者さんがつくり、みんなの手が入って、自分たちで仕上げたという感覚が持てました。家具も中古ですが外国製のものをそろえました。なるべく高齢者施設っぽくならないように、環境をデザインするというか、自分たちが行きたいところをイメージしながらつくれたことがよかったです。コストを抑えながらでもいいものをと思って探せば、けっこう何とでもなります。
〈これまでに苦労してきたこと、それをどのように乗り越えてきたか〉
創業当初は金銭的に苦労しました。先が見えないまま事業を始めたため、本当に手探りで、お金がこれで足りるのか、利用者さんが来てくれるのか、会社がもつかどうか、怖さと葛藤がありました。また、中古物件は利用することのメリットも多いのですが、建物の改修等に予定以上の費用がかかってしまいます。行政とのやりとりも含め、けっこう苦労しました。
けれど、ちょうどその頃、「あおもり発ベンチャー大賞ビジネスプランコンテスト」に応募して、最優秀賞をいただき、県からさまざまなサポートが得られるようになりました。妻とコンセプトや事業内容について一緒に考え、インパクトのある内容で応募できたことがよかったと思います。やりたいことがあったら、多少漠然としていても、発信してみることは重要ですね。そうすることでサポートしてくれる人と出会えたり、私ができることをサポートするという関係づくりもできます。人との出会いも苦労を乗り越えるのに大事かもしれません。
〈モチベーション〉
団塊の世代が75歳以上になり、高齢化が進む中で、高齢者が暮らしにくい社会にならないためにも、今から別の道をつくっておきたいと思っています。
例えば、脳梗塞を患い、病院で一生懸命リハビリをして退院しても、その先に、その人の人生がない場合があります。高齢者だから施設とか、病気になったから何もしないで自宅にいるではなくて、できる範囲で仕事をしたり、人の役に立つことでその人の生活が保たれることが必要です。私たちは介護する・される関係に見えるけれど、利用者さんから多くのことを教わります。私は利用者と介護福祉事業者が互いに持ちつ持たれつの関係をつくりながら、色んなサービスを増やすことで、その人の人生の選択肢が増えればいいなと考えています。
ですから弊社は、今あるものを継続するという考えもある一方、利用している方が何かしたいと思ったときに、そこに橋渡しできるようなサービスを用意するためにこれからも変化していきます。目指すのは、福祉事業単体ではなくて、必ず何かとミックスすることで相乗効果を得ること。パン屋さんとデイザービスとか、カフェとか、色んな形を模索していきたい。放課後デイサービス、生活介護の許可もとっていますので、いずれは子どもも含めて、みんなで働いたり、好きなことができるといいなと思っています。
〈今後のビジョン〉
100年後の子どもたちが楽しく笑顔でいられるための事業は継続していきます。しかし今回、COVID-19の影響で当たり前の毎日が当たり前ではなくなった感覚がありました。色んな方の苦しみが増大する中で、どうやったら当たり前の生活に戻せるかを考えています。
身近な例ですと、利用者がデイサービスに来られなくなっています。たとえ自宅にいても、デイサービスと同じような環境をつくって、一緒に体操したり、利用者さんと話したりできるように、アプリなどを使ったサービスができればと思い、IT会社などに相談しています。自宅にいながら、楽しみをもって暮らせるような、ゲーム感覚のアプリができるといいですね。
■事業名:共生型デイサービス 無添加お弁当二重まる一番町・二重まるカフェ
■事業者名:株式会社池田介護研究所
■取材協力者名:池田 右文(株式会社池田介護研究所代表)
■事業所住所:〒039-1101 青森県八戸市大字尻内町字八百刈25-1
■取材・まとめ:渡部 菜穂子(看護大学勤務)
■取材時期:2021年2月