〈コンセプト〉
ストレングスを活かすデイサービス
〈取り組みをスタートした時期〉
2013年5月20日(デイサービス開設日)
〈概要〉
介護保険制度における定員18名のデイサービスです。特色としてはストレングスを活かすことを重視しています。ストレングスを端的にいうと個人のもつ強みということですが、①知能・技能、②職能・技能、③興味・関心、④環境という4つの切り口があり、この4つの中でも興味・関心がもっとも強いストレングスになります。平たくいうと“やりたいこと”です。達者の家では利用者さんのやりたいこととできることをヒアリングし、ストレングスを中心にデイサービスの活動を組み立てています。
そのため、利用者さんの強みやその日の気分によって活動がめまぐるしく変わることもあることが特徴のひとつとなっています。具体的な活動としては、調理へ参加してもらう、日曜大工をしてもらうなどを日常的に行っています。そのほか時期的な活動としては、近隣小学校の運動会前にはお手玉を作成して寄付したり、掲示する点数板を毎年作成したりしています。菜園で取れた野菜を保育園に寄付したことや、海岸清掃をしていたこともあります。高齢者の中には学校給食を食べたことがない方もいるので、学校と協力して、人生で初めての学校給食を小学校で児童と一緒に食べるという取り組みをしたこともあります。
基本的には、利用者さんとの会話の中からやりたいことやできそうなことを拾って、活動のアイデアを生み出しています。
〈運営主体について〉
「株式会社ケアクラフトマン」
鹿児島県最北端の人口1万人の町、長島町で介護サービス事業を運営している株式会社です。デイサービスの他に、訪問看護、訪問入浴介護、居宅介護支援を運営しています。また人口750人の離島でも水俣病に関する福祉事業を行政から委託を受けて運営しています。離島への介護サービスは、訪問看護師やケアマネジャーがフェリーで通ってサービス提供をしています。
〈取り組みのきっかけ〉
私はデイサービスを開設する前は、特別養護老人ホームの職員として働いていました。利用者さんと関わる中で、利用者さんにもやりたいことやできることがたくさんあるのに、それを発揮できる環境や仕組みがないことにジレンマを感じていました。介護保険の目的は自立支援ですが、自立するために必要なストレングスの発揮という部分では、いち社員の力ではなく組織的な取り組みが必要だと感じていました。これが、起業してデイサービスを始めるひとつのきっかけとなっています。
〈運営コスト〉
デイサービスの活動の一環であるため、通常のデイサービスを運営するコスト以外に特別なものがかかっていません。そのため持続するためには利益を出し続けることが必要です。損益分岐点が稼働率60%前後となっているため、60%以上の稼働率を維持し続けることが必要条件となっています。
また過疎地で若者が少なく今後も減り続けているため、人材確保が難しくなりつつあります。他業界と労働者を取り合うゲームになるため人件費は今後ますます上昇してくると考えています。
〈運営に必要な費用概算〉
約350万円/月(デイサービス運営費)
〈運営資金の確保の手段〉
介護保険
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
一般的な企業経営と同じだと考えていますが、特に人材マネジメントが非常に重要だと思います。我々はなんのために社会に存在しているのか、誰に何を提供して経済活動を行っているのかを明らかにすることが根本的に重要です。これが軸となり、ビジョンを定め、価値観を共有できる人・必要なスキルを持つ人を採用し、適切な仕事を与え、育成して評価し、納得感のある報酬が得られるようにすることが、売上の半分以上を人件費で占めてしまう事業において肝となる部分だと考えています。
そのため、改めて5年後のビジョンを設定しなおし、それをブレイクダウンさせた目標設定、人材育成、評価、報酬制度を再構築している最中です。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
人手不足です。子育て世代が多く働いているため、急な休みや産休・育休が多く、常に十分な人員体制を維持することが困難でした。デイサービスを開設して8年になりますが、常に誰かが産休・育休で欠けている状態です。子どもができるのはとてもよいことですが、人員確保という面では苦労しました。産休・育休に入ると代わりの人材を雇用しなければなりませんが、期間雇用では応募が来ないため通常の正社員やパートで募集をすることになります。そうすると休暇中の社員が復帰すると単純に社員増となるため、人件費をまかなうために売上を増やすことが必要となってきます。そのため、利用定員を増やしたり事業を拡大したりすることでこの問題に対処しています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
利用者さんが自分のやりたいことができているとき、得意なことを発揮して誇らしい顔つきをしているときは、傍から見ていてとてもよい気持ちになります。またそれを支え実現可能にしている社員たちが喜んでいる姿が見られたときは、やっていてよかったと思います。
ストレングスを活かすというコンセプトは開設当初からあるため、その意識が社員に浸透し、「これは達者の家らしい」「これは達者の家らしくない」という言葉が社員から聞こえてくるのは、価値観を共有するという点でうまくいっていると思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
人員不足により組織風土崩壊が懸念されることです。苦労したこととしても書きましたが、一時的な人員不足が長引くと社員の不満が高まります。すると些細なことでも衝突が起き、感情のもつれなどによりチームの空気感が悪くなってきます。不規則的に発生する産休・育休へ対応し、現場にしわ寄せがいかない体制や仕組みがなかなかつくれていません。事業規模の拡大によって人材の流動性を高めない限り悩み続けるのだと思います。
〈今後のビジョン〉
5年後のビジョンとして、量と質の両面で目標設定をしています。量的な目標は売上や社員数を掲げています。質的な目標は「私たちはすべての社員が頼れる専門職となって期待を超えるサービスを提供し、関わる人に驚きと感動を与え、地域で最も支持される会社になっている」としています。
自社が事業を行っている地域は田舎の過疎地であり、総人口も高齢者人口も減少し始めている地域です。この環境下のみで事業を成長させていくのは困難なので、新事業・新市場への展開を検討しています。企業として成長することで、地元の町にも貢献できることが増えると考えています。
■事業名:達者の家
■事業者名:株式会社ケアクラフトマン
■回答者名:大平 怜也(株式会社ケアクラフトマン代表)
■事業所住所:〒899-1301 鹿児島県出水郡長島町蔵之元3696