〈コンセプト〉
・隣の家に行くような感覚で来てほしい
・一日の中で一つでも良いので役割をもってもらいたい
・この街を出て行ってくれと言われない街づくりをしたい
■仕事斡旋型デイサービス:主に扱っている仕事は2本立て(家事、木工作業)
家事:主にお昼ご飯をつくってもらいます。メンバーがそろったら何を食べるか決めます。リクエストや、冷蔵庫にある余り物をみてからメニューを決めています。希望に合わせて買いものに行く人がいて、それをみんなで調理をして食べます。皿洗いもメンバーにやってもらっています。
木工作業:受注生産です。依頼があったらメンバーと一緒に現地に寸法を測りにいきます。そして設計、資材を買いにいき、のこぎり等の大工道具も使いながら製作します。その後、完成したものを納品しにいく、という流れです。厚生労働省からの発注もありました。本棚をつくってほしいとの依頼でしたが、コロナ禍で納品ができていない状態です。できればみなさんと一緒に納品に行きたいと考えています。
〈運営主体〉
「株式会社隣家」
NPO法人では認可に時間がかかるため、株式会社として運営しています。立ち上げまで日がなかったため株式会社として立ち上げました。地域密着介護(10人定員)一本で、現在は軌道に乗っています。
〈運営コスト〉
■初期の資本金:700万円
※足りなかったため、さらに400万円投入。銀行から1,500万円の融資を受ける。
■営業場所の問題
空き倉庫をリフォームしてみてはどうかという案があり、改修(リフォーム費用1,100万円:特に水回りが高額)が必要でした。そもそも配管が台所しかないものでしたが、風呂が一番かかりました。こだわりとして、どうしても檜風呂を導入(80〜90万円)しましたが、あまり需要はなかったです。また、オーナー探しが大変でした。
■職員配置等
・初期の人件費:西野さんの役員報酬と常勤1名(立ち上げメンバー)、1/wの看護師が初期メンバーで50万円弱。
・次に、非常勤を入れました(3~5/wで働いてくれる)。現在の人員配置は、常勤職員2名(西野さんと、立ち上げメンバー)。
・採用の基準は、大体紹介や一本釣りです。一緒に働いたことがある方が多く、みんなに助けられています。
■現在の経営状況
デイサービス隣家では経営状況は9割稼働で潤沢、8割稼働でトントンです。9割稼働をキープしていたのですが、昨年末より入院や入所が相次ぎ、このコロナ禍で新規の依頼も少ない現状で、1月の稼働率は約7割という状況です。定員10名の1事業なので、頭打ちの状態です。
今後は職員の昇給や賞与に影響が出てくるかと思われます。また、2025年問題や人生100年時代も間近に迫っており、介護報酬改悪(今回の報酬改定はプラス改定となるようですが…)も懸念されます。そんな中でも生き残れるよう、何かしらの形で事業展開を検討しなければなりません。
〈人材確保の方法、人材育成の仕組み〉
■人材確保
人手が足りなくなり、去年からタウンワーク等の人材募集サービスにも募集をかけています。面接まではいきますが大体合わないです。結果としてそのコストは無駄になってしまい、結局、紹介・知り合いで人員が構成されています。
■人材育成
特別に時間や日取りを設定して研修はしていません。いつもの業務が研修です。業務の中で認知症の方々とふれあい、ごはん一つつくるのにもお願いをしています。そこからかかわりをもってもらい、調理一つとっても今までできていたことができなくなっていたりするため、その点に注目してもらいながら支援を考えてもらっています。業務の中で、なぜこのようなことをやっているのかなどの解説もしています。その説明は研修を別に開かなくてもよいと考えています。
〈やりがい、モチベーション〉
基本的に管理をするということが嫌いです。それは職員に対しても、メンバーに対してもやりたいことがあればどんどん提案してもらって、一緒にやっていくという感覚です。そこがモチベーションにつながっているとよいと考えています。今まで破天荒なアイデアがくることはありません。
また自分がじいちゃん、ばあちゃんと楽しくやっているのがモチベーションを保つ秘訣です。隣家で過ごす時間は居心地が悪くなければいいなと思っていますし、よくなくてもいい、悪くなければなによりと思っています。じいちゃん、ばあちゃんが楽しくやっている様子をみるとモチベーションにもつながります。
〈失敗経験〉
■立ち上げたときの失敗
立ち上げ当初、違う物件を借りてしまったことです。デイサービスの許認可が下りるかわからない市街化調整区域でしたが、2、3カ月分の家賃を支払わなければならず、40万円ほどお金をドブに捨ててしまいました。準備不足だったと思っています。
■ケアの失敗(とあるご利用者さんの例)
認知症で、一人暮らし、独り歩きして自宅に戻れなくなるタイプの方でした。内服薬を届けに行ったらいなかったので、GPSで検索したところ薬局にいるのを発見しましたが、おまわりさんと親子連れと一緒にいました。話しかけたところ「この人が犬をもっていった」とその男性が怒鳴られました。認知症であることや経緯などを説明するも「窃盗罪だ」と怒りが納まらず、家族が到着されてから平謝りされるも「この地域から出て行ってくれ」と言われました。結果、これをきっかけの一つとして、その方は施設入所となりました。フォローしきれなかったことが無念でいまだにすごく強く残っていて、何かやれたのではないかと考え続けています。
この男性が怒るのはわかります。メディアで取り上げられることが多くなってきたことで、認知症のことは知っていると思います。ただ、その症状について少しでも理解してもらえていたら。怒ることはあっても「この地域から出て行ってくれ」という最後の言葉につながることはなかったのではないかと思い始めました。そこから「この地域から出て行ってくれ」と言われない街づくりをしたいと思い、もっとメンバーと一緒に地域に出て行って、地域の人とふれあってもらいたい、認知症を理解してもらいたいという思いの中での活動をしていきたいです。
また学生世代やママさん世代に働きかけていきたい。このじいちゃんが教えてくれたことなので、この取り組みは続けていきたいです。
〈苦労していること、課題や解決の工夫〉
コロナ禍で地域に出られないため、普及活動ができていません。後述するスターバックスのお掃除も本来であれば店内でお茶を飲めていましたが、今は飲めません(感染防止の観点から入店しない)。そこでかかわれるチャンスが失われています。
7割が男性メンバーなので男性特有のもめごとがあります。些細なことから話が噛み合わないこともあり、また認知症の症状からということもありますが、元々の性格が合わないこともあります。
例)大工VS社長など、職人気質や立場からぶつかることがある。職員が介入しなくてはならないことも多い。
〈持続する仕組み、工夫〉
現在8年目ですが、基本として外回りに行くようにしています。持論として「(利用者を)紹介して下さい」とは言いません。取り組みを報告して、向こうから空きがあるかどうか尋ねられるまで待ちます。“西野を知ってもらう”という風に思ってもらうため、ケアマネジャーとの関係性を大事にしています。
〈今後のビジョン〉
・事業拡大をしたいとは思わない。
まず今の隣家にできること(特に地域に出て、地域とつながりをもてる活動)を拡大し定着させることを優先することが一番です。デイサービスでの事業展開は、今のところ考えていません。事業展開するとすれば、デイサービス隣家の取り組みを基盤に、自費事業を始めることや隣家の想いや取り組みを伝えていけるような事業と考えています。
・すぐにというわけではないが隣家で培ってきたメソッドを伝えてみたいと思います(コンサル的)。
・自費サービスを検討している。
受診同行をしたいです。車も出して、全部対応するということをやりたいですが、保険内であると対応が難しい。であれば自費で一切合切やれたほうが良いのではないかと思っています。実際に受診同行ができず、もどかしい思いもしたこともあり、今受診させてあげたいのに、先送りになってしまうということが2、3回ありました。
〈大切にしていること〉
外とのつながりを大切にしています。
地域の介護仲間が朝霞のコーヒーチェーン店の店長と知り合い、新座店の店長を紹介してもらいました。そこからお掃除ボランティアを始め、草むしりもやっています。草むしりは足腰を使うのでなによりの機能訓練になっています。また真横がドッグランで飼い主とメンバーが話すこともあります。子ども連れも多いため、子ども好きのメンバーが話しかけに行くと向こうも答えてくれます。メンバーを認知症と話すことはありませんが、メンバーとママさん世代のやり取りが生まれているのがうれしいです。
また、民生委員さんと地域のイベントで交流するようになったら、畑を紹介してもらえるようになりました。そこから農作業の活動が始まりました。
地域子育て支援センターの保母さんと話すこともあります。
■事業名:デイサービス隣家
■事業者名:株式会社隣家
■取材協力者名:西野 裕哉(株式会社隣家代表)
■事業所住所:〒352-0004 埼玉県新座市大和田1-12-15 フラワーハイツ101号
■取材・まとめ:若林 紘介(地域包括支援センター勤務)
■取材時期:2020年11月