〈コンセプト・特色〉
コンセプトは「華麗な加齢」。加齢という概念をアップデートする取り組み
〈運営主体について〉
「GrowingOld Together」
代表である山田修平を中心として、高齢者が大好きな20代を中心に結成されたチーム(任意団体)。超高齢社会をはじめとした社会課題をおもしろくクリエイティブに解決することを目的に、イベント企画、運営などを行っています。
■代表山田のプロフィール
1996年生まれ、香川県出身。2018年に首都大学東京(現:東京都立大学)健康福祉学部理学療法学科卒業後、八潮中央総合病院に入職。急性期病棟、回復期病棟に2年間従事した後、2020年にソフィアメディ株式会社に理学療法士/広報として入社。洋服と音楽と高齢者を愛している理学療法士。
〈取り組みをスタートした時期〉
2019年4月頃
〈概要〉
当時、病院で理学療法士として従事していた山田修平(主催者)が、多くの高齢者と関わる中で、「高齢者」「加齢」「老い」などに対する世間のネガティブなイメージに違和感をもったことがきっかけで始まったプロジェクトです。
加齢について多くの方々とあらためて考え直したいという思いから、2020年1月に「DESIGNFESTA GALLERY」にて開催した写真展に、3日間の期間中500名以上を動員しました。街中で撮影されたイケてる高齢者のスナップ写真や、本写真展のフォトグラファーである山田修平、澤田香菜子の祖父母の写真などを展示しました。
〈取り組みのきっかけ〉
きっかけは大きく2つあります。
①純粋に高齢者が大好きだからです。
好きという感情は不思議と誰かと共有したくなるもので、僕も大好きな高齢者の魅力を誰かと共有したいと思いましたが、高齢者の魅力はなかなか言語化するのが難しく、「何で高齢者が好きなんですか?」と聞かれても、うまく答えられないのが現状でした。
そこで友人に「高齢者と触れ合ってみると魅力がわかるよ」と伝えたところ、「話しかけ方がわからない」「何を話せばいいのかわからない」と多くの人に言われました。それもそのはずで、今、日本(特に都心部)は地域のつながりの希薄化が進み、近所付き合いも減少しています。隣に誰が住んでいるのかを知らない若者も多いといえます。また核家族や単独世帯が多く、自分の祖父母との関わりすらも希薄になっているケースも珍しくないでしょう。結果として高齢者と接する機会はかなり少ないといえます。
このような現状を踏まえると、今の若者に対して「高齢者と触れ合ってみて!」は、もはや外国人と話すのと同じぐらいのハードルがあると感じました。そこで、まずはもっと気軽に、高齢者との接点をつくろうと考え、写真を見てもらうことで高齢者の魅力を共有しようと思いました。
②「加齢」の概念をアップデートしたいと感じたからです。
歳を重ねていくと、いつしか「また1つ歳を取ってしまった」などとネガティブな言葉で誕生日を迎えている人が多いなということに気がつき、そこに違和感をもちました。確かに人間は歳を重ねるにつれて、身体的な機能は低下します。シワが増えたり、目が見えにくくなったり、できたことができなくなっていきます。しかし、これは「自然」なことであり、決してネガティブなことではないのです。
だから、僕は歳を取ることでできなくなることばかりに目を向けてネガティブな気持ちになるのではなく、歳を取れば取るほど成熟する人間的な美しさにスポットライトを当てようと思いました。ネガティブな気持ちで歳を取っていくなんてあまりにも悲しいし、少なくとも僕はネガティブな感情でこれから歳を取りたくないと思います。だから、最高にイケてる高齢者の写真を世の中に発信することで、少しでも多くの人が「加齢」について、あらためて考えるきっかけになればよいと感じました。
多くの人が高齢者の魅力に触れ、「加齢」に関して考えることは、超高齢社会をより豊かにしていく中で必要なことだと感じます。今までの「物理的豊かさ」ではなく、より「人間的で文化的な豊かさ」に目を向けてほしい、加齢という誰もが経験する自然な現象をネガティブにとらえるのではなく、逆に楽しんでほしいという思いからこの取り組みをしようと考えました。
〈運営コスト〉
運営コストは、クラウドファンディングにて調達しました。現在は単発の対面を前提としたイベントに留まっている状態なので、持続させることができていないのが現状です。現在その仕組みや工夫を考えている段階にあります。将来的には企業のCSR的な立ち位置ではなく、しっかりビジネスとして経済合理性が担保できるようなモデルを構築したいと考えています。
〈運営資金の確保〉
クラウドファンディング
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
上記にも述べたように、現在は単発の対面を前提としたイベントに留まっている状態なので、持続させることができていません。現在その仕組みを考えている段階にあります。僕自身、能力不足を痛感しているため、現在はソフィアメディ株式会社で理学療法士として臨床に励みながら、広報としても従事し、企画から実装までを学んでいる最中です。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
写真展という取り組み自体が初めてだったため、何もかもが手探りの状態から始まったことや、マンパワーも資金もない中で自分の描いた青写真をどう実装するかという点に苦労しました。対策としては、仲間集め、撮影、資金調達の3つのタスクに大きく分けて、とにかくやりながら考えるという、アジャイル開発的に取り組みました。
仲間は、まずビジョンを明確にしてSNSで募集し、自分の友人にも声をかけながら集めました。まずは仲よくなることを意識し、心理的安全を担保したうえでそれぞれの特性に合わせて仕事をお願いしました。撮影は街中にいらっしゃる方々に声をかけてスナップ写真を撮影させていただいていたので、街頭に立つ頻度を増やし、どういう場所で、どういう時間帯で、どういう声かけをすればうまくいくのかを繰り返し分析し、PDCAを回しました。
資金調達はPRや集客の意味も含めてクラウドファンディングで行いました。個人的にはソーシャルグッド系のイベントでは社会課題に興味関心のある方々ばかりが集まってしまうという課題があると思います。この写真展も同様にもともと超高齢社会などに興味関心のある方々はもちろんですが、そうではない無関心層にも興味をもってほしいと考えていました。
そこで対策として社会的意義を前面に出すのではなく、「おもしろい」という感情に訴えかけるようにビジュアルもコピーも、設計しました。その結果として目標金額の200%を達成することができました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
うまくいったことは、「おもしろい」という感情を大切にしたことと、「医療」や「福祉」といった言葉をできるだけ使わなかったことだと思います。上述しましたがどれだけ社会的意義がある取り組みだとしても、おもしろくなければ参加したいとは思わないし、また医療や福祉という言葉で引いてしまう方々もいると感じます。そうではなく、エンタメとして参加し、楽しみながら無意識のうちに社会課題に触れる導線設計が必要だと感じます。今回は小規模ではありますが、それができたのかなと感じます。
また、今回は写真展というオフラインで開催したことに意義があると感じました。正直、写真をできるだけ多くの人に見てもらうという目的のみならweb上で十分で、SNSなどで拡散した方が明らかに多くの人に届くと思います。会場費もいらないし、印刷する手間も省けるし、お金もかかりません。
しかし、今回はどんな人が写真展に来てくれるのか? という好奇心や、来てくれた人と直接話してみたいという気持ちからリアルな場での開催としました。結果的に自然発生的に多種多様な方々がごちゃ混ぜになる空間が生まれました。これは企画の段階では予想しなかったことでした。オフラインの魅力は来場者間のつながりが生まれることだと思います。僕自身も来てくれた方々とお話しできていろいろな学びがありましたし、きっと僕の知らないところでも来場者間で多くのつながりが生まれていると思います。イケてる高齢者を媒介に偶発的な出会いが生まれたことはよかったと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
コロナ禍にてイベントの開催が困難になったこと、また写真撮影自体も難しくなったことが、今悩んでいる点です。そのため現在は対面を前提とした企画ではなく、オンラインでも上記に述べたような、「おもしろい」「楽しい」と感じながら無意識のうちに「加齢」という概念をあらためて考えアップデートしたり、超高齢社会という社会課題に触れることができるような取り組みを模索しています。
〈今後のビジョン〉
これからも、「好き」「楽しい」「おもしろい」といった感情に基づいて、無意識のうちに「加齢」という概念を改めて考たり、超高齢社会という社会課題に触れることができるような取り組みをしていきたいと思います。頑張って豊かになるというより、気がついたら豊かになるような取り組みを目指します。またそれをビジネスとして成り立たせ、経済合理性が担保できるようなモデルを構築したいと考えています。
■事業名:最高にイケてる高齢者の写真展
■事業者名:Growing Old Together
■取材協力者名:山田 修平(Growing Old Together代表)