〈コンセプト〉
地域のつながり「顔の見える関係づくり」を大切に、認知症予防と認知症になっても安心して暮らし続けられる地域社会をつくる
〈運営主体〉
「NPO法人スマイル・エイジングパートナー」
居宅介護支援事業所1事業所、認知症対応型通所介護事業所を3事業所運営しています。デイサービスは、そのうちの1つの事業所を、若年性認知症特化型として運営しています。
ご利用者が、本人が人生の主役として、地域の中で社会生活を送り、自分らしくいられる一助になれるよう事業展開しながら、少しでも地域の方々に必要とされることを共に行っていきたいと考えています。また、介護保険事業に地域交流スペース「かどっこカフェ」でのカフェや、認知症予防教室、地域食堂(こども食堂)を設立当初から継続して開催し、レンタルスペースや食材支援パントリーの運営でも地域との繋がりを強くしています。
〈運営コスト〉
開設時には、居宅介護支援事業所と併設で認知症対応型通所介護事業所のそれぞれ1事業所でスタートしました。
まず「NPO法人」の法人格を取得するところから準備が始まりました。事業所として開設する場所の確保や市区町村に指定を受けるための書類関係(契約書や重要事項説明書、運営規定など)や設備面など金融機関からの融資を受けて開始しました。設備面では、もともとあった建物をバリアフリー化し、手すりやスロープの設置、そして入浴できる場所を新たにつくるなどのリフォームが必要でした。
職員は核となる専門職などを含めて4名を確保し、まずは自分たちのことを知っていいただくために、相談できるカフェとして開放しました。また、地域向けの認知症予防教室、広報活動がメインであったため、数カ月は法人としての収入はない状態でした。しかし、地域食堂やカフェを含め、地域へ発信したことや、認知症ケアの内容が「口コミ」により広がり、利用者の確保や職員の確保にもつながりました。
〈やりがい、モチベーション〉
利用者サービスとしては、リハビリや脳の健康体操(学習療法)を行っています。また、グループホームではよく聞かれますが、通所介護でありながら、昼食づくりを利用者と毎日一緒に行っていることが特徴です。あらかじめ決められたメニューは存在せず、利用者と一緒に考えることも、活動の一環としています。
また、買い出しも地域のお店に利用者と共に出かけますが、なるべく八百屋や魚屋などの専門店を選んでいます。そのほうが季節の物が置いてあり、季節感を感じることができること、また、地域にお金を落とすことで地域に還元できるという考えのもと、取り組んでいます。専門店では店主の理解もあり、認知症の利用者でも快く受け入れてくれています。その理解を得るために、直接訪問してお話しするなどの事前準備も怠りません。
よく「利用者が包丁を持つことは危険なんじゃないか?」「利用者に盛り付けなんかさせていいのか?」という声も聞きますが、ここでは「利用者一人ひとりに役割をもってもらうこと」が大切だと考えています。利用者が役割をもつということは、その方の生きがいにもつながります。また、利用者にやってもらえるごとに、職員は「ありがとう」と声掛けをしています。そうすると、利用者は笑顔になり、どんどん活動も広がります。
利用者を認知症のある「人」ではなく、1人の人として「誰かの役に立っている」という実感をもってもらえることが、その方の自尊心の回復や認知症の進行予防につながります。利用者や職員の「笑顔」が、私のやりがいにもつながっています。
〈苦労していること〉
認知症ケアや、その人にとっての“最善”を更新し続けるために、人材育成に注力しながら自分自身も学び、挑戦を続けていきたいと考えています。
認知症対応型という、認知症と診断された方が通っている事業所であるため、認知症への理解が欠かせません。私自身も、東京都認知症介護指導者として、地域の方へ認知症の理解を広める活動をしています。その経験を活かして、職員教育や利用者サービスの向上に努めています。また、職員には、都や区が実施している認知症介護基礎研修や認知症介護実践者研修の受講を必須とし、リーダー層には認知症介護リーダー研修の受講を義務づけるなど、職員の資質向上にも努めています。
コロナ禍でも、必要としてくださる方々に支えられ、大きな影響は受けませんでした。関係者や地域とのつながりを密にしてきたことで、方法は変わっても、つながりが切れることはありませんでした。職員の日々の積み重ね、結果を、しっかりと評価していただけていたため、コロナ禍でも利用していただけています。
若年性認知症特化型の利用者としては40代の利用者もいます。若年性認知症の方は、すべての認知症の中でも1%程度といわれていますが、その中で、若年性認知症の専門の事業所を立ち上げたのは「足立区になかったから」です。
足立区は、人口約69万人と、23区の中では5番目に人口の多い地域であり、高齢化率も24.78%(2020年4月現在)と2番目の高さとなっています。その中で、必要性を強く感じて、若年性認知症に目を向けました。しかし、実際には対象の方が多いという現状ではありません。それは、65歳未満の方が認知症の診断を受けるということのハードルの高さがあるからです。実際には診断を受けたときには、すでにかなり進行した状態になっています。認知症になっても進行を予防するという視点をもち、報道による認知症に対するネガティブな認識を少しでもなくし、本人、家族が周囲にもっと相談できるようにしていきたいと思っています。
〈これからの事業としての方向性〉
運営自体を広げるかどうかは別として、さまざまな活動をこの地域で、当たり前になるよう行っていきたいと考えています。現在、計画中の活動もあります。利用者については、本人を中心に据えた支援を行い、基本を忠実に実践していくために、本人を知ることの大切さを追求し、それを活かしたケアを実践し続けていきたいと思います。
認知症があっても本人らしく、在宅生活を続けられる一助となれる事業所として、地域に必要とされる運営を目指していきたいと考えています。
■事業名:スマイル・エイジングパートナー
■事業者名:NPO法人スマイル・エイジングパートナー
■取材協力者名:八月朔日 晃一(NPO法人スマイル・エイジングパートナー統括施設長)
■事業所住所:〒121-0075 東京都足立区一ツ家1-2-1
■サイト:https://smile-ap.jp/
■取材・まとめ:福田 大輔(居宅介護支援事業所勤務)
■取材時期:2020年11月