〈コンセプト・特色〉
年齢を重ねても 障害があっても 居場所となる「まちづくり」
〈概要〉
取り組みの規模は人口3,700人、高齢化率48%の町の住民を対象として、地域密着型介護保険施設および放課後デイサービスの職員が地域の方の力を借りながら協働して、安心して町で暮らせる地域共生コミュニティを創っています。そのため、約3キロの細長い地形の中に拠点となる施設を住民の徒歩圏域に点在して設けています。
〈運営主体〉
「有限会社親和」
取り組みの主体は「有限会社親和」です。
地域密着型施設 デイサービス・グループホーム(さくらホーム)
小規模多機能とそのサテライト2か所(原の家・さくら荘・いくちゃんの家)
放課後デイサービス(さくらんぼ)
集いの場と宿泊施設(燧冶)
駄菓子屋(あこうや)
〈取り組みをスタートした時期〉
2004年4月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
施設開設者が舅の介護を通し、地域住民として認知され、周囲から気にかけられて社会性を保ちながら暮らすことの豊かさに気づいたからです。そのためには可能な限り地域で暮らせることの価値観を住民と共有する必要があると思い、まずは施設を開設して、その豊かさを住民に可視化していく必要があると思いました。
〈運営資金の確保〉
介護保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
16年前の施設開設時の認知症に対する住民の意識は、患者は何もわからなくなり、人格が変容し手のかかる存在と理解されていました。そのため住民にとっても、家族にとっても、そして何より本人にとっても、自宅で暮らすより町から離れた施設で暮らすことが安心で一番良い選択だと思われていました。
苦労したことは、当施設を使うと認知症の当事者が逃げて帰って来るから使えないと噂が流れたことです。また、当事者の方と町に出ると見世物にしていると批判されました。独居の認知症の方に対し周囲の住民の方に気にかけてほしいとお願いすると、自分たち(スタッフ)の仕事を減らそうと思って住民を利用としているなど……さまざまな心ない噂が流れました。
乗り越えて来られたのは、①スタッフ間にさくらホームのミッション(地域共生コミュニティの町づくり)が十分に共有され、人の尊厳を守るという意識の高さがあったこと。②地元の職員が民生委員や町内会長、こども園や学校と繋いでくれ、理解者を徐々に増やしていけたこと。③認知症に関する報道がテレビや新聞でされるようになり、流れに乗れたこと。④認知症の方が町の中で本人らしく生活されている姿を住民が見て、認知症になってもこのように暮らせたらいいとスタッフに伝えてくれたり、施設に相談に来てくれたいするようになり、スタッフが自分たちの仕事への肯定感がもてるようになったこと。⑤何よりも認知症の方が思いがけない力を発揮したり、認知症の方の笑顔や家族の理解が自分たちの幸福感につながり、乗り越える原動力になったりしたこと等が理由です。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
やってよかったと思うことは、「職員の地域化」と「緩やかな認知症ケア」です。
職員の地域化とは、町の方と顔なじみになる。何気ない会話をする。スタッフが地域住民、地域資源に頼る。町の行事に参加する等、しっかりと地域の方と関わることを意味します。
緩やかな認知症ケアとは、認知症の方を認知症とは捉えないで、不便なことが多い地域住民くらいとして捉えてケアを行うことです。徹底したリスク管理よりも自由を優先しているため、地域の方も気軽に支えてくれるようになりました。町の中で認知症の方が銀行や商店でモメルのも見慣れた普通の姿になっています。他の地域資源と協働できるようになってきました。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
スタッフに関しては、①がんばり過ぎて無償の超過勤務が多いこと、②スタッフ間の介護に対する意識のズレが拡大していること、③介護職の方はまじめで優しい人が多いので、ときには課題から逃げることも知ってほしいこと、といったところが悩みです。
その他、子どもの引きこもりにより、80代の親が50代の子どもの生活を支える「8050」問題を抱えた家庭が増え、50代の方の支え方に困難なことが多いといったところです。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
持続するための工夫は、次世代に繋ぐことと、郷土愛を育むことです。
学校への出前講座や地域外からの障害のある方との交流に向けたアプローチをしています。また、地域サロンなどで見守りマップづくりや、町のお宝さがしをしています。
さらに、認知症の方が放課後デイサービスにて有償ボランティアで子どものお世話や掃除をしたり、駄菓子屋での店番、集いの場・宿泊施設「燧冶」での掃除・洗濯やお茶会のお世話など、仕事に繋いで社会性を促したり、本人の趣味である囲碁教室やフォークダンス教室にも参加してもらい、住民の意識の変容をゆっくり待っています。
〈今後のビジョン〉
地域共生社会には官民連携の自主的な支え合いを地域文化として創っていくことが大切であると同時に、経済の地域循環もしないと持続は難しいと思っています。それを踏まえ、鞆の観光地としての地域性を生かして、観光×福祉連携を模索しているところです。
■事業名:鞆の浦・さくらホーム
■事業者名:有限会社親和
■取材協力者名:羽田 冨美江(有限会社親和代表)
■事業所住所:〒720-0201 広島県福山市鞆町鞆552