〈コンセプト・特色〉
介護職員の副業による要介護高齢者・認知症高齢者の旅行・お出かけサポートの普及事業
〈運営主体について〉
「一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会」
介護事業者4社で法人化。大手旅行会社、大手旅行専門学校、介護系資格講座運営組織の参画により「旅行介助士®」の資格を立ち上げました。その後、事業を本格化しました。2019年夏(東京)、秋(大阪)に行った介護旅行シンポジウムは、厚労省、観光庁ほか多数の後援、協賛をいただいて盛況に開催することができました。
〈取り組みをスタートした時期〉
2019年1月22日
〈概要〉
・旅行介助士®養成講座は、3日間55,000円で、国内添乗に必要な「国内旅程管理主任者」の資格取得と、介護旅行に必要な旅行企画、下見、同行、アフターフォローの方法や、介護旅行の危険・トラブルとその対処法、旅行会社・観光事業者との付き合い方などを学ぶ講座です。バス研修もあり、実際に旅行先を想定して様々なスキルを身につけます。
・現在、全国6カ所(山形、東京、千葉、埼玉、兵庫、岡山)で定員30名の「旅行介助士®養成講座」を開設。今後は、北海道、静岡、福岡で講座開設準備中です。年間(コロナで中止にならなければ)2回✕9カ所✕30名=540名の養成を目指しています。
・コロナウイルス感染拡大前は、キャンセル待ちが出るほどの予約状況でしたが、現在は東京、埼玉、兵庫以外は集客が見込めないため募集を中止しています。緊急事態宣言が解除された後に、講座を再開予定です。
・これまでは団体旅行を想定して養成講座を実施していましたが、ウィズコロナ、アフターコロナを見越して個人旅行にシフトしています。
〈取り組みのきっかけ〉
・理事メンバーがすべて介護事業者であり、介護旅行が普及していないことを憂慮していました。理事の法人では、旅行会社の協力を得て、毎年数度の介護旅行を開催していました。
・数年前に介護旅行に関する勉強会を、その他10法人ほどと一緒に発足。「なぜ介護旅行が普及しないのか」について研究していました。その結果、以下の3つが原因だと特定しました。
①サポート人材のミスマッチ
旅行業界、観光業界では、スタッフが「サービス介助士」などを取得してサポートが必要な高齢者、障害者の旅行を後押ししようとしています。しかし、大きく旅行者数が増えるにはいたっていません。理由は、サポート人材にあります。要介護高齢者は、旅行中の不安を託す人材として「初対面の人(他人)」には期待していません。不安が解消されないからです。
介護現場でよく「あなたと一緒に旅行がしたい」と介護職員に声をかける場面に立ち会います。お年寄りは、自分の体調を誰よりもよく理解していて、親子のように信頼関係があり、介助技術も確かである介護職員となら、旅行がしたいのです。
しかし、介護職員が介護旅行をサポートするには2つの課題があります。1つは「旅行知識(スキル)」です。そしてもう1つは、施設利用者からお金を直接いただいてサポートするとなると、介護保険法に抵触する恐れがあるのです。
そこで、介護職員に旅行のスキルをつけさせること。そして、介護職員が休日を利用して「副業」でサポートをする道筋をつけることが重要だという結論に至りました。
②法制度の壁
旅行を「介護保険外サービス」として介護事業者が実施しようとする動きがありますが、旅行業法では、旅行の企画・主催・手配・お金の収受をしてよいのは旅行会社に限定されます。つまり、介護事業者はどういう方法をとっても、旅行で利益を得ることはできません。
そこで、介護事業者にではなく、介助者に直接、サポート費用を支給する方法を模索しました。
③利益配分方法
現在は①、②の理由からボランティアで旅行サポートをするケースが多くあります。これでは長続きしません。整理すると、以下の2つを解決するために協会を立ち上げることとなりました。
・介護職員による旅行の知識、技術の習得
・介護職員の副業による介護旅行サポート手段の構築
〈運営コスト〉
立ち上げ時は、代表理事がコストを全額支出しました。その後は、理事は無報酬です。運営コストは、旅行介助士®の資格取得料収入でまかなっています。本部は介護業界に特化してコンサルティングサービスを提供する株式会社スターコンサルティンググループ事務所を間借りし、運営スタッフは、同法人メンバーが兼業・無報酬で行っています。
〈運営に必要な費用概算〉
80万円
〈運営資金の確保〉
自費、資格取得料収入
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
介護事業者の輪をつくること、旅行、観光事業者と連携すること、講座取得料以外の収入源を持つことの3つが、今後の課題だと考えています。
まず1つ目ですが、介護施設から外に出られずにいるお年寄りを施設の外に出すには、介護事業者の理解なくしては難しいと考えています。ましてや、副業で介護職員を人材として活用することは、所属する介護事業者の許可なくしては成しえません。
2つ目の旅行、観光事業者との連携については、実際これらの業者は「要介護者」や「認知症高齢者」「障害者」を客として受け入れることに、「本音としては」積極的ではありません。なぜなら、面倒が増える割には、利益が低いと考えているからです。サポート人材がいれば、彼らに手間をかけさせずに旅行ができます。その点を訴求していくことが大事です。
3つ目は、協会の運営を持続させるためには、しっかりと収入を得て自立することが重要です。講座収入だけでなく、広告収入などの獲得を目指すことがポイントだと考えます。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
・資格立ち上げにあたっては、介護、旅行の両分野のスペシャリストを集めて、何度もディスカッションしました。また、構築したノウハウの完成度を高めるために、理事の法人で実際に介護旅行を実施して検証しました。
・運転資金に余裕がないため、広告・販促コストが捻出できません。しかし、私たちの提供しているサービスは非常にニーズが大きく、社会性が高いため、PRに力を入れれば、マスコミが注目してくれるのではないかと考えました。その結果、多くのテレビ、ラジオ、新聞などで取り上げていただいています。そのおかげで現在は、広告ゼロで養成講座の参加者を集めることができています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
・旅行介助士®資格講座の開始により、全国に介護旅行の流れをつくることができました。コロナ前までは、介護施設を中心に団体旅行を企画実施したという報告が多数ありました。
・要介護高齢者、特に外出が困難な認知症高齢者がたくさん旅行に行けたことが何よりの成果です。「もう二度と旅行に行けないと思っていた」「旅行ができて幸せだ」と涙を流す方も多数おられ、やりがいを感じています。
・コロナ禍では、令和3年2月に、理事が経営する法人の仕掛けによって「富士山・日本アルプス絶景飛行」が実施されました。飛行機内は3分に1度、換気され、とても安全であるというところに目をつけて、「旅行介助士®と行く夢の遊覧飛行」という触れ込みで新聞と介護施設内で同時に募集したところ、2時間で完売。結果として240席の募集に対して500名以上が予約しました。当日は好天に恵まれ、たくさんのお年寄りが機内から見る富士山を楽しみました。まさに「夢の」遊覧旅行でした。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
現在、悩んでいることは3つあります。
①広告資金の捻出
前述のように販促費・広告費の捻出ができません。今後、介護旅行をさらに普及するためには、我々の持つ介護旅行に関する情報を発信することが大切です。旅行介助士®養成講座の案内を強化するためにも、販促・広告は不可欠だと考えています。
②オンライン講座の立ち上げ
新型コロナウイルス感染症の拡大により、集合研修が難しくなりました。この資格制度には「旅程管理者」がついています。旅程管理者は、オンライン化は不可となっています。しかし現在は、資格ニーズがとても高いため、個人旅行に特化してオンライン化できないかと模索しています。
③収益化
現在は、理事法人が手弁当で運営していますが、今後は収益性を高めて自立することが不可欠だと考えています。
〈今後のビジョン〉
今後、資格者を増やし、彼らにユニバーサルツーリズムに関する情報を発信して、活躍の場をつくることが、要介護高齢者・認知症高齢者の旅行の拡大につながると確信しています。
そのために、協会では以下のビジョンを描いています。
①100法人の参画
②1万人の資格者の養成
③年間10万人の要介護高齢者・認知症高齢者の旅行の実現
④2地域分割サポートの実施(発地と着地でサポート人材を分ければ、交通費が必要ない)
⑤海外での介護旅行人材の養成
これらの実現のために、今後も力をこめて運営していきたいと考えます。
■事業名:旅行介助士®養成事業
■事業者名:一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会
■取材協力者名:糠谷 和弘(一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会代表理事)
■事業所住所:〒105-0013 東京都港区浜松町1-27-9 トラスト浜松町6F