〈コンセプト・特色〉
美容室をそのまま、介護施設や病院、ご自宅にもっていくお客様の心に寄り添う訪問理美容サービス
〈取り組みの概要〉
弊社のサービスは、主に3つの柱があります。
メインとなるサービスは、「trip salon un.-訪問美容サービス-」です。
関東全域200以上の病院や介護施設、そして毎月60件以上のご自宅にお伺いし、疾病・怪我・ご高齢・妊娠中で外出の困難な方、ご家族の介護や乳幼児の育児で外出困難な方に訪問美容サービスを提供しています。
2つ目は、これから訪問美容を始めようとしている理美容師さんや学生の方に訪問美容に必要な知識や技術を教えたり、介護従事者の方や福祉の学校に、介護現場における超実践型の内容で、介護施設内で行われるシャンプーやブローなどの技術や毛髪に関する知識等を教えたりする教育事業です。
3つ目は、オリジナルの美容商材のプロダクト事業を行っています。2020年9月に発売した訪問美容師が考えた全身潤うHAIR &BODYシャンプー「UN.GLOBAL.GEL」をはじめ、こころとカラダが潤う、老若男女幅広い世代で使用できる美容商材を販売しています。2021年1月には「UN.GLOBAL. BATH POWDER」という入浴剤を販売しました。美容室ではシャンプーが気持ちのよい時間ですが、介護施設ではお風呂が気持ちのよい時間なので、よりこころとカラダが潤う製品開発を進め、「お風呂を制す」勢いで全国に商品を拡げる活動も行っています。
〈運営主体について〉
弊社は、「あたりまえのことをあたりまえに―新たなあたりまえをかたちに―」という理念のもと経営しており、弊社で働くスタッフは、この理念のもとサービスを生み出し、実際に技術・サービス提供を行っています。
この理念は、昔はカラーやパーマを介護施設では受けられず、ご利用者様自身、諦めなくてはいけなかったという現実があり、その現実を変えようと考えたものです。当時は、「特養カット」という言葉が介護の業界にはありました。髪を乾かしやすいように、髪の毛を早く切れるようにし、髪の毛を切る頻度を減らし、お金が減らないようにと、皆同じに短くする髪型で、集団的処遇の観点で髪を切っていました。
その当時は、ボランティアや500円くらいで、カットのみを行っている訪問美容が主流で、介護スタッフや看護師の方々がカットされている施設や病院もありました。
そのような中で、私が会社を立ち上げて契約第一号となる施設へうかがうことになりました。その施設では、私たちが訪問する前まではカットのみしか行われていなかったのですが、ご契約をいただき、カラーを導入しました。一人目のお客様はカットとカラーで予約され、施術を終えた後に、涙を流して喜んでくださりました。
そこで私は、なぜ病院や介護施設に入ったからといって、カラーやパーマを諦めなくてはいけないのかと疑問を強く抱き、外で受けられるサービスをすべてできるように、サロンクオリティーを高くすることによって、より笑顔の数が増えると思いました。そこから、ご利用者様の「ありたい・なりたい・やりたい」ヘアーを叶えて行くこと、理美容師が思う美容のあたりまえをカタチにしていくことが、きっと、この訪問美容業界の価値をより上げることができると思い、この理念を掲げ、現在も日々お客様一人ひとりに寄り添い、サービスを提供し、新たなサービスを打ち出しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
事業継続のための取り組みとしては、もともと理美容師は「待つ」ビジネスであったところを、「攻め」のビジネスに変更し、介護施設や病院などさまざまな営業方法で契約をいただきキャッシュを得ています。在宅に関しても、居宅介護支援事業所などに出向いたり、ホームページのSEO対策を強化したり、YouTubeなどのさまざまなSNSを駆使したりして訪問美容を知っていただくきっかけをつくり、弊社のご予約に結び付く攻めの姿勢で認知度を向上させ、予約増加の流れを生み出しています。
そこから今までの経験を理美容師の教育に活かしたり、BtoBとしてDtoC、BtoCで美容商材販売を行ったりして、生活に必要なモノまで、お客様の希望をカタチにして販売しています。
弊社のサービスは、蓄積型のビジネスであるため、急成長はなかなか困難なところはありますが、設立からの年数や、今までご利用くださった方という実績が安心・安全を生み、サービス利用者の増加や契約施設様の増加があり、経済の動向にあまり影響しないビジネスであるからこそ、安定的なビジネスです。
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
私は、中学校2年生のときに美容師になろうと思いました。その当時、私は父に連れられて、近くの床屋さんに通っていたのですが、なりたい髪型も自分の思う通りにならず、髪を切った後、学校に行くのが嫌でそれを友だちに相談したところ、その友だちが通っていた美容室を紹介してもらい、はじめて美容室に1人で行きました。
そこで私は将来の夢を決めました。まず、入り口に入って、美容室のシャンプーやスタイリング剤のとてもよい香り、清潔感のある白を基調にしたおしゃれで洗練された空間に惹かれました。最初は、美容室は女性が行く場所だと思っており、ビクビクして緊張していましたが、こころをときほぐしてくれたのは、私のことを担当した第一号の「花田さん」という美容師さんでした。その方の優しく温かい対応で、一気に緊張感がほぐれ、自然となりたい髪型を伝えたところ、なりたい自分に変身できました。そのとき、私の心の中は、髪を切って「誰かに会いたい」「学校に行きたい」という思いになり、その気持ちの変化に驚きを感じたと共に、こころとカラダを前向きな方向に変化させる美容師という仕事は、とてもクリエイティブな仕事と感じ、憧れを抱き、その1日で自分の将来の夢になっていました。
そして、現在の仕事「訪問美容師」になろうと思ったのは、専門学校2年生の頃の運営管理の授業で「どんな美容室を経営したいですか?」という課題があったときでした。私は元々おばあちゃん子ということもあり、そして自分の住んでいる地域に高齢の方々が多く、近所でも高齢の方々とのふれあいが多くありました。また、他の人と違うことをしたいと思っていたこともあり、考えていく中で、北海道は雪が積もる中で近所の高齢の方々が、「足腰が悪くなったとき、どうやって美容室に通うのかな?」という疑問から、インターネットで検索したところ、「訪問美容」というサービスが出てきて、その画面を見た瞬間、「これだ!」と思いました。
高齢の方が困っていることを、美容のクリエイティブな部分「こころとカラダを前向きにする」という仕事が、自分のやりたいことだと思い、また、その日1日で自分の夢を決断しました。
その前に技術を身につけなければいけないので、老若男女の方が通っていて、歴史ある美容室で修行したいと思い、美容のメッカである東京、原宿のSTUDIO Vに就職し、5年間修行しました。
美容師時代は、日々の仕事や自分の技術を身につけることに必死で、訪問美容は頭の片隅にあったのですが、私がスタイリストデビューをして数カ月後に、「訪問美容」を呼び起こし、本格的に動き出そうと思ったきっかけがありました。
それは、自分が担当したお客様の声でした。「母が変な髪型にされてしまった。湯浅さんに切ってほしい!」と立て続けに3人のお客様がおっしゃった日がありました。ここで、ふと頭に「訪問美容」が戻ってきて、「今の訪問美容の業界はどうなっているんだ?」と思い、バックルームに戻ってインターネットで訪問美容を検索し調べたところ、その画面を見たときに「危機感」を感じました。
5年前、自分が見た「訪問美容」と月日が経った「訪問美容」が、業界としてもそうですが、サービスに変化がなかったこと、目まぐるしく美容業界や他の業界は変わっているのに、訪問美容の業界は変わっていないことに、ある種危機感を感じました。
そして、美容師になってプロとしてそれを見たときに、正直自分が受けたいと思えるようなサービスではなかったし、自分の両親や祖父母に胸を張ってこのサービスをお勧めできないと感じてしまい、この業界を変えたいと感じました。自分だったらこの業界を変えることができるかもしれない、という根拠のない自信から、2012年8月、弱冠25歳の年齢で、お金も人脈も知識もない状況でこの業界に飛び込み、株式会社 un.を立ち上げ、「trip salon un.―訪問美容サービス―」のサービスをスタートさせました。
〈運営に必要な費用概算〉
300万/月
〈運営資金の確保〉
自費
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
もともとがボランティアからスタートしている事業だからこそ、単価を上げていくことと美容の価値を認知していただくために伝えていくことが最初は困難だった中で、より訪問理美容のプロフェッショナルとして、介護や医療の観点を学び、私たちのお客様である「ご利用者様」「ご家族様」「介護スタッフ」の方々3者の理解を深め、「3者に寄り添うには?」と多くを学び、3者との距離を徐々に縮め、美容の価値を地道にコツコツと伝えていきました。
そこでようやく理解を得て、今ではカラーやパーマをご利用くださる利用者様が増えています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
この訪問美容事業を行ったことこそが、やってよかったなと思うことです。
最初は憶測だった、「ご利用者様は、普段受けていたサービスを、どんな状況になっても利用したいと思っている」。それが本当だったことをお客様の口から聞けたことで、このサービスをスタートしてよかったなと思います。弊社のサービスを利用して泣いて喜んでくださる方や、弊社のサービスを利用して、リハビリをがんばって訪問美容を「卒業」し、元々通っていた美容室に戻ることができた方を生み出すことができたことが、このサービスを本当に始めてよかったなと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
サービスエリアの拡大が正直うまくいっていません。それは、しっかり血の通った方が訪問してほしいという想いがあるうえに、教育に時間がかかってしまうのと、エリアごとの特質や癖などがまだまだ把握できていないからです。そしてまだまだ価格重視のエリアがあり、アナログな業界だからこそ直接、営業を行わなくてはならない中で、まだ人員不足な部分があります。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
シンプルにお客様が求めていること、悩みや困っていること、こんなのがあったらいいよね、という声を一つひとつ、ていねいに失敗を恐れずにカタチにしていくことだと思います。
そこで美容師という枠にとらわれず、サービスを横展開していき、そのつくったサービスに想いをのせ、現状に満足せずに、もっとよくなるためにどうしていけばいいのかと、常に思い続けて行動していくことが大切だと思います。現状も、お客様のお声を全スタッフがアンテナを張りキャッチし、すぐに新規事業を行っていける仕組みづくりを行っています。
〈今後のビジョン〉
より訪問美容が世の中で認知され、困っている方ほど情報弱者の方が多い中で、美容で困っている方々の耳に入ることです。
そして、現在は介護施設に1~2件、訪問理美容業者が入ってサービス提供している中で、介護施設に入られている100人100通り、理美容師をご利用者様が選ぶことができて、安心・安全にサービス提供がされている世の中にしていきたいと思います。
そこで、より一層、介護士や医療の方々と訪問理美容師が連携をとって、ご利用者様に寄り添い専門的な観点で技術・サービス提供ができるようにしていきたいです。そのために、現在は私たちがやってよかったことや悪かったことなどを、包み隠さず、全国の理美容師の方々にYouTubeや公演活動で伝えています。
閉鎖的な業界だからこそ、訪問美容業界の変化が昔は進まなかったし、事故も起こってしまっていました。だから、私たちは経験したことを多くアウトプットして、安心安全にサービスを利用できる方を増やしていきたいです。
そして、お客様が思う、「あったらいいな」をサービスにこだわらず、美容商材やその他、美容の枠にとらわれずサービスを次々に生み出しカタチにしていき、お客様の問題・課題をいろいろな角度から解決できるような「LIFE SUPPORT COMPANY」にしていきたいと思います。
また、チャレンジしたい方のやりたいことがいつでもできる環境にし、安心して訪問美容ができる環境づくりを行い、一人ひとりが思う働き方を実現させ、みんなの夢が叶えられるような組織にしていきたいと思っています。
■事業名:訪問理美容事業
■事業者名:株式会社 un.
■取材協力者名:湯浅一也(株式会社un.代表取締役社長)
■事業所住所:〒107-0062 東京都港区南青山2-2-15 ウィン青山1403
■サイト:http://c-b-un.com/