〈コンセプト〉
認知症になっても希望と尊厳をもって暮らせる社会を創る
〈特色〉
認知症当事者、特に早期に診断をされ、介護保険などの制度に該当されない軽度の方が、「生きがい」をもって暮らせることが大切です。そのため、ご本人の活動(一人で難しくなった趣味の活動や誰かの役に立つ仕事など)を中心に置き、支える人材(家族・一般・専門職)の育成や、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりなど行っています。
〈運営コスト〉
ご本人の活動は、年会費3,000円や都度の参加費、寄付などで行っていて、その他の事業は助成金を利用しています。50万円以下の事業がほとんどです。
〈やりがい・モチベーション〉
先に認知症になった当事者の方々の著書や講演から、早期に認知症と診断を受けても適切な支援サービスなどがなく、「絶望」しかなかったことを知りました。介護保険だけでは、要支援の方や要介護度の低い方の生活を支えきれなくなっています。利用できる公的サービスが徐々に削られて、困っている人も多いです。軽度の方が安心して行ける場所、活躍できる機会が存在することは、将来認知症になるかもしれない自分たちにとっても希望となります。
また、「生きがい」や「役割」をもつことが認知症の進行を緩やかにするということを実証できれば、たとえ診断を受けても絶望することなく、前を向いて生きていけるのではないかと思っています。それを信じて日々、活動しています。
〈人材確保や人材育成の仕組み〉
現在は、丸尾がスカウトした人(自分の職業に誠実な人、プライドをもって努力している人)がスタッフとして、ご本人の生きがい支援や脳活性化プログラム開発の事業に関わっています。スタッフは、実践を通じて自分のスキルをどう認知症ケアにつなげていくか学んでいきます。
認知症サポーター養成講座修了者を対象に、播磨オレンジパートナーの「『支援力』アップ講座」(オリジナルの5回講座)を開催し、参加者の中からボランティアを募ることもあります。それまで認知症の方と接したことがなくて緊張していた人も、だんだん自信をつけて地域に出て活躍されるようになります。支援する人は、頼まれたからやるというよりは、自分がやることで認知症の方々の生きがいをつくっていると実感して、主体的に動くようです。そこは人材育成で大切にしている部分です。
その他、認知症にやさしいまちづくりの理解者や協力店舗を広げていくには、自分たちの事業を押し付けず、地域の一員として関係を築いた上で、無理のないよう理解・協力をお願いしています。
〈これまでに苦労したこと〉
事業として大きな失敗はありません。
ただ残念だと感じたことの一つに、認知症の軽度の段階で出会った方がいて、ご家族に正しい理解や情報を提供してきたつもりでしたが、認知症が進行するご本人に対する嫌悪の気持ちが増すばかりで、介護家族の「心構え」のようなものが全く伝っていませんでした。ご家族とのかかわり方は今後の課題だと思っています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
常勤のスタッフを確保できないことです。スタッフには、スキルアップの場としてボランティア的な活動を要求していて心苦しいです。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
持続させているのは、丸尾の熱意と気力だけ(笑)。SNSで事業をまめに発信することで、きちんと活動していることを示すようにしています。
〈今後のビジョン〉
設立から丸5年が過ぎました。今まで各事業を知っていただき、根付かせていくことに努力してきました。播磨オレンジパートナーという名前が少しずつ知られるようになったと感じています。
これ以上、事業の種類を増やすことはないと思いますが、これからはそれぞれの事業にもっと人材を増やすことで、他の地域に住んでいる認知症の方の活躍も増えていくのではないかと考えます。行政区画にとらわれずに、およそ25万人の西播磨のエリアの中を自由に行き来していただきたいです。
〈認知症ライブラリー(認知症に関する書籍や資料を集めた私設図書館)には、どのような方が来られますか?〉
認知症の診断を受け、まだオープンにできず悩んでいるような方が利用者になって、「尋問」のようなことをされない場所で、認知症の情報をもって帰ってほしいと思っていました。実際は、ご家族(相談)や介護職(夜勤で読む本探し)の方が、ちらほら。あとは、地域のイベントに参加したときに、スタンプラリーの人が来たりします(笑)。
〈オレンジガーデニングプロジェクトの手ごたえ〉
それぞれの場所でオレンジ色の花を育てて、9月のアルツハイマー月間・世界アルツハイマーデーにオレンジ色の花を咲かせようという全国的なプロジェクトに、播磨オレンジパートナーも賛同し実施しました。
すごくとは言えないですが、手ごたえはありました。新聞に掲載していただいたことで、これまで挨拶程度の関係だった園芸好きのご近所さんが協力してくださったり、隣町の地域包括支援センターが連携してくれたり。西播磨という圏域には、7市町があって、これまでもいろいろと連携を呼びかけていました。ほとんど無視されていましたが、今回は反応がありました! 多めに見積もって100カ所を目標にしていたのですが、40カ所ぐらい協力してもらえました。
〈地域の変化〉
事務所のある「龍野城下町」に限ったことですが、2017年、兵庫県が、認知症サポーター養成講座を受講した店員がいる店舗を「ひょうご認知症サポート店」として登録させる事業を開始したのを機に、城下町の親しい店舗さんにお声がけをして、初年度は地元14店舗が「サポート店」として登録されました。
また、たつの市では2016年から龍野城を、世界アルツハイマーデーから1週間ライトアップし始めたのですが、京都タワーや姫路城ほどインパクトはありませんでした。そこで2018年に「龍野城下町オレンジキャンペーン」をサポート店の有志に提案し、ライトアップ期間中の日中は、サポート店がオレンジ色やオレンジの味にちなんだ商品をお客様に提供し、認知症啓発を行うことを開始しました。その後、2019年は30店舗、2020年は龍野地区川西商店会の協力もあり、40店舗が参加してくださるようになりました。
このようなつながりができたことで、店舗の方が住民の異変に気づいたり、認知症の方の介護に悩んでいるご家族がいたりすると、まずは播磨オレンジパートナーに相談をしてくれるようになりました。同じものをたびたび買いに来るお客さんがいると気にしてくださったり、認知症であることを隠すことが減っているように感じます。また、当事者の方が、有償ボランティアで行う仕事の依頼をくださったり、良い関係が築けていると思います。
■事業名:「認知症にやさしいまちづくり(播磨オレンジパートナー)」
■事業者名:NPO法人播磨オレンジパートナー
■取材協力者名:丸尾 とし子(NPO法人播磨オレンジパートナー代表理事)
■事業所住所:〒679-4165 兵庫県たつの市龍野町本町47
■取材・まとめ:下猶 好恵(小規模多機能型居宅介護勤務)
■取材時期:2020年11月