〈コンセプト〉
「どんな状態でも(病気や障害の有無を問わず)どこで暮らしていても(病院や施設、在宅を問わず)人としてあたり前の生活が保障される地域づくり」を目的に高知市内に拠点を置いて活動しています。そのために、人としての尊厳を保ち、自立を損なわず、二次障害予防のできるケアを広げるための活動を行っています。
〈特色〉
ナチュラルハートフルケアネットワーク(以下ナチュハ)は、現場で働く人間でつくっており、目の前の人、自分たちが関わる人を良くしたいとの思いからスタートしました。私たちの活動を見て、いろんな地域の人がやってみたいと声をかけてくれ、各地域の勉強会の立ち上げ等の協力をしながら徐々に広がっていきました。自分たちで積み上げてきたノウハウのすべてを全国の仲間に伝えています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年4月
〈概要〉
高知の拠点は一般社団法人格を取得し活動していますが、全国のネットワークはボランタリーな非営利として分けています。法人格を取得した理由は、全国のネットワークを組織化することが目的ではなく、高知県内での活動が大きくなってきたときに、公的な事業の依頼も出てくるようになり、自分たちのやりたいことを達成していくためには本腰を入れて人材育成をしていく必要性を感じたからです。目標をきちんと持って結果を出していくために、仕組みをつくり、より責任をもった活動を行っていくために、法人化し、現在の組織となっています。
〈取り組みのきっかけ〉
ケアをよりよくしたいと医療・福祉職が集まり、福祉機器展や研修の活動をしてきたことがきっかけです。目の前の人の暮らしが豊かになるまでのケアの質向上ができる、それを普及したいという考えから始まり、豊かな生活を可能にする地域を作ることを念頭に置いて活動を続けています。
〈運営コスト〉
全国のネットワークのナチュハは非営利で活動をしています。高知も各地域、ピースと同じで必要な部分のお金を参加費等で集めるだけで、ボランティアで動いているので費用は発生していません。
一方、一般社団法人は県からの事業費や、法人内での研修でコストを発生させて職員雇用をしています。ボランタリーネットワークで講師を務める部分と、活動の企画や仕組みづくり、事業化が必要なことは法人格で整理をして動いています。公的なところから依頼をもらって動くこともあり、活動を通して、地域の資源として認知されてくると、外に出て活動する機会が増え、情報発信につなげていける部分もあります。全国の各ピースも同様に、行政や学校などからオファーがきてケアの話をすることもありますし、イベントに出て行ってノーリフティングなどのケアの実演をしたりすることもあります。
組織の中で仕事をしているだけでは、どんなにやりがいがあっても疲れたり、視野が狭くなってきたりすることがあります。ナチュハでの活動を通して、いろんな専門職と関わる機会を持てること、ネットワークを組んでの活動は部活動のようでもあります。うまくいかないことがあるとへこむこともありますが、全国の仲間との情報交換や相談ができることで、また頑張ろうと思えます。他の地域の良いところを参考にし、お互いに刺激を受ける関係性となっています。
ボランタリーな活動ですが、その活動を通して広がり、次の展開にも繋がっていて、福岡は法人格の取得に至りました。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
高知での活動が法人化したことは持続していくためでもあります。目標に近づくことを考えると、余暇活動的に行うのはとても無理です。全国の地域、ピースによっては法人化しているところもあります。そのメリットは公的なところと結び付いて活動していけることです。資金繰りを考えなくてよくなる面もあります。また、行政と専門職では、視点が違うので、企画段階から一緒に考えることで単なる事業の実施や表面的な数字の結果ではなく、利用者の生活に届く企画もつくれます。そして動きが確実で早くなります。実際に県とタイアップできるようになり、法人格を取得し、5年かけてできなかったことが1年で結果まで出せるようになっています。
さまざまな職能・職種団体の代表が出席する会議にナチュハとして声がかかり、参加しています。そういった会議にナチュハが入ったほうがいいと思ってもらえるのはうれしいです。ナチュハがボランタリーにやっている活動に対して、「この助成金を活用してやってみてはどうか」等の話も入ってくるようになりました。また、他の職能団体とのコラボレーションにもつながっています。ナチュハがやった方がいい、相談しようと思ってもらえるようにもなっています。ナチュハの各地域、ピースや地域を変えたいと思っている人にも、他の団体とつながれるスキルをもてることを伝えていきたいです。
〈人材育成のしくみ〉
以前は勉強会を継続的に行っていました。目標が明確でないものを行っていた時期もありましたが、今は人材育成を明確にして体系化しています。人材育成セミナーとして、新人職員向けのファーストステップ研修、一般職員向け、リーダーや指導者向けと階層的になっており、教わる立場から教えていくまでを考えています。指導者までの研修を受けると次は、教える側に回ります。最初はサブとして先輩と一緒に研修に入り、慣れてくると教える側として指導に入りますが、その時には先輩指導者がついてチェックして、合格が出たら独り立ちとなります。
高知の新人職員向けのファーストステップ研修は、今後はe-ラーニングにしていく予定です。これまでのように集合研修の形で開催をするのは、人員不足で多忙な医療・介護事業所の現状を見ても難しい状況があります。さらに、新型コロナウイルスの影響もあり、e-ラーニングのかたちを考える事にもつながりました。
当初はどの事業所に入職してもファーストステップ研修の受講と、事業所で指導できる職員を養成していくことを目標にしていましたが、たくさんあるすべての事業所で実施するにはやはり無理がありました。e-ラーニングを取り入れることで、当たり前に受講できるようにするべきと考えました。
しかし、e-ラーニングを取り入れることが目標ではなく、リーダーを育成し、職員一人ひとりに落とし込んでいくことが大切だと考えています。勤務時間の中で教育の一環でe-ラーニングの受講を行い、リーダーは必ず教育計画を立てて受講後のチェックまでを行いOJTとしても活用します。習ったことが職員自身に落とし込めているか、情報を入れて知識につながっているか、チーム全員が習慣化しているかのチェックまでを行い、OJTはここまで行うのだというリーダー養成にも力を入れていく予定です。
こうした取り組みを行うことで、生産性向上に向かっています。人材が不足する現状やこれからにおいては、業務の無駄をなくし、ケアの質を落とさない工夫は必須です。人員基準の緩和も検討されています。そうしないと事業継続が難しい状況があります。忙しい状況が、さらに忙しくなることが見込まれます。そうなるとますます学びの場に行かせにくい状況が発生します。事業所内での研修も形骸化していく可能性があるので、学びを継続させるために、業務時間内に研修を組みやすくしていこうと考えました。
〈これまで苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
最初の段階において、全国に広げたいと考えてスタートしなかったことは良かったと思っていますが、広がってきたから見えてきた課題もあり、テクニックを学びたい、個人スキルを磨きたいという目的で繋がってくる人もいます。もちろんケア技術の勉強会も行いますが、「何のために行うのか」を大切にしており、それは組織も同じだと思います。
組織づくりやマネジメントをやっていくことが急務で、生産性向上はもちろん大切だけれど、原点である一人の人を大切にするマインドが重要だと感じています。一人の利用者の自立を促進し、二次障害を予防することも組織力やリーダーの力がないとうまくいかないと、ここ数年感じているからです。全国で同じ課題を感じて動いている仲間、地域を良くしたいと思っている人には何でも提供しています。全体を見ることができずに、技術だけ学んでも効果は出にくいです。組織づくりも地域づくりも一緒だと感じています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
現場に直結することをしているので、目の前の利用者や、実際に関わる当事者がケアを変えることで良くなることはとても多いです。それを体感できることや、人に伝えて、伝えた人がそれを実現できた話を聞くことで喜べたりすることが、やりがいやがんばろうと思うことにつながっています。自分が実際にすることによる変化ということよりも、地域や組織が変わって良くなってきている話を聞けるととてもうれしいです。
高知ではこの活動をもう20年継続していますが、個別の利用者の相談が入ることも増えています。全くの外部の人間である私たちに、退院前のカンファレンスから支援の要請が来たりすることもあります。認知されていて、「困ったときにナチュハにお願いしよう!」と、頼られることがモチベーションになっています。専門職として、困った人へのサポートができるようになりたいという思いで、後輩がついてきてくれることもモチベーションになっています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
何が目標なのか、今やっていることが目標、目的につながっているのかを考えないと、技術向上、テクニックの研修になってしまいますし、専門職はそこに目を向けてしまいがちです。そうなると、活動することが目標になってしまうので、振り返りながら修正をかけてきました。修正していくと、やることが違った、変わったと思ってしまう人もいて、目標が最初から見えずに入ってきた人は去ってしまうことがありました。そのこと自体が悪いことではないですが、難しいなと感じています。
〈今後のビジョン〉
今まで取り組んできたことを継続するのはもちろん、いろんな地域で地域を引っ張っていくリーダーを育成していきたいと考えています。現場が人員不足などで疲弊していく中で、より質を上げていくためのコアな研修会を行う余裕はなくなっていくことも見越して、研修をパッケージ化したものをナチュハのメンバーが広めていくことができれば、目の前の人のあたりまえの生活の継続につなげていけると思います。
2040年に100万人も介護職員を増やすことは難しく、人員基準緩和の国の方向性を批判する人もいますが、現状を見ると仕方がない面もあると思います。人員が増えなければ薄くするしかないし、このままでは間に合わないという思いがあります。ロボットも、ICT化も、ノーリフトも考えて対応していく必要があります。その人が暮らしたいと思う生活の質を低下させない現場を残していくことに取り組んでいきたいと考えています。
2020年より、海外からもナチュハを立ち上げたいという話がきています。今後もナチュハでは、自分たちが分かっていることはドンドン伝えて一緒に進んでいくことを目指していきます。
■事業名:ナチュラルハートフルケアネットワーク
■事業者名: 一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク
■取材協力者名:下元 佳子(一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事)
■事業所住所:〒780‐0870 高知県高知市本3-6-37かわさき予備校ビル3階
■取材・まとめ:安保奈緒(老人保健施設勤務)
■取材時期:2021年3月