〈コンセプト〉
福祉をひらく
〈特色〉
今の箱型の介護施設は、共有の場で展開されておらず、箱の中だけで展開されている営みです。例えば、公園のような場で誰かが接客していれば人の目があり、その姿を誰かが見て、なんらかの影響を受けたりもします。
箱(福祉施設)の中での出来事は、外から見えないし、「社会側」に影響を与えません。地域の中に空間的居場所(商店や集いの場)が減少している今、もっと福祉が外(町)から見えるようになっていくことが大切だと思うと同時に、ミノワホームの庭を、よりパブリックにし、ベンチや木、日陰をつくり、地域の人も気兼ねなくひとやすみできる場が必要だと思いました。
もともと、アパレル業界で働いてきた立場からの視点もあったのかもしれません。法人が外へ向けて何らかの影響を与える存在になる必要があると考え、この発想が生まれました。
〈法人概要〉
「社会福祉法人愛川舜寿会」
・常勤50名、非常勤70名
(1)第一種社会福祉事業
特別養護老人ホーム
(2)第二種社会福祉事業
ア 老人短期入所事業
イ 老人デイサービスセンター
ウ 老人介護支援センター
エ 生計困難者に対する相談支援事業
オ 保育所
カ 一時預かり事業
キ 障害児通所支援事業
(3)居宅介護支援の事業
(4)配食サービス委託事業
〈運営コスト〉
庭の改修コストとして、壁を壊して、アスファルトをはがしたり、廃棄処分したり、レンガの積み上げや建築デザイン、その他建築費などで、計2,800万円程度の改修費用をかけています。
〈始めたきっかけ〉
2016年10月30日に、施設の外壁を壊しました。きっかけは、街にベンチがなくなってきたこと。「座る場所」がどんどん街からなくなっていたことがあります。高齢者がシルバーカーで歩いている姿を見る一方で、街にはバス停のベンチ以外、座る場所がなくなっていました。
以前は、街に昔ながらの商店が300メートルおきぐらいにあって、良い休憩所のような役割も担っていましたが、どんどんそういった商店がなくなってきていました。大型ショッピングモールができたことで、シャッターを下ろした商店がたくさんあります。そこで失われたものはコミュニティだと感じていました。
ヨーロッパや東南アジアなどの国を訪れると、路上に座ってみんなでお茶をしたり、街中でくつろげる場所を多く見る機会がありますよね。ちょっと一息できるベンチを復活させることができれば、「コミュニティが復活できるのでは?」と思い、入居者・地域双方が受益者になるような場をつくろうと思いました。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
壁を壊し、地域の人に開かれた場にすることで、変な人が入ってくるんじゃないかという反対の声が多かったです。「知らないものは、怖い」という心理です。
ミノワホームからほど近い場所にある津久井やまゆり園の事件は、2016年7月に起こりました。ミノワ座ガーデンの取り組みは、2016年4月から「距離デザインプロジェクト」という名前で大学生たちと取り組みを始めたところでしたので、まさに計画し始めた矢先の事件で、大きな衝撃となりました。当時は、まずは利用者の安全を優先に、危険から身を守ることが最優先される流れになり、これから地域に開く上では、大きな向かい風になる出来事でした。
「壁を壊して誰でも入ってこれるようにして、大丈夫なのか」という反対職員の声は、もともとあって、さらにこの事件がそのゼロリスク思考を後押ししました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
庭を開いて、職員が変わりました。天気が良ければ外でお茶を飲もうとか、今までは施設の中の廊下をリハビリとして歩いていましたが、庭で散歩をするようになったり。施設の中を往復するよりも、日光や風にあたるリハビリは有効です。
以前は、利用者を外に出すのも事前に計画しないとできませんでしたが、庭ができたら「綺麗な桜が咲いているので、庭で散歩しましょう」と自然に声をかけることができるようにもなっています。
まちの人たちにも、職員と要介護高齢者の営みが見える化され、ベンチに座って談笑したりする姿が見えることが大切だと思っています。街の人が庭に来るようになったり、近隣の保育園の子たちのお散歩コースになっていたり。施設の中のお年寄りが庭に来ている子供たちに手を振ったり、そういった何気ないやりとりは、生活の質そのものを変えます。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
今はコロナで人が集まれず、これまで庭で行っていた流しそうめんや、夏の大イベントである夏祭りも、昨年は自粛しました(2021年現在)。
〈継続する仕組み、工夫〉
キッチンカーが週に何回か庭に来ています。タコス屋、唐揚げ屋、パン屋、ベトナム料理屋、オムライス屋等。庭をつくっただけで終わってしまっては意味がありません。外部とのつながりを醸成していくことが大切だと思っています。
移住者やマイホームを建てた人たち等、地元土着ではない人たちにこそ、足を運びやすい場をつくることは、地元の福祉法人として意味があることだと考えています。地域の人が、特養の生活に触れる距離に接近してくれること、その中で利用者と言葉を交わしてくれることも大切なケアの資源だと思っています。
なるべくさまざまなことを庭でやるようにして、地域に見えるようにしていくことを意識しています。
〈今後のビジョン〉
組織の理念やビジョンをいかに内部だけでなく外部に向けていけるか、そこに共感を生めるかということなので、開かれた営みをつくるかということに重きを置いていきたいです。
今後は、「春日台センター」という現在は活用されていない旧商業施設跡地で、コミュニティ拠点を立ち上げます。そこには、小規模多機能型居宅介護とグループホーム、放課後デイサービスや寺子屋、ランドリー併設のカフェ(就労支援事業所)も運営しつつ、地域に開かれた場にしていく予定です。
施設づくりではなくて、文化づくりです。地域共生文化拠点と銘打って「社会を優しくする」拠点にしたいと思っています。
■事業名:ミノワ座ガーデン
■事業者名:社会福祉法人愛川舜寿会
■取材協力者名:馬場 拓也(社会福祉法人愛川舜寿会常務理事)
■事業所住所:〒243-0301 神奈川県愛甲郡愛川町角田140-3
■取材・まとめ:高瀬 比左子(NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表)
■取材時期:2021年3月