〈コンセプト・特色〉
「行ける 会える 楽しめる」高齢になっても、障がいがあっても、行きたい場所へ行ける、会いたい人に会える、そして、人生を豊かに楽しんでいただけるようにサポートする取り組み
〈取り組みの概要〉
個人事業主。高齢であったり、障がいがあったりすることで、一人では外出が難しい方のサポート(介助や介護)をしながら、同行する仕事。散歩や買い物、墓参り、冠婚葬祭への出席などの日帰り旅行から、観光旅行、クルーズ、家族旅行などの宿泊がともなう旅行まで付き添います。遠距離介護の家族の代わりに、話し相手や、衣替えなどの依頼にも応えています。
株式会社あ・える倶楽部、鹿児島県旅行業協同組合にも所属し、ユニバーサルツーリズムなども含めて旅行企画・手配・添乗員も務めています。
また、日頃の業務を活かし、旅行・観光・サービス業にむけて、障がいのある人へのおもてなし方法を伝える「ユニバーサル研修」、介助者育成のための「車椅子操作方法レクチャー」「ホスピタリティ研修」、一般から医療・福祉・介護業界の人に向けて、高齢者の外出の効用を伝える「おでかけは脳トレ、リハビリ」などの講演会も開催しています。
地域包括ケアシステムの構築のためにも、混合介護が必要であり、公的介護保険外サービスの重要性も説いています。
2020年は、全国の医療・福祉・介護事業所および地域コミュニティに向けて、「オンライン観光」を行い、つながりのある社会、多様性のある社会づくりを目指しています。
〈運営主体について〉
「介護旅行ナビ」
個人事業主、代表・堤玲子
・鹿児島県鹿児島市で活動中。鹿児島県内の高齢者、障がい者を県内外の外出、旅行へお連れすると同時に、県外からのかたの鹿児島での受け入れも行う。県外の同業者や、福祉タクシー、民間救急などと連携しての移動のサポートも行う。
・外出支援コーディネーターやトラベルヘルパーとして、株式会社あ・える倶楽部(東京)、鹿児島県旅行業協同組合(鹿児島市)に所属し、旅行企画、手配、添乗、介助人を担う。
・スタッフは3名。全員、ダブルワークで仕事の受注のときにアテンドスタッフとして仕事をしてもらう。
〈取り組みをスタートした時期〉
2015年1月15日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
20歳代から身内の介護にかかわってきて、40歳代で介護生活から卒業。介護に携わっていたときに、要介護者や入院していた者が、年に2回の外出に生きがいを見出し、楽しみをもち、まわりとの関係も良好になっていくのを体験しました。本人だけでなく、まわりの医療・介護関係者も、明るい声かけができるようになり、連れ出す自分自身も癒やされました。
でかけた先の観光、飲食にかかわる人の声かけ一つで、外出が豊かになることも体感しました。ただ、自分一人では限界もあり、もう一人手伝ってくれる人がいたら、もっと遠くに連れていけた、もっと楽しませる余裕ができたのに、という悔いが残り、母親、祖母、父親、叔母と見送ったあとに、知った「トラベルヘルパー」というサービスを知り、「今度は、私が、その”もう一人”になりたい」と、ヘルパー(介護職員初任者研修)、添乗員、トラベルヘルパーの資格をとり、起業しました。
〈運営コスト〉
初期費用300万円。起業時は、小規模事業補助金を活用して、ホームページ代金やチラシ代金、パソコン購入費を賄いました。起業して4年は、訪問ヘルパー、デイサービスヘルパー、ホームホスピスなどで、介護の勉強をしながら、旅行会社の添乗員をし、営業し、リピーターができてきたところで、訪問ヘルパーとホームホスピスを退職しました。
5年目からは、外出同行サービス費用、研修費、講演会費用、添乗員費用、ユニバーサルツーリズムコーディネター料などで、運営しています。
オンライン観光は、採算がとれる部門ではありませんが、営業ツールとして活用しています。
介護付き外出サービスを、社会に認知してもらい、持続可能な仕事であるようにし、外出により、生き生きと瞳が輝きQOLを上げる高齢者をもっと増やしたいです。
「自宅に帰る」「孫に会う」「冠婚葬祭に出席する」そういう場面で、重度の認知症と診断された方も、喜びや、コミュニケーションがとれた事例は枚挙にいとまがありません。
この仕事が、日本の未来に貢献できるものであることを、発表し続けたい。書籍出版も視野に入れて活動中です。
〈運営に必要な費用概算〉
7万円/月
〈運営資金の確保〉
自費
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
異業種からの参入だったため、起業して1年は、チラシを配布しても捨てられました。
「バックにどこの病院があるのか?」「介護事業所なのか?」「経験もないのに、ただでさえリスクの高い高齢者を外出に連れていって責任は誰がとるのか?」など、医療・福祉の人に、ことごとく言われました。また、「障がい者から金をとるとは?」と言われたり、「障がい者は外出同行の仕組みがあるから、あんたのような人は、必要ない」などとも言われました。
自分が高齢の祖母や父の介護をしているときに、外出に連れていってくれるサービスに出会わなかったことと、障がいのある叔母も入院中は障がい者の外出支援サービスが使えなかったことから、「昔の自分のような人が、世の中には、一人ぐらいいる! その一人のためにも、そのひとに、情報が届くまでは続けよう」と思って乗り越えました。
一般の人向けではなく、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど向けに、外出同行サービスの説明会を続けて、具体的な事例を出して、一人ずつに理解をしてもらうように心掛けているうちに賛同してくれる人が出てきて、口コミでの依頼が増えました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
お金はあっても、介護施設に入居すると、お財布が施設に握られてしまった(実際はそうでなくても、本人が自由に使えなくなる、と思ってしまう)という高齢の方が、お買い物を楽しむ、好きな演歌歌手のコンサートに行ける、会いたかった遠くの家族に会える、まさに、1回の仕事のたびに、感動があります。
立てなかった人が、桜島を見たくて、柵越しに伝い歩きをする、誰にも話せなかった、と戦争のつらい話をしだす、認知症と診断された人が、私にそっと布団をかけてくれる、などなど、ご家族も知らないその方の深い想いに触れることができます。
家族旅行では、「私も旅を楽しめています、うれしい」との声もいただきます。
一つの案件のたびに、やっていてよかった、と思います。
また、実際の事例を講演することで、医療、介護職の人が、「うちの◯◯さんも、家に帰りたがっていた」「あの人も、今なら、ふるさとが見られるかも」などと、意識を変えてくれることも嬉しいです。
話を聞いた人が、介助講習にきてくれるのも、うれしいです。介護職の人が「休みの日に、休みのメンバーで、家を見せに付き添いました」などの声があると、一緒にうれし泣きします。
ユニバーサルツーリズムなどでは、車椅子ユーザーだけでなく、多様な障がいのある人とツアーをつくる、そうすることで、障がいのある人同士のいたわりあいや、声かけあいが生まれて、LGBTも含めて、多様な人が生きやすい社会の縮図に感じられて、やりがいがあります。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
新型コロナウイルス「COVID(コビット)-19」により、施設に入れなくなったことです。身寄りのない方も多いので、悩みは大きいです。LINEやZoom、Skypeでは話が通じにくく、困っています。こればかりは、早い収束を祈るばかりです。手紙やカードなどで、コミュニケーションを続けるように努力中です。
オンライン環境が整ってない、ヘルパー不足もあり、つないでもらえないところもあり、ジレンマは大きいです。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
リアルな外出を促し、同行する仕事なので、今は、福祉・介護事業所向けに「オンライン観光」を開催しています。高齢者に喜んでもらうだけでなく、その周辺の介護職をはじめとするスタッフにも元気がもらえた、と好評です。レクリエーションの要素を取り入れているので、終わったあとに、ご利用者が、自分の旅行の話を始めたり、子どもの頃の遠足の話が出たり、活気が出ると喜ばれています。心が動けば、身体も動く、オンラインでも同じ現象が見られていることが嬉しいです。
Zoomを使った「介護付き旅行」の事例発表の場もつくっています。
また、私たちのような、外部の者だけでなく、地域の人や、身内の人が、車椅子で、近場の散歩ぐらい連れて行ってもらえたら、という思いで、介助者研修・講座も開催しています。
「外出」とは、身体が移動するだけでなく、「心の旅」もあるのだということを、これからも伝えていきたいです。
〈今後のビジョン〉
リアルな旅が一番、最後になりがちな高齢者や障がい者が顧客のため、介護付き外出の仕事は、あまり全面には押し出せませんが、逆に、遠距離の家族の代わりの病院付き添い、などが増えているので、離島向けのチラシなどもつくりなおす予定です。
今のうちに、鹿児島のバリアフリー状況なども調べて、2023年の鹿児島国体、障がい者大会やインバウンドが動き出すことも想定して、観光・旅行業と連携して、自治体レベルの講演会や、介助者研修を増やして、受け入れ体制を整えることに力を入れたいです(2020年は、旅行会社のインバウンド向けバリアフリー状況の動画による発信のサポートを行った)。
福祉・介護の従事者と、観光・旅行従事者がコラボして知恵を出しあえば、地域に活力が出ると信じています。そのパイプ役になりたいです。その地域同士が、オンラインでつながりあい、知恵を共有できたら、どんなに暮らしやすいことかと思います。
つながることをあきらめない。
会える、行ける、楽しめる、自分が掲げたモットーに向かって、オンラインも活用し、高齢者も障がい者も、行きたい場所に行けて、会いたい人にあえて、楽しくすごせる地域づくりを視野に、これからも邁進していく予定です。
そして、私一人が発信しても、広まりは小さいので、介護旅行の本、オンライン観光の本なども出版して、一人でも多くの人に、豊かな人生のツールとして、外出を楽しんでほしいと思います。
■事業名:介護旅行ナビ(外出同行自費サービス)
■事業者名:堤 玲子
■取材協力者名:堤 玲子(介護旅行ナビ代表)
■事業所住所:〒892-0831 鹿児島県鹿児島市船津町1-11-3