〈コンセプト・特色〉
シェアオフィス・シェアハウス・コミュニティスペースの、3つの機能を有した家
〈概要〉
①シェアオフィス:4つの法人(医療法人ささえる医療研究所、株式会社ささえる、NPO法人とものむら、合同会社岡)が入居して、それぞれ業務を行っています。業務中も、ちょっと悩んだり困ったりしたことがあれば、お互いにすぐ相談し合う関係です。②シェアハウス:現在、SASAERUグループのスタッフ4名が入居しています。コロナの影響で現在はほとんどありませんが、2019年までは、研修・講演等の際に道内・道外の方が月平均2〜3名ほど宿泊されていました。③コミュニティスペース:暮らしの保健室、姉妹都市交流、餅つき・蕎麦打ち・流しそうめん等のイベント、算数数学検定や寺子屋(勉強会)等の学ぶ場として活用しています。
〈運営主体〉
「SASAERUグループ」(グループ代表・永森克志、ささえるさんの家オーナー・山田奈緒美)■医療法人ささえる医療研究所(以下、医療法人):訪問診療を中心に、外来診療・訪問看護・居宅介護支援を運営し、地域の方が最期まで住み慣れた地域で生活を送れるよう支援しています。■株式会社ささえる(以下、株式会社):皆が生き生きと働ける環境づくりとして、医療法人のバックオフィス業務(総務・人事・経理・経営企画など)を中心に、他事業所のコンサルや立ち上げ支援等を行っています。 ■NPO法人とものむら(以下、NPO):「まちづくり」という理念のもと、子どもから大人まで、障害がある人もない人もともに活動しています。隣市・三笠にあるファームの運営、大小・内外問わずさまざまな勉強会の運営、聞き書き活動、電子書籍の出版等を行っています。 ■合同会社岡(以下、合同会社):「まちづくり」という理念に共感し、なおかつ、時間に縛られない働き方を行いたいと考え、SASAERUグループのスタッフが2021年1月に起業しました。居宅介護支援事業を運営し、地域の方が最期まで住み慣れた地域で生活を送れるよう支援しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年11月2日(住宅の契約日)。その後リフォーム工事を行い、2018年1月から入居を開始しました。
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
ささえるさんの家オーナー・山田奈緒美:医療法人前理事長の村上智彦(以下、村上先生)と医療法人現理事長の永森克志(以下、永森先生)は、「男たちの楽園をつくりたい」という話をずっとしていて、その話を聞ききながら、自分自身が何をやりたいかをずっと考えていました。その後、村上先生が56歳の若さで亡くなり、永森先生が体調を崩した時に、2人の先生たちが語り合っていた夢を実現するなら今だと考えました。
ちょうどそのときに今の物件を不動産会社から紹介され、前の所有者が「山田さん」という方だったという縁もあり、購入を決断しました。この物件はもともと高校生の下宿で、ここで過ごした人が巣立ち、また新しい人を迎えるという人が集まる場でした。その「ものがたり」を紡ぎたいという思いを、住みながら徐々に形にしていきました。
〈運営コスト〉
物件の購入やリフォームに当たっては、住宅ローンを借りて行いました。月々の返済額は、普通にアパートを借りるのと同じくらいの金額であり、なおかつ、4法人と4人の住人が入居することで家賃収入も得られ、事業の持続可能性を確保できています。
月々の支出についても、入居している4法人・4人の住人でそれぞれ応能負担しています。
〈運営に必要な費用概算〉
住宅ローンの返済、水道光熱費、消耗品費、通信費等を合わせて、月平均約20万円
〈運営資金の確保〉
自費、入居者からの家賃収入
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
ささえるさんの家オーナー・山田奈緒美:最も苦労したのは立ち上げ準備の時です。築44年の家であるため、如何にお金をかけないでリフォームするかという点で悩みました。また、当初は家族や周囲の方に反対されており、共感や理解を得るまでが大変でした。
しかし、こつこつと作業する姿を見て協力してくれる人が少しずつ増えていき、また、永森先生にお願いして医療法人のスタッフに声をかけていただき、さらに協力してくれる人が増えました。株式会社の井上社長が全面的に協力してくださり、医療法人の看護師・小坂さんは入社前にもかかわらず、ずっと手伝ってくれました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
現入居者の声を聞いてみました。
■岡卓矢:SASAERUグループ入社と同時に、ささえるさんの家に入居しました。高校生の時は寮で、大学生の時は下宿で生活をしており、共同生活に対して元々抵抗はありませんでした。皆さんのおかげで特に負担を感じることもなく、程よい距離感で楽しく生活を送ることができています。また、この度の起業にあたっては、永森先生からアドバイスをいただき、ささえるさんの家を所在地として登記・起業する運びとなりました。
■後藤田千明:SASAERUグループ入社と同時に、ささえるさんの家に入居しました。今まで寮生活をしたことがなく親からも心配されましたが、共同生活に馴染めたのは住人のおかげだと思っています。負担もなく、無理することもなく生活できました。距離感がちょうどよかったと思います。いろいろな人と出会える場で、泊まりに来られたお客さんとも交流することができました。
■山田優弥:SASAERUグループ入社後、看護学校2年生になった時にささえるさんの家に入居しました。入居前と比べて、さまざまな人と交流することができ、横の繋がりができやすくなったと感じています。
■山田奈緒美:新たに入社してくるスタッフにとって、引っ越し等のハードルを下げることで入社しやすい場所になることを常に意識しています。その中で、入居している方から上記のような感想をいただけたことがよかったことです。また、周囲の方から「本当の家族よりも家族だね」、近所の方から「そこにいてくれるだけで安心」と言われることがあり、うれしく思っています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
■岡卓矢:今の時点で特に問題は生じていませんが、仕事をしている人と生活をしている人が共存している場なので、その線引きの難しさはあります。その「ごちゃまぜ感」が合う人と合わない人とがいるとは感じています。
■山田優弥:現在では来る人が固定されており、もっといろいろな人が集まりやすい場所、もっとオープンな場所にしていけたらよいと感じています。地域の人と付き合うのは挨拶から、交流するきっかけを自らつくることが大事だと思っています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
運営資金については上記の通りです。入居者同士の程よい距離感を保つための工夫(?)は、あまり細かいルールを設けないことです。というより、1つしかルールはありません。「浴室を使用するときには扉を閉め、使用後は扉を開けておくこと」です。
また、さまざまなイベントや活動を行うことが活性化につながっており、そのためには「自分たちが無理せず楽しくできる」ということを心がけています。
オープン1年目は主に近所の方に知っていただくことを意識して、内覧会や公園散策などのイベントを行いました。その後、徐々に道内外から泊まりに来られる方が増え、2年目は宿泊された方と交流するイベントを主として行いました。3年目はコロナの影響により来訪される方は激減しましたが、入居者でオリジナルグッズを制作・販売したり、オンラインイベント行ったりしました。今後もそのときどきの状況に合わせながら、さまざまなイベントや活動を行い、人が集まる場にしていければと思います。
〈今後のビジョン〉
最初の思いの通り、人の集まる場になればよいと考えています。今はシェアオフィス・シェアハウス・コミュニティスペースとして運営していますが、そのときの人や状況によって運営方法は変わっていくと思いますし、変わっていくことがよいことだと思います。
振り返ると、オープン1年目は対面のイベントが多く、3つの機能のうちコミュニティースペースの要素が強い年でした。2〜3年目は入居者も増えシェアハウスとしての要素が強くなったと思います。4年目の今は入居する法人が4法人に増え、シェアオフィスとしての要素が強くなってきていると感じます。
このように、時間の経過と共に運営方法等が自然に変わっていく様を、今後も楽しんでいきたいと思います。
■事業名:ささえるさんの家■事業者名:SASAERUグループ■取材協力者名:岡 卓矢(合同会社岡) ■事業所住所:〒068-0835 北海道岩見沢市緑が丘4丁目221番地87 ■サイト:https://www.facebook.com/sasaerusannnoie