〈コンセプト・特色〉
「自立支援」を追求することが「生きる」ことの本質につながるということを、誰もがわかりやすいかたちで日本全国に伝え、日本国民の「介護」に対するイメージを革新する
〈概要〉
これまでにない新しい街づくりを実現するためには、そこに住む一人ひとりのパラダイムを変化させる必要があります。すなわち、「地域共生社会」を実現する鍵は、一人ひとりの「心」の革新です。
「介護」に関しては、問題の深刻さから「絶望的な未来予測」となることが多いといえます。ただし、介護の本質「自立支援、生き甲斐支援」を追求することは、「生きる」ことの本質を理解することにつながります。「本当の介護」は、人に希望をもたらすものであるという意味を込めて、それを「介護の志事」と呼ぶことにしました。
私たちは「介護」の本当の志事を日本国民、なかでも未来を担う子どもたちに届け、一人ひとりの「心」を革新するツールとして絵本を選択しました。絵本により、介護の志事に取り組む仲間があふれ、多世代が豊かに交流する未来の日本を思い描きました。
絵本作成には、高齢社会の当事者でもあるデイサービス利用者も参加し、6歳から94歳の多世代のメンバーが1つのチームとなっています。現役の介護職員が感じる「介護」の志事に対する想い、介護施設を利用する当事者が感じる想い、双方の想いが含まれていることにより、多世代に「介護」の魅力を発信することができるのです。また、絵本という手段を用いることにより、幼少期から「介護」を正しく理解し、「介護」を身近なものとして感じる人が育つことで、日本の将来を担う人材育成に貢献することができるといえます。
〈運営主体〉
「介護・福祉啓発活動事業NEXT INNOVATION」
「一人ひとりが“自分を生きる”未来を創る」を理念に掲げ、
① 「介護・福祉職をあこがれの職業にする」介護・福祉サポーター事業
② 「介護・福祉分野の次世代のリーダーを育成する」育成支援事業
③ 「あたらしい仲間とともに介護・福祉のインフラを創造する」コミュニティ運営事業
④ 「介護・福祉に携わる人が、介護・福祉に携わる人を支える」プロデュース事業
を展開しています。
私たちのいるこの現在は、過去の未来です。今、私たち一人ひとりがアクションを起こすことで、これからの未来を切り開くことができます。また、1人では小さな力であっても、チームで力を集結させることで、明るい未来を創ることができると信じ、志に共感をした仲間とともに活動を行っています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2019年10月5日(プロジェクトの構想を発表)
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
多世代を視野に入れた「地域共生社会」の街づくりにおいて特に課題が多いのは、高齢者に関わる分野、中でも「介護」です。未婚率の上昇、晩婚化、平均寿命の延伸等の理由により、日本の少子高齢化は加速し続けています。団塊の世代が後期高齢者に達する2025年には、人口3人に1人が高齢者という時代が到来します。しかし、高齢者を支える介護職の担い手の供給が追いつかず、人手不足が深刻な問題となっています。
人手不足における要因の1つとしては、「介護」に対する「きつい」「汚い」「つらい」などの悪いイメージが社会に浸透をしていることが挙げられます。食事、入浴、排泄介助が主たる業務と思われがちな「介護」ですが、「介護」本来の志事は、高齢者の自立支援、生き甲斐支援です。
これまで、介護・福祉に携わる者に対する発信・交流の場を提供し、大きな枠組みは構築できましたが、未来を担う次世代への発信力不足が課題でした。誰もが遭遇する「介護」の未来は、日本の未来と言っても過言ではありません。日本の抱える社会問題に対し、未来を担う次世代に向けて「介護」の本当の志事を伝えることで、「介護」に対するイメージを明るく前向きなイメージに変える必要性を強く感じ、介護の絵本プロジェクトの構想を発表しました。
〈運営コスト〉
①絵本作成、販売費用
通常は高額な絵本出版を、自分たちで作業分担し製本代金のみで出版しました。プロジェクトメンバーと無報酬契約を締結しています。
そして、出版社(三恵社)の仕組みは、1冊から受注発注(1,500円/冊)が可能で、在庫リスク等の大きな費用負担がありません。また、買い取りで880円/冊と単価を下げることができます。主に、三恵社がAmazonで販売者となり、弊社は事務負担がなく販売ができています。印税は約95円/冊です。作成、販売において金銭リスク、事務コストがほぼないスキームとなっています。ただし、このプロジェクトは絵本の作成、販売そのものが目的ではありません。
②寄贈プロジェクト費用
寄贈にかかる総費用は概算で3,000万円と試算しています。その資金調達は絵本販売の収益の他に、介護甲子園最優秀賞のブランディングを利用したスポンサー・寄付金募集、クラウドファンディング等を計画しています。資金の不足分については、弊社事業の年間収益を全投資し5カ年でプロジェクトを完遂する予定です。介護・啓発活動事業NEXT INNOVATIONは利益追求が目的ではなく、介護・福祉業界に革新をもたらし「一人ひとりが“自分を生きる”未来を創る」という理念を追求しています。その足掛かりとなるこのプロジェクトには実現以外の選択肢はありません。
〈運営に必要な費用概算〉
寄贈プロジェクト5カ年を平均すれば、50万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、寄付、その他の公的補助、スポンサー募集、クラウドファンディング
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
絵本作成に関しては素人集団でプロジェクトを始動したため、出版社探し、作成のイロハ等、準備期における苦労があったことは事実です。それらを乗り越えられたのは、個々のメンバーの力を結集し、チームの力として発揮できたからです。その要因は以下の3つです。
①最初に大きな夢を掲げたことで志に心から共感をした仲間が集まり、強靭なチーム形成が可能となったこと。
②メンバーの特技・長所を最大限に活かした形とし、絵本作成に携わったすべての人が自分事として駆動したこと。
今回のプロジェクトでは、絵本作成を通じてメンバー自身の生き甲斐を体現できるよう考慮し、それぞれの得意分野を活かすことのできるポジションを任命しました。そして、「互いに信頼されている」と感じられる環境があることで、それぞれの長所を最大限に発揮し、プロジェクトを自分事として捉えることができました。
③プロジェクトが具体的な「成長・変化・革新」をもたらしたことで、チーム力が進化していったこと。
例えば、下絵を担当した94歳のメンバーは、94歳という年齢でありながらも、改めて人と人との繋がりを感じながら、自分らしさを開花させることができ、日々の活力となっています。加えて、担当した他のメンバーにも「革新」をもたらしました。作成に携わったメンバーそれぞれが、自分自身の生き甲斐を感じることができ、自分への自信が生まれてきました。
「介護」というとても小さな世界で培われる思考、感覚は限定的になりがちですが、それらを一新し、まだ見ぬ未来へ進む活力を得ることができました。個人のイノベーションなくして社会を変えることはできません。一人ひとりのイノベーションが渦となり社会を変革していくことになります。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
絵本をツールとして社会に変革をもたらしたいという想いでスタートした本プロジェクトですが、自分たちとしては「挑戦」でした。うまくいくかどうかは誰も保証してくれません。ただ、とびっきりの想いを込めて全力でこのプロジェクトに取り組んだ結果、当初の想像以上の社会的なインパクトが生まれました。
下記に列挙するすべてがこのプロジェクトに「挑戦」しなければ得られなかった結果であり、もし仮に失敗していたとしても、志を共にする仲間と挑戦する過程そのものが夢のように充実した時間であり、報酬であったと言えます。
・新人であれば3,000部売れればヒットと言われている絵本業界で10カ月間の累計発行部数は約2,200部となっています。
・発売以降、新聞7誌、雑誌2誌、Webメディア2誌、その他、CBCラジオや24時間テレビ等のマスメディアで紹介されました。
・販売による収益で全国の図書館への寄贈を行い、現在14都府県、182施設の図書館への寄贈を完了しています。
・下絵を担当した94歳は、絵を描くという生き甲斐を感じることで2015(平成27)年9月に要介護度1から要支援2へ介護度の改善がみられ、これは現在も維持しています。
・絵本プロジェクトに共感する2法人からスポンサーの応募がありました。
・一般社団法人日本介護協会主催「第十回介護甲子園」にエントリーし、全国8,219事業所の中で最優秀賞を受賞しました。
・地域の子どもがこの絵本の読み聞かせを特別養護老人ホームや認知症カフェで行い、地域の多世代が交流するきっかけとなっています。
・絵本の出版を知った同じ県内にある菊華高等学校では学生たちによる絵本作成が行われ、絵本を作成した学生だけでなく、他の学生たちも母校の中学校、地元小学校、図書館へ絵本配達人として寄贈を行うという、学生たち全員での取り組みに発展しています。
この結果は特に「地域共生社会」の実現においてヒントとなります。社会にはさまざまな職業があり、トップに立つ人間や前に出ている人間だけで社会が成り立っている訳ではありません。すべての人間が、誰かを支え、誰かに支えてもらいながら生きています。このことを、高校生のうちに学生たちが体感し、形にしたという報告を受けた際は、絵本作成における大きな役割を果たすことができたのではないかと、プロジェクトメンバー一同嬉しく思い、今後へのモチベーションになっています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
プロジェクトメンバー全員が介護に何らかのかたちで携わる人間です。それは、ひとが「生きる」ことを支える介護職員だからこそ、共につながり、助け合いながら生きるという地域共生社会の体現者となれると考えたからです。
日本の介護職員全体のミッションとして地域共生社会の実現という社会問題に取り組みたいのですが、現段階においては介護職員にその想いは十分に届いていません。社会的な評価のほうが先行しています。1つには、多くの介護職員が「介護」という日々の現実に疲れ、大きな夢を追う希望をなくしているからかもしれません。この絵本プロジェクトを介護職員に届けることで、希望を与えることができると考えていますが、希望をなくした介護職員にはこの絵本は届きません。その矛盾はこの絵本の普及が進むことで解決すると信じています。いつかすべての介護職員に希望が届くようにしたいと思います。
また、寄贈プロジェクト全体の実現は現在の自分たちにとって大事業ですが、生き甲斐という目に見えないものに対する共感を呼ぶことは難しく、プロジェクトを応援してもらうための仕組みづくりに着手することができていません。これからの課題です。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
プロジェクトで最も慎重に進めてきたことは「どういう結果になっても失敗がない」という状態で計画を進めることです。「夢を追う」という行為にはロマンがある。その言葉の響きの前に「少しくらい無茶してでも」、「これくらいのリスクを負ってでも」という危険な判断をしてしまう可能性は大きい。人によっては人生を大きく歪められることさえあるということを真摯に受け止めました。「勢い」だけでは持続させることなど到底できません。その夢を確実に実現させるためにも、慎重に計画を組み立てて、実行は大胆に行いました。
例えば、「絵本の作成」については、プロジェクトメンバーにとって、自分の特技を活かせる活動であり、その過程そのものが報酬でした。仮に絵本作成が途中で終わってしまったとしても、メンバーにとっては得難い経験となったでしょう。また、前述のように、金銭的なリスクや事務コストを最大限減らすことに成功しており、仮に1冊も本が売れなかったとしても、損失は微々たるものです。
〈今後のビジョン〉
2020年5月11日に介護の絵本『つむぐ つながる 共に。』を発売。発売と同時に啓蒙段階にシフトチェンジを行い、プロジェクトに共感するスポンサーの募集、特設サイトの設置、読み聞かせ動画の配信を行い、全国の図書館への寄贈プロジェクトを始動しました。
今後は、さらに5か年で全国の小中学校29,960校への寄贈を計画しています。絵本のタイトルにもある「共に」。子どもから高齢者まで、すべての世代が「共に生きる」という考えを持つためには、誰もが遭遇する介護について、幼少期から学ぶことのできる環境を整える必要があります。今回の介護の絵本を通して、あらゆる世代の一人ひとりの個人が自分らしく輝き、共につながることでさらに輝きを増し、明るい日本の未来の主役となっていくことをビジョンに掲げています。
■事業名:94歳が描く、絵本で伝える本当の介護の志事(しごと)
■事業者名:介護・福祉啓発活動事業 NEXT INNOVATION
■取材協力者名:松本 広樹(プロジェクトメンバー)
■事業所住所:〒454-0005 愛知県名古屋市中川区西日置町10丁目107