〈コンセプト・特色〉
農業を通じた多世代交流、社会参加、生きがいづくり
〈取り組みの概要〉
宮崎県小林市の社会福祉法人ときわ会敷地内にある果樹園・ハーブ園・温室及び畑にて、地元の宮崎県立小林秀峰高校農業科の学生と当法人の施設入居者及びデイサービス利用者が、一緒にスイカやブロッコリー等の野菜果物類を栽培し、併設の温泉で販売を行っています。それまで、なかなか外部に出たがらなかった入居者の方々が、孫と同じくらいの年代である高校生に促されることで、徐々に自ら参加してくださるようになりました。本取り組みを通じて、多世代交流はもちろんの事、身体機能の維持や生きがいづくりにもつながりました。
〈運営主体について〉
「社会福祉法人ときわ会」
運営主体である社会福祉法人ときわ会は、特別養護老人ホームやデイサービス等の高齢者施設や小規模保育園・児童発達支援事業所等の福祉事業に加え、温泉施設等の収益事業を併設運営しています。また、敷地内に農地や果樹園等があり、活動の場所(農地や加工場所:デイサービスキッチン等)の提供、参加者及び補助者の調整を行っています。宮崎県立小林秀峰高校農業科は、農畜産業の盛んな宮崎県小林市の農業技術及び技術者育成を支える学校で、全国的にも優れた農業技術を有しているだけでなく、地元と連携した活動にも積極的に取り組んでいます。
〈取り組みをスタートした時期〉
2018年5月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
施設利用者の方の多くが元農家ということもあり、自立支援を促すことを目的として果樹園や温室・畑を整備したのですが、施設職員がいくら声掛けをしても、利用者ご自身が遠慮されたり、外に出たがらなかったりと、なかなか思ったように活用が進みませんでした。ところが、たまたま施設職員の子どもに利用者の方に外出を促してもらうと、前向きになられる様子を目の当たりしたことから、地元の農業高校に相談し快諾を得られたことがきっかけです。
〈運営コスト〉
農地の維持費はほとんどかかりませんが、備品(日よけ・農機具類)や車路(運搬車両・車いすの方の通路等)、休憩場所の整備等が必要です。当初のハード整備には、農林水産省の農山漁村振興交付金事業(農福連携対策)を活用しました。また事業の持続性を担保するには、販売先の確保が必要不可欠で、当法人では温泉を併設していることから、地域の方に直販することができています。また、活動の間隔があくと意欲が低下するため、単一栽培でなく複数の種類を栽培することで、ある程度は通年で活動できる栽培計画が必要だと思います。
〈運営に必要な費用概算〉
2万円/月程度(減価償却除く)
〈運営資金の確保〉
自費、その他の公的補助、収穫物及び加工品の販売収益
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
施設職員の理解が一番のハードルだったと思います。やはり、作業時の転倒や怪我のリスクはありますので、農業リハビリを行うことによるメリットとリスクをしっかりと説明し、理解してもらうことに時間を割きました。
ただ説明するだけでなく、太陽光による体内時計のリセット効果や、回想療法や農業療法による効果、ハーブ等の効果効能、認知症の方に対するそれぞれ期待される効果等を学術論文で調べる等、医科学的根拠を用いて説明し、漠然とした「良いらしい」ではなく、明確な有用性を理解してもらうことで、これらの課題を乗り越えました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
すでに利用者の方が、高校生がいなくても自ら収穫に行き、袋詰めして、販売先の温泉に納品してくださっていることです。数年前までは「一日が待ち長い」とおっしゃっておられた方が、「楽しい」と言ってくださることは何より「やってよかった」と感じています。また、利用者の方が元農家の場合だと、高校生が積極的に栽培ノウハウを聞いて会話が広がっていく光景は意外な発見でもありました。高齢者と高校生の交流というだけでなく、ベテランの貴重な農業技術が若手に引き継がれていくという点についても、地域貢献につながっていると感じています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
第一に、新型コロナウィルス感染症の拡大により、高校生の参加ができなくなってしまったことです。高校生の行動範囲が広いこと、参加者が高齢者であることから、どうしても接触することができない状況となってしまい、活動を大きく縮小・停止せざるを得ませんでした。高校生との交流がなくなったことで、目的を半分失ったような形となっています。自前で準備した椎茸床で収穫や加工を続けていますが、温泉の利用客も激減の為、収入も大幅減となっています。今後、同様の感染症拡大期等においては、どのように対応していくべきか、十分に検討しておく必要があると痛感しています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
参加する方にとって、目に見えるかたちのインセンティブが必要だと思います。しかし、労務賃金で出すと、①所得制限にひっかかる可能性(生活保護の方等)がある、②デイサービス利用時間帯の参加はケアプランに盛り込んでおく必要がある(サービスの二重給付等)等の課題がありますので、参加された方の希望をあらかじめ把握しておく必要があると思います。
また、近隣の高校等、地元の教育機関を巻き込むことで、「●●家のばあちゃん、ひさしぶりやね!」等、地域のつながりも活かすことができ、お互いに参加しやすい環境をつくれるだけでなく、持続性も高い計画にもっていけると思います。
〈今後のビジョン〉
今回のコロナ禍での反省点を踏まえ、地元の高校生だけでなく、施設併設の保育園児童や近隣の農家とも連携した野菜の栽培に取り組んでいこうと考えています。併せて、収穫した野菜を使って保育園での食育活動や調理レク、温泉で休眠中の食堂を利用者の方に手伝ってもらう等の取り組みができれば、より持続可能な事業展開を図れないかと模索しています。また、作業を通じた心身機能・生活リズムの変化や、睡眠を含むバイタルデータの収集を通じて、認知症の症状やADLの維持・改善にどのように寄与できるか等の医科学的知見の収集にも努めたいと思います。
■事業名:農業高校との農福連携事業
■事業者名:社会福祉法人ときわ会
■取材協力者名:坂口 和也(社会福祉法人ときわ会理事長)
■事業所住所:〒886-0003 宮崎県小林市堤4380