〈コンセプト・特色〉
孤立・孤独支援、当事者の必要な地域資源を、当事者主体で創る(0から1の活動)
〈取り組みの概要〉
契約・競争・成果主義への傾斜の中で、財政面の制約があり、地域の谷間が広がってきました。その谷間の一つである、若年認知症の人の孤立・孤独に向き合ってきました。そして、新しい社会のあり方を具体的に考え、実行するために、新しい社会の創造を当事者と一緒に考えてきました。
2004年:地域で孤立する若年認知症の人と家族に出会う(課題を知る)
2009年:家族会と共に相談の場と居場所をつくる(相談・居場所をつくる)
2011年:国・都道府県へ、相談事業と居場所の設置等を要望(ソーシャルアクション)
2014年:組織の法人化(持続性・循環)農福連携をスタートさせる
再雇用先の創出と地域共生・活性化(新たな仕組みを検討)
2017年:奈良県若年認知症相談事業のスタート(持続性のある相談)
早期支援体制、確定診断前後の本人支援
2018年:奈良県本人の会のスタート(本人の主体性がある場)
2019年:持続可能な収益活動(持続性のある場の検討、行政・企業との交渉)
2020年:奈良県若年性認知症ピアサポート事業構築
若年認知症のプロジェクトを、約16年行う中で、この数年間若者たちにプロジェクトを手伝ってもらいました。その若者たちと接しているうちに、若者たちの社会での生きづらさを知ることになりました。若者たちは、それぞれ将来の不安や過去の体験等の心の闇が深く、孤立・孤独な状況になっていました。そこで、2020年、孤立・孤独を感じる若者たちを中心とした、当事者主体活動をスタートさせました。
〈運営主体について〉
「一般社団法人 SPSラボ若年認知症サポートセンターきずなや」
代表理事:若野 達也
【代表経歴】
小学校5年生のとき、祖父が入院した病院の認知症の人への対応に疑問をもつ。日本福祉大学に入り高齢者福祉を専攻。医療法人・障害者施設・行政障害福祉を経て、認知症グループホーム古都の家学園前を設立。その後若年認知症の人の支援がないことを知り、若年認知症サポートセンターきずなやを設立。
・全国若年認知症家族・支援者連絡協議会 役員
・公益社団法人日本認知症グループホーム協会 奈良県支部長 代議員
・奈良市医師会平城京セミナー 委員
・NPO法人認知症フレンドシップクラブ 理事
・奈良追分認知症×農業プロジェクト 代表
・奈良県認知症・若年認知症ネットワーク会議 委員
・アルツハイマー病国際会議 委員
・在日英国大使館認知症ヤングリーダーズ メンバー
・大阪府若年認知症ネットワーク会議 委員等への参加。
【厚生労働省事業】
■保健福祉分野における民間活力を活用した社会的事業の開発・普及のための環境整備事業
■地域共生社会の実現に向けた若年性認知症を含む認知症の方の就労、社会参加等の支援のあり方と市町村、県と地方厚生局、労働局との連携方策、関係機関の役割に関する調査研究
■若年性認知症の人の生きがいづくりや就労支援のあり方検討委員会
■「高齢者の農福連携(仮称)」の事業委員会
■認知症官民連携会議
協力 住民主体の共生型地域づくり及びその社会的価値の見える化と地域マネージメントに関する研究
【農林水産省事業】
■農福連携 農村漁村振興交付金
【経済産業省事業】
■経済産業省ヘルスケア産業課 介護ロボット又ICT機器等における認知症
■認知症に優しい街のアプリ
などに関わっています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2009年4月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
2004年、介護保険制度がスタートしましたが、要介護者である若年認知症の人の介護サービスを事業所が拒否する、また本人が高齢者アクティビティに拒否感を出し、利用できない状況になっていました。結果、本人・家族は、誰の支えもなく、世帯での支え合いが中心となります。介護が必要になっても、相談できる場や居場所がないため、本人は状態が悪化し、家庭崩壊状態に陥っていました。このとき、若年認知症の孤立・孤独や地域の社会資源のなさ、狭間問題に向き合うことになりました。
〈運営コスト〉
介護事業所の運営をしているため、利益をすべてこの活動に使っているほか、個人の資金を投入しています。また、さまざまな助成金や補助金で、若年認知症の人の居場所や支援をできる環境モデルをつくりながら、ソーシャルアクションも行うなどして、自分の団体が行うことでなく、地域に多くの協力者ができるような活動をしています。
自分のやりたいことでなく、地域や課題当事者がやりたいことを後方支援し、最終的には自分たちで活動できるようにしています。
〈運営に必要な費用概算〉
約60万円
〈運営資金の確保〉
自費、その他の公的補助、自治体予算
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
①若年認知症の理解を広げること:過去の高齢者認知症のイメージからの脱却(一人ひとりのやりたいことを伝えることと、地域問題として伝えることの目線の違い等)、メディア出演や当事者の講演会など、若年認知症の本人の声を地域に伝えていっています。
②居場所をつくること:若年認知症の人のニーズはそれぞれ違いますが、現状は、既存の使える場を利用できるように(公的施設や居酒屋、時には友人宅など)しています。理想の目標までのプロセスの理解が共通されていないので、すぐに理想を求めることで、プロセスのプロトタイプが失敗に思われやすくなってしまいます。理想までには時間がかかります。
③地域の多種多様な人々との共同:当然地域住民は、若年認知症・地域福祉課題の視点だけではありません。それぞれの組織・経済重視の人も多くいます。それぞれの課題がある中で、共通言語もないので、当たり障りない議論になるか、大揉めになるか、感情の起伏が激しい状況も多々あります。人との信頼関係は、そんなにすぐにできるものではありません。5年10年のビジョンで考えないと、持続可能なものにたどり着けないのです。キラキラ系や一発花火を上げることは容易でも、地元での継続のために、地元の大切なものを、地道な活動で守るような活動を目指しています。
④孤立・孤独のそれぞれの領域:現状制度で対応すべき人たちが、制度での利用を拒否する、また事業所が拒否することもあります。居場所を地域の団体等に求めています。それは、よいことではありますが、団体のキャパがあり、多くの人には対応できません。「地域で行う当事者活動」と「制度内で行う当事者活動」などの役割を考えた方がよいと考えています。理想は、そんな枠を必要としなくても、当たり前に地域で、やりたい選択肢があればよいのですが。現状は、資源がない状況であるので、地道なプロセスを実践しながら、できるところから一歩一歩進まないと、理想に届かないと思い活動しています。
⑤予算の確保:既存の制度で支えられない課題に対しては、予算などありません。新しい権利についても同じだと考えています。うちの地域福祉の場合、活動を小さく継続していくことと、自分たちで、収益を上げていけるような活動のチャレンジを行なっています。そのための補助金や助成金申請を行なって、一つひとつ実践を積み上げています。
⑥他分野との連携:企業等に説明する場合等、きっかけが難しい。知り合いがいる、企業側からのアクションなどがあれば、スムーズに進むこともあります。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
社会課題の提言・要望をみんなで行うことにより、課題解決に向けた制度ができます。制度ができることで、地域に具体的な居場所・サービス・相談機関等が設置されました。また、地域との観光地活動7年で、地域に必要な場が蘇ってきました。近隣住民や過去観光地に来られた方々が、梅の花等を見に、たくさん訪ねてくれています。さらに若者の支援を行うことで、多くの若者と認知症の人・地域住民など、多種多様な世代が集まれる場所になってきました。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
一時的にも支援を必要とする人たちがたくさん訪れますが、それに応えられるスタッフが2人しかいません。制度外の活動には、予算がないのです。既存の制度の中では、令和の課題解決が合わなくなっていると感じていますが、過去の制度のやり方では、そのニーズを放置する可能性があります。あふれている目の前の課題に向き合うのに必死です。
既存の制度である資源も、本来の役割を果たしていないことがあり、そのことによって、地域活動へ負担をかけることがあります。予算のあるところは、本来の役割に使って欲しいです。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
新しい課題や権利に向き合い、考え、実践をするための方法を考えることです。新しいことを考えるときに、実践するときに失敗するのは当たり前です。失敗をさせない仕組みは、無難なフォーマットしかできないので、補助金・助成金等の使い方を柔軟に考えてほしいです。
個人的に、当初は私が先頭を切りますが、活動が安定してくると、先頭を当事者等に譲ります。本来、活動を継続する思いの強い人にバトンタッチするのです。思いがあっても、予算やチャレンジをする体力がないため、最初のかかわりが重要と考えます。
私のやりたいことでなく、地域や社会課題の当事者のやりたいことを進めるので、「最初の壁に穴を開ける役割」と「安定した形をつくる役割」を分けて考えています。
〈今後のビジョン〉
①農福連携:現在、有職菓子御調進所の老松さんと連携して、大和橘の商品をつくり、限定販売をすることができています。今後、量や大きさ等をよりよくし、安定した商品をつくるようにしていき、観光地としての魅力を深め、認知症・若者等が働ける仕組みにしていきたいと思っています。
②若年認知症のピアサポート構築事業を、より本人主体の運営に切り替えたいと考えています。
③若年認知症や若者支援等の地域活動を、SNSや動画でより多くの人へ発信していきます。
④若者の孤立・孤独支援で、当事者の法人をつくり、若者が新しい社会のあり方を考えていけるような組織ができるように支援していきます。
■事業名:若年認知症サポートセンターきずなや
■事業者名:一般社団法人spsラボ若年認知症サポートセンターきずなや
■取材協力者名:若野達也(一般社団法人spsラボ若年認知症サポートセンターきずなや代表)
■事業所住所:〒631-0055 奈良県奈良市大和田町1914−1