〈コンセプト・特色〉
「人は“専門性”に相談するのではない。人は安心できる人に相談するのだ」という、当たり前のことに気が付きました。カフェ×時計屋×ケアプランセンター=日本一おせっかいさんが絶えない街のサードプレイス。
〈概要〉
地域密着の介護相談所であるべきといわれるケアプランセンター。しかしどれほどの事業所が街に頼られているでしょうか? 相談を受けるほとんどが、行政や医療介護の同業者というのが実態かもしれません。
月の来店者は約400名という、商店街でやたらとにぎわう当センターが目指したのは、“介護のプロ”という認知のされ方ではありませんでした。まず、人が来る理由をつくりました。介護は、受ける人が“受けたい”と切望する類のサービスではありません。介護職は、どちらかというと避けたいサービスに身を置く専門職です。だから時計の修理でもいい、コーヒーを飲みに来ただけでもいい。何度も来店を重ねてからの相談でもいい。安心と安全の空間(心理的安全性の高い空間)のなかで、やっと相談事は出てくるのです。「実は私ケアマネという者でして。お役に立てるかもしれません」。専門性は後出し、このスタンスがちょうどいいんです。
カフェと時計屋とケアプランセンターのシナジーは、単に間口を広げ、相談件数を増やしただけではありません。ケアマネジャーが強く求められるインフォーマルサポートの開発につながりました。意味は分かるがそんな余裕はないという本音は、全国から聞こえてきます。実際のケアマネジャーは、介護保険サービスを調整することで精一杯というのもまた残念な実態です。
この問題についても解消できます。カフェには多種多様な商いを行っている商店主たちが訪れます。本当に心強い仲間です。その方々が提供する自社のサービスをカフェでストックし、お客様の困り事とフィットさせていきます。当センターのケアマネジャーは、自分たちでインフォーマルサービスの情報をすべて収集しなくても、カフェがその役割を担ってくれるのです。カフェはお客様に過剰な介護サービスの提案はしません。しかし本当に困っている人がいるとケアマネジャーを呼びます。背中を預け合える関係ですよね?
つまりこのカフェMIXの取り組みは、忙しさをカバーし、補い、今までなかった強みを得られる、まったく新しい連携の形なのです。
〈運営主体〉
「株式会社山勝ライブラリ」
株式会社山勝ライブラリは、介護業界で25年以上のキャリアをもつ代表の山下勝巳が設立しました。2013年に時計屋さんに間借りして始めた「ライブラリケアプランセンター」も8年目となり、現在ケアマネジャー7名が勤務しています。
2017年にOPENしたカフェ「FIKA三丁目」は街のコミュニティーとして人の絶えない場となっています。2019年に事業を開始した地域密着型通所介護すごろくデイサービスセンターも、地域との縁を大切にしながら元気に営業中です。
〈取り組みをスタートした時期〉
2013年5月17日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
介護保険は不自由です。ケアマネジャーは介護保険の要といわれます。要介護認定を受けた方と契約を結び、初見で出会う利用者様にアセスメントをし、課題を分析し、ケアプランを立てる。そしてそのプランに基づいて各事業所が計画を走らせる。仕組みはわかります。とても明確です。しかし、今日出会ったばかりの人に相談する側のストレスはどうでしょう? 信頼関係も構築できていない相手に、言いたくもないことを話さねばならない。これでラポール(信頼関係の樹立)が本当に図れるでしょうか?
お看取りの場面はどうでしょう。連れ合いの最期を全力で支えた高齢のご家族がいるとします。「この先どうなっていくんだろう? 一人で大丈夫だろうか?」。支え合っていた柱の片方が倒れたとしても、我々はその方を案じる以外に手だてがないのです。契約関係にないのですから。「困ったらまた言ってね」。そんな言葉を贈りますが、次にその人と出会うときは、その方に何らかのアクシデントが起きて、要介護認定を受けた時です。予見できたリスクは現実のものとなります。
介護が目指すべきは、生活支援です。特に地域のソーシャルキャピタル(社会的資本)を豊かにしていく支援を行ううえで、介護保険の制度は街のネットワークとの分断を引き起こします。私はケアプランセンターの境界線を緩やかにぼやかすバッファゾーンをつくることを考えました。それがカフェです。街の人とつながるための、「介護以外の理由」を装備したのです。
〈運営コスト〉
カフェの運用資金は自前です。そのため経費コントロールはシビアになります。メニューも、最低限のドリンクのみの提供です。しかしこれは消極策ではありません。商店街にはおいしいコロッケなどのテイクアウトフードがあります。そこで購入したものをカフェで食べながらコーヒーを飲む。これでWIN-WINです。街の商店主の皆様は、大切な自社のお客様が介護問題に直面した際には、弊社を頼ってくださいます。つまり足りないものを足す経営努力をするのではなく、共存共栄のマインドで補い合う関係を目指しています。
カフェを飲食店の営業としてとらえるのであれば 、採算ラインを下回る運営です。しかしながらソーシャルキャピタルを創造する場としての価値、街の方々への認知向上、ブランディングという価値を加味すると、非常に高い価値を生み出している部門だといえます。
ケアプランセンターとのシナジーはいわずもがなで、持続可能性は十分だと認識しています。
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
現在、介護保険の認定を受けているわけではない健常なシニアや、介護予防層のシニアが、「困ったときには頼むわな」と言いながら元気に毎日しゃべりに来ます。デイサービスを利用している高齢者が、それ以外の日にお茶を飲みに来たり、歩行練習のついでに寄り道したりしてくれます。リハビリのセラピストや管理栄養士がカフェのお客さんとフラットに談笑し、健康レクチャーを勝手に行っています。郵便局や散髪屋、肉屋、ふとん屋、酒屋、電気屋、スーパー、和菓子屋等、各商店が、自分のお客様の困りごとを相談してくれます。連れ合いを亡くした方が、お茶を飲みに来てくださり、お客様同士で笑顔で過ごす。しかし、店で一人になったときには内面の寂しさを吐露して涙を見せる。その両方を受け止められる空間であることがうれしいのです。
この店で知り合った人同士が、散歩などで街のどこかで出会い、またこの店で会いましょうと約束し、一緒に来てくれます。ネットワークが我々の手を離れ、自然に紡がれていく。やってよかったと思います。
〈今後のビジョン〉
新興住宅街の寿命は50年という定説があります。同時期に30~40代でマイホームを購入した層が、一気に高齢化するからです。特に当社のある羽曳が丘商店街は、駅前商店街ではなく、住宅街に住む人に向けた丘の上の商店街です。つまり車を手放した人たちにとっては、商店街は最後のライフラインと同義なのです。
街開きから55年が経とうとするわが街は、高齢化の一途を辿っています。商店街のシャッター率も50%を超えています。しかし、まだ「衰退しかない」と断ずる気にはなれません。未開の社会資源が眠っていると感じるからです。
今後さらに地域の商店との連携を深め、ケアプランセンターとして街に寄与しながらも、介護の目線で街をデザインしていくようなアクションを起こしていきたいと思っています。小学校との教育連携、市との防災連携等の企画を形にしていきたいと企んでいます。
■事業名:時計屋とカフェとケアプラン~実は用事は何でもいい~
■事業者名:ライブラリケアプランセンター(株式会社山勝ライブラリ)
■取材協力者名:山下 勝巳(株式会社山勝ライブラリ代表取締役社長)
■事業所住所:〒583-0864 大阪府羽曳野市羽曳が丘3-5-37