〈コンセプト・特色〉
“遠くのシンセキより近くのタニン”。そんな価値観に共感した人だけが集うシェアハウスであり終の住処。
〈概要〉
多世代型介護付きシェアハウスはっぴーの家ろっけん。暮らし方は人それぞれ。ルールやレクリエーションは特になく、やりたい人が勝手に持ち込んでやるアソビに、世代を問わず参加したい人が集まる。ここで働きたいと集まったスタッフの経歴はさまざまで、介護の経験や国籍は問いません。自分の趣味やスキルを発揮できるのが醍醐味です。はっぴーの家にお客さまはいません。入居者さんだけのリビングでもなく、子どもも高齢者も誰一人特別扱いせず、言葉が喋れなくても、認知症があっても、国籍が違っても、そこにいるだけで成り立つ日常がある、看取りだけでなく葬儀にまで携わる終の住処。
〈運営主体〉
家だけでなく、仕事やコミュニティまでも紹介するおせっかいな不動産業を運営する株式会社Happy。関わる人の日常や暮らしに関わることしか事業化しません。多世代の暮らしを提案するうえで必要なものを、随時新しく立ち上げていっています。医療福祉事業や教育事業などが最近加わり、4世帯の相談にのれる体制が整ってきています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年7月11日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
自分自身が、子育てと介護が同時に被るダブルケアに陥りました。自分たち夫婦が施設を探すなかで、理想の仕事像、子育て像、介護像、いずれかをセーブしなければいけない日本の現状を知りました。何も諦めずに、子育ても介護も自分たちの理想の仕事像も、というエゴを追い求めた結果、はっぴーの家プロジェクトを始動。企画の段階から、地域の多世代100人以上とともに事業計画を参加型で共創。エゴの社会化を成立させ現在に至っています。
〈運営コスト〉
基本的には事業の立ち上げの原資は銀行からの借上が主となっています。社会的な価値づくりをしながらビジネスとして成り立つ仕組みであれば、持続可能性が高くなるので、助成金ベースの事業にはできませんでした。
医療福祉業界の抱える課題として、採用経費の肥大化と費用対効果の悪さがあります。夫婦二人で立ち上げた中小企業が、病院や社会福祉法人に敵う訳がないので、当初より競争しない戦略をとっています。具体的には、価値観を共有する人のコミュニティを先につくり、その中からファンをスタッフとして雇用し、採用経費を0に抑えています。“求人をしない”という工夫をしています。
〈運営に必要な費用概算〉
300万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険、医療保険、銀行融資
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
多世代多国籍な人が集まるので、苦労や課題は数えればキリがありません。解決したところで効果が薄い課題や、そもそも解決できない課題のが大多数です。どうにもならないケースを解決するために時間を使うより、人の弱さや解決できない生きづらさと心地よく伴走・共存していく関わりや、環境づくりにエネルギーに力を注いでいます。
「違和感は3つ以上重なると、どーでもよくなる」がモットーです。弱さは、集まることによって環境に包含される場合があります。誰かの弱さが場の懐の深さを拡げることがあるというカオスの可能性を実感しています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
多様な人が集まるのでイノベーションが起きやすい環境です。高齢者やマイノリティの方が集まる場で生まれる新しい芽なので、誰にとっても優しいアウトプットになりやすいのも特徴です。コロナ禍において生まれた「多世代型オンライン講座」もその一つで、高齢者や障がいがある方だけでなく、海外にいる日本人、不登校児などさまざまなマイノリティの居場所となってきています。制約や課題はイノベーションの源泉になり、弱さや生きづらさがプロジェクトに幅を生んでいます。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
多様な人が集まる場はイノベーションの源泉になりますが、同時に潜在的なニーズが把握でき過ぎて、ドコから手を付けていいのか戸惑うことがあります。どれもがリアルで誰かを救える事業になりうる可能性を秘めていますが、時間的、人材的な制約があるので、優先度を考えながら進めていかなければならないジレンマに陥っています。マイナスな悩みというよりは、ビュッフェで皿に料理を盛っていく時と似たような、贅沢な戸惑いに近いものです。
何をやるかよりも、誰がやるのか、誰のためにやるのかのほうが重要で、時をみながら慎重に進めているので、“動かしたいが、タイミング待ち”のプロジェクトを複数抱えている身動きのとりにくさがあります。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
リアリティがあり、実現可能性が高い工夫の一つとして、「目の前の3人のために」をモットーにしています。みんなのため、広い社会のため、顔の見えない人のためには仕事をしません。日本は世界的にみれば恵まれ過ぎていて、大きな社会は先人達がつくり上げてくれているので、小さな社会を同時多発的につくる、つまり地域特有の町の在り方を考えた方が効率的だと弊社は考えています。
〈今後のビジョン〉
「Happyな暮らしを問い続ける」が弊社のビジョンです。基本的に、正解という考え方がありません。個人個人の暮らしで瞬間瞬間のベストではなく、ベターな選択肢を問い続け、提案するのが仕事です。最近では人の生きづらさや弱さが社会の新たなる価値の源泉になっていくと感じています。世の中に流されず、正しさよりも優しさを大事に、変わりゆく時代に対応しながらスタンスを貫くことで、目の前の3人から小さな社会を問い続けていきたいです。
■事業名:はっぴーの家ろっけん■事業者名:株式会社Happy■取材協力者名:首藤 義敬(株式会社Happy代表取締役) ■事業所住所:〒653-0042 兵庫県神戸市長田区二葉町1-1-8