〈コンセプト・特色〉
ケア家電「デリソフター」により、これからの介護食をおいしく変えていきます
〈運営主体について〉
「ギフモ株式会社」
ScrumVentures(スクラムベンチャーズ)と株式会社INCJ、パナソニック株式会社は、新規事業の創出促進を目的とした新会社「株式会社BeeEdge(ビーエッジ)」を2018年に設立しました。
株式会社BeeEdgeは、米国サンフランシスコをベースに、シリコンバレーと日本でアーリーステージのスタートアップへの投資を行うScrum Venturesと、新規事業の創出を目指すパナソニック家電事業部門のアプライアンス社が共同で出資、運営します。Scrum Venturesは、最先端トレンドへの知見、新規技術・ビジネスモデルに対する情報収集力を駆使し、さまざまな事業化支援を行ってきました。パナソニックは、家電を中心とした製品提案でお客様のくらしに貢献するだけでなく、近年では次世代の家電ビジネス創出に向けた新規事業の創出にも注力しています。
今回設立した新会社は、お客様一人ひとりに寄り添いながら、新しいくらしを提案していくため、まずパナソニック社内の有望な新規ビジネスアイデアを切り出して事業会社化するスタートアップを中心に出資し、適切な支援を行うことなどによるスピーディーな事業化を実現します。
2019年 株式会社BeeEdgeからの出資を受け、ギフモ株式会社が設立されました。
〈取り組みをスタートした時期〉
2019年4月5日
〈概要〉
デリソフターとは、見た目をそのままに、様々な食事をやわらかくできる調理家電です。いつもの手料理や市販の惣菜、冷凍食品などをやわらかくします。噛む力、飲み込む力が低下してしまった方々が、食べづらいと感じる肉・魚料理を、見た目や味を変えずにやわらかくすることができる調理家電です。
「見た目も味もできる限りそのままで、今まで通りの料理を出してあげたい」
加齢や病気、怪我などで噛む力・飲み込む力が低下してまった方には、専用の介護食やミキサーなどを使用して調理するなど、家族とは異なる食事を別に用意する必要があります。そのため手間と時間、費用がかかるだけではなく、家族と同じ食事を摂ることができず「食事の楽しみ」そのものが失われてしまいます。
デリソフターは、開発メンバーが実際に経験することで、あらためて気付かされたふたつの思いから生まれました。
一つは、作る人と食べる人が思いを贈り合う、そんな食の幸せをいつまでも感じてほしい。もう一つは、家族みんなが同じ料理を食べられることの大切さと喜びを届けたい。
私たちはデリソフターで、そんな当たり前の暮らしを実現したいと考えています。
〈取り組みのきっかけ〉
パナソニック株式会社アプライアンス社の企業内アクセラレーターとして、「未来の『カデン』をカタチにする」をビジョンに据えて活動しているGame Changer Catapult(以下GCカタパルト)。主要な活動の一つとして、2016年から毎年、社員によるビジネスコンテストを実施しています。
第一回目のビジネスコンテストでファイナリストに選出された事業アイデアの一つが「DeliSofter(デリソフター)」という食のソリューションです。料理の見た目と味はそのままに、噛まずに簡単に飲み込めるやわらかさの調理ができるというアイデアで、社内のビジネスコンテストを勝ち抜き、2017年3月に行われたSXSW(米国で開催される、音楽・映画・テクノロジーなど多分野にわたる大型展示会)に出展して注目を集めました。
チームメンバーの家族の嚥下障害をきっかけに、「年をとっても、最後まで家族で同じ食事を食べられるソリューションを提供したい!」という強い想いから「デリソフター」は生まれました。
〈運営コスト〉
株式会社BeeEdgeからの出資と経営に関する助言による、事業立ち上げと運営を行っています。
さらに外部VC(銀行、証券会社などの金融機関)、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの出資による事業提携とネットワーク拡大、事業成長を図っています。
プロダクトの「モノを売り切り」だけではなく、サービス提供を伴うビジネス展開を図ります。
〈運営に必要な費用概算〉
約1,000万円/月(2021年3月時点)
〈運営資金の確保〉
自費、外部調達(VC、CVC)
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
私たちのビジョンに共感してくださる方々との関係性を大切にした「幸せの数珠つなぎ」のファンづくりを心がけています。そのためには私たちがビジョンとコンセプト、情熱をしっかりと伝えていくことが必須となります。
今後コミュニティなどのつながり続ける仕組みを構築し、ギフモ株式会社は食べることにお困りごとを抱える方々の拠りどころ、サードプレイスという存在に育ててまいります。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
最初のチームメンバーであった2人(水野時枝、小川恵)の家族に対する思いから始まった事業アイデア、デリソフター。事業に必要な「徹底した顧客目線」が評価され、2017年3月に出展したSXSWでは高評価を得ました。その後、デリソフターは事業化に向けて検討を進めることになります。SXSWでの成功後、事業化に至るには時間が必要でした。
事業化の難しさの一つは 「徹底した顧客目線だからこその難しさ」です。デリソフターでは徹底して顧客目線に立ち「こんな商品がほしい」という切実な声を形にしたマーケットアウトの商品企画を目指しています。そのため、商品化にあたりどのような技術を掛け合わせるかを、0から考える必要がありました。普段の仕事仲間がたまたま持っていた人脈を生かすなど、本当にいろいろな方の協力のもと、手探りでやってきました。一つひとつの課題を自分たちで地道にクリアしていく必要がありました。
もう一つの理由は、人の口に入る「食」をテーマにしているという事業の特徴です。デリソフターは、多くの人を集めたイベントやヒアリングも精力的に行い、そのたびにアイデアに対するファンは増えています。「ぜひこれを家庭で使いたい!」「飲み込むことが困難になった家族にも、家庭の味を食べさせてあげたい」という言葉が広がりました。その一方で、使う人の幅が増えれば増えるほど、商品化に向けてクリアしなければならない安全性のハードルは高くなり、検討しなければならないことの数も増えます。アイデアが徐々に受け入れられ課題をクリアするたびに、新しい試練は次々と現れました。
試練を乗り越えるために仲間づくりを始め、有志サークル「Team Ohana(チーム オハナ)」が結成され多くのメンバーが仲間入りしました。デリソフターの事業化に向けての課題解決に加え、様々な支援が必要な方々に向けた「ケア家電」の商品化に向けて活動しています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
実体験を通じて「高齢者の食の課題を解決したい」という想いから生まれたギフモ株式会社。さまざまな困難がありながらもビジョンに共感した仲間、パートナーとともに、ケア家電の実現に向けて重要な一歩を踏み出しました。
パナソニックの創業者である松下幸之助が残した言葉に「素直な心」というのがあります。ギフモ株式会社のメンバーも新規事業を進めるうえで、この「素直な心」を貫いてきました。自分たちだけではできないから、「これがわからないです」「こんなことを一緒にやってほしいです」と周囲に伝えて、いろいろな方のご協力をいただきました。「実際に自分たちでとことんやっている」という裏付けがあったことも、周りの協力を得られた秘訣かもしれません。1日だけ考えた「わかりません」という言葉と、何日にもわたって真剣に考え続けた挙句の「わからないです、教えてください」では、その重みが全然違います。
仲間を集める場合も、言っている本人が現場にもいかず、机上で考えただけのアイデアであれば、たぶん響かないのではないでしょうか。最初にやっていたメンバーが考えぬき、やりぬき、多くの苦労をしたうえでの仲間集めだったからこそ、成功したのではないかと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
医療業界やケアコミュニティで、イノベーターとなりご活躍されている先生方と話しているときに、「プロがいる施設ケアから在宅ケアに移すには、今までプロがやっていた仕事、例えば医師だったり、介護に詳しい栄養士だったりがやっていた仕事のノウハウを、ハード(調理機器)やソフト(コミュニティ)に落としていくことが重要になる」という言葉をうかがいました。そのときにあらためて、デリソフターというハードだけでなく、コミュニティも必要だと確信しました。
介護される人、する人を支えるためには、ローカルできめ細やかなコミュニティが必要だと思います。一方で、各地域で蓄積されている介護や健康・食事のノウハウが、ギフモ株式会社とデリソフター事業を通じて横連携すれば、大きな価値を生めるのではないかと思います。そのデザインをどのようにやっていくかを悩んでいます。
悩みが多い一方で、私たちのビジョンに共感してくださる方々から「一緒にコミュニティをつくっていきましょう!」という声をいただくことも多く、非常にうれしく思っています。
これらが実現したときに、「介護食」という言葉や従来の現場のイメージが大きく変わり、新しい食文化や生活習慣が生まれ、明るく楽しく美味しいが当然にある社会に変えていけると考えています。
〈今後のビジョン〉
食は誰にとっても当たり前の生きがいです。食べる喜びは生きる喜び、生きる力になる可能性を持っています。その一方で、加齢や障害により当たり前の幸せや生きがいが、当たり前にできなくなるケースが増えるという課題を感じています。そこにアプローチしたい、高齢者や食べることに障害をお持ちの方々の食の課題を解決して、誰もが幸せに生きられる世界にしたい、というのが私たちのビジョンです。
食べることが難しくなる障害の一つとして、ギフモ株式会社がまず注目しているのは摂食嚥下障害(ものを咀嚼したり飲み込みにくくなる障害)です。摂食嚥下障害の方は増加傾向にあります。また、高齢者の方だけではなく、お子さんや若い方にも食べることに問題がある方も増えているともいわれています。
ご本人はもちろんですが、食事を用意する側のお役立ちしたいという想いも強いです。加齢に伴って様々な問題が起こってきます。そうすると、現状では状況に合わせた食事を提供するノウハウ、ツール、手段が非常に限定されてしまいます。そこにある「難しさ」を「簡単かつ短時間」に変えていくことで貢献したいと思います。
最近は、高齢の方や障害を持つ方々に向けた特別なメニューを宅配してくれるサービスも充実してきました。しかし、価格が高い、メニューが限定されてしまうなどの問題も残っています。私たちが提供したいのは、「家族と同じものが食べられる」という幸せ。ここを提供したいと考えているのです。
■事業名:ギフモ株式会社
■事業者名:ギフモ株式会社
■取材協力者名:森實 将(ギフモ株式会社代表取締役)
■事業所住所:〒600-8119 京都府京都市下京区本塩竈町597