〈コンセプト・特色〉
シニアや障害者を中心にした多世代参加型の地域共生社会を可視化するファッションショー
〈取り組みの概要〉
出演者:30~40名程度、メイク担当:30名程度(名古屋モード学園学生、教員)、コーディネート担当:30名程度(名古屋市立桜台高等学校ファッション文化科学生)、全体運営スタッフ:10名程度(医療・介護従事者)、観覧者:1000名(延べ)
(具体的内容)
①参加モデルの募集
高齢者サロンや介護・障害事業所へ募集を実施、必要に応じて説明会などを開催し趣旨説明を実施します。
②参加モデルへの説明
参加モデルの方々に地域包括ケアの講義、介護予防体操の受講やショー開催の経緯を説明します。
③高校生とのファッションコーディネート
服飾系の学生からの指導だけではなく、モデル自身の生きてきた経緯や考え等を共有し、コーディネートとして形にしていきます。高校生にはシニアとの交流によるコミュニケーションの成功体験や、老いること・障害を持つことに対する偏見を、体験を通じてポジティブなものに変えることができ、シニアや障害者も交流を通じて学生からの刺激を受け、多世代交流の大切さや魅力の再発見に繋げていただきます。
④メイクレッスンの実施
名古屋モード学園のメイク・ネイル学科の学生に協力していただき、シニアや障害者に対するメイクレッスンを実施します。メイクを通じて社会参加への意欲が高まると共に、学生との交流により相互にポジティブな成功体験を得ることができます。
メイクレッスン前には、学生全員に認知症サポーター養成講座と障害者とのコミュニケーション論をお伝えしていただいたうえで実施しています。
⑤ファッションショーの開催
毎日40万人が行きかう名古屋市第2の基幹駅金山駅など、人が集い足を運ぶ場所にてショーを開催します。このショーを通じて世間一般の興味を持たない方々へ発信することで、多くの方が地域共生社会をイメージでき、老いることや障害をもつことに対する抵抗や偏見を少なくすることに繋がります。
この活動は、まちづくり、認知症にやさしいまちへの啓発等、様々な形で広島県や東京町田市等に広がっています。
〈運営主体について〉
介護の仕事をクリエイティブなものとして主体的に捉えていると、働き方にも変化がみられるようになります。
「思考が行動を変えていく」、そういった体験を多くの医療・介護従事者にしていただきたいと考え、理解ある方々とクリエイティブケア研究会を設立し、2013年から数年間、医療・介護に携わっている方、また、その周辺産業の方々にご参加いただきながら「クリエイティブなケア」についてのセミナーや講座を開催しています。その中から、「人からまちへ」活動の軸を広げ、地域包括ケアや地域共生社会をより多くの方に伝えていくための活動を含めて活動を行っています。
ファッションショーはその活動の一部となります。
〈取り組みをスタートした時期〉
2015年11月
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
介護福祉に係る専門職との対話の中から、医療や福祉における高齢者や障碍者に対するイメージが良くないことを感じるといった話から、支援に携わる専門職として何かできないかと考えた際、シニアファッションショーを開催してみてはどうかという案が出ました。その後、その案を基に行政に確認を取ったところ、同じ年に区行政としてもシニアファッションショーを開催する案が出ており、運営方法などがわからないということから協力させていただくことになりました。
その年にシニアファッションショーが開催され、テレビでの取材など大きな反響を呼んだことから、翌年も継続して開催することとなり、運営主体を行政から介護事業所連絡会に移りました。さらに参加者、観覧者数も当時開催していたショッピングモールでは人が入りきらないという事態が発生したため、行政区を区行政から市行政に移し、「介護の日」に合わせたイベントとして開催した所、1100人が集まるイベントとなりました。
市行政から、現在はまちづくり活動として、クリエイティブケア研究会が引き受けています。
〈運営コスト〉
運営資金についてはさまざまですが、主としてまちづくり関連の基金を活用し運営を行っています。それらの資金を基にした持続可能な方法として、業者発注にするのではなく、医療介護に携わる専門職という立ち位置を活用して、まちの資源を活用し多くの方に関わっていただくことで様々な形での出資を受けることが可能です。会の開催に賛同いただく社会福祉協議会の担当者やその他関連団体の方々にも、当日の運営などをお手伝いいただいています。
「まちづくり」といっても、行政における「福祉課」ではなく「まちづくり企画課」など、別部署の方との取り組みが主体となるなど、より広範囲での関わりが必要です。
〈運営に必要な費用概算〉
全体運営費として50万円なので、月で割ると4万円弱程度です。
〈運営資金の確保〉
寄付、その他の公的補助、自治体予算
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
ただ単にファッションショーを開催するだけでは意味がありません。参加していただく方々に地域共生社会や地域包括ケアというものを理解していただき、参加したモデルの方々には自信をもって地域に帰り活躍していただく必要があります。そのためのモデル講座の組み立てや、地域への周知、広報活動などにも多くの方に賛同いただく必要があり、最初は地域にある様々な団体へ足を運ぶなどの地道な周知活動が必要でした。
また、高校生や専門学校などの学生との協力についても、趣旨説明やプレゼン作成などに奔走し、協力を得られるよう、こちらの情熱や真剣さをいかに伝えていくかは、実績のない最初の状態では苦労の連続でした。
医療や介護の関係者からも、ファッションショーの開催についての意味合いが理解できないといった意見もありました。しかし、実際にファッションショー開催の際に集まった多くの市民に対する地域包括ケアの講演会を併せて開催するなどして、医師会をはじめとした団体から評価をいただく等、さまざまなかたちを提案し実績を残すことで、信頼を高めていくことができました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
モデル参加者がショーの出演までに健康に気をかけ、励む姿に家族や周りの方が感動を覚えたり感謝されたりすることが多く、出演後も地域の旗振り役になり活躍される方も多く出てくるなど、地域共生社会構築に向けての人材発掘にもつながっています。
他にもモデル同士でご結婚されたり、交流のあった学生と親交を深めたりなど、出会いの場としても機能しているようです。ショー観覧するカップルなどから「こんな風に年を重ねたい」とご意見をただくこともあり、年齢を重ねても、障害があっても、人の輝きは変わらないというメッセージが届いたのかとうれしくなることがあります。
参加した高校生や学生も、最後のフィナーレで泣き出したり、車いすの方がステージ上で歩く姿を見せる姿に感動したりなど、若い世代にも大きな影響を与えているモデルの姿を多々見てきました。
みんな誰もが誰かのヒーロー。
一人ひとりの思いが連鎖して、わかり合えないかもしれなかった人たちが、みんな笑い合う社会に自然とつながっていく姿は何ものにも代えがたいと思っています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
新型コロナウイルス感染症により、会場の使用や人を集めてのイベントが開催できず、昨年はショーの開催ができませんでした。学生や学校からも参加したかったとのご意見が上がってきており、またファッションショーとは違うかたちで展開していく必要性を感じています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
今までは現地に見に来ていただくかたちでショーの開催を行ってきましたが、今後はオンラインや画面等を通して伝えていくかたちにしていければと思います。その一環として、2019年に開催されたファッションショーを冊子にし、多くの方にその写真集をご購入いただくなど、資金面としても可能性を感じることができました。
〈今後のビジョン〉
充分な感染症対策を実施しながら、現地でのファッションショー開催に向けて活動を展開していくことと並行し、オンラインや動画、写真集等、より多くの人の手に地域包括ケアや地域共生社会を可視化して伝えていくことで、この魅力をさらに多くの方に伝えていけるよう取り組みを継続していきたいと考えております。
■事業名:地域共生体感型ファッションショー夢コレクション
■事業者名:クリエイティブケア研究会
■取材協力者名:大河内章三(クリエイティブケア研究会代表)