〈コンセプト〉
支えあって、学びあって
すべての人の「人生」を豊かに
〈特色〉
福祉に従事するスタッフが日々のケアの中で感じ取っている、「いのち」や「暮らし」「生きる」についてのたくさんの学びを地域のたくさんの人たちと分かち合いたいと考え、社会福祉施設を「地域に開かれた学び場」としています。ケアを「する側」「受ける側」と線を引くことなく相互に支え合い、学び合える環境を大切にしており、利用者や入居者ではなく、ここでは「パートナー」と呼んでいます。
毎日開催しているデイリープログラムでは、スタッフの仕事に同行して福祉の仕事体験ができ、パートナーのお話を聞くこともできます。毎週土曜日に開催しているウィークリーイベントでは、一般の方も参加しやすいよう、ライン@やピーティックス(WEB上で決済するイベント管理システム)を活用。庭の垣根を取り払うリノベーションを行い、誰もが利用できる庭をつくったり、屋上を改修し図書館をつくり、中高生や大学生が自習室として利用したり、地域のオヤジ会と共同運営という形で駄菓子屋をつくる等、幼児から小学生、子育て世代など多世代が福祉施設に気軽に集える取り組みをしています。
〈法人概要〉
「社会福祉法人ライフの学校」
・社会福祉法人
・職員:102名(常勤・非常勤含む)
・特別養護老人ホーム、地域密着型特別養護老人ホーム、デイサービス、ヘルパーステーション、居宅介護支援事業所、就労継続支援B型事業を運営しています。
・2022年には、認知症グループホーム、就労継続支援A型事業所を開設予定です。
・地域に開く取り組みとして、2021年3月現在、特別養護老人ホーム「萩の風」を中心に行っています。
・運営企画室(本部)は、19名(ケアスタッフ、相談員、ケアマネ等と兼務)。1名常勤で、コミュニティマネジャー(社会福祉士)を置いており、イベント企画、地域資源の開発、ニーズの掘り起こし等を行っています。
〈運営コスト〉
コミュニティマネジャーの人件費・イベント運営費は、本部経費として計上しています。
〈始めたきっかけ〉
3年前、[re:プロジェクト]と題し、福祉を開く計画を立ち上げました。平成28年に、社会福祉法が改正され、社会福祉法人の公益性・非営利性を踏まえ、本来の役割を明確化するため「地域のおける公益的な取組」の実施に関する責務規定が創設されました。
当時、法人設立から8年目で、老舗の社会福祉法人と違い、地域との信頼関係が構築されている環境にはなく、この法改正をきっかけに法人や施設の「中」を開いていくために、法人や施設の「外(地域)」に積極的に出るチャンスと思い始めました。従来の閉じられたイメージの福祉のあり方を、リブランディングする必要があると感じ、法人名やミッションもリニューアルしました。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
「なぜ地域に開く活動をやるのか?」という職員に対して、この取り組みの意図が伝わらないこともありました。法人では、自由度の高い安心できる暮らしを提供できることを目指していますが、「何かあったらどうするのか?」と、不安を感じる職員への説明が必要でした。地域の方々がふらっと遊びにくる環境をつくることが「見られている」と負担に感じる職員もいました。「とりあえずやってみよう!」という肯定的に受け入れてくれた職員と「まずはやってみよう!」と開始しました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
某テレビ番組の取材で、「ライフの図書館」で勉強している学生がインタビューをした機会がありました。イベントをすると集客数が気になり、どれだけの人にリーチしたかに主眼を置きがちですが、その学生が「ここは隠れ家みたいな場で、落ち着いて勉強のできる居場所になっています」と答えたのを聞き、「目の前の1人」の大切な場になっているということが実感できました。
駄菓子屋が居場所になっている子がいたり、犬の散歩で庭に来るのを日課にしてくれている地域の方がいたり、地域の誰かに、役立っているという実感を得られるときは、本当にやっていてよかったと思います。また、「次は何をやるの?」「◯◯が困っているんだけど何か案がない?」と、地域の方からお声をいただけるようになったことも大きな変化であり、とても嬉しく感じています。
主事業の高齢者事業である「介護」は、決して楽な仕事ではないのが事実(特養の平均介護4.4)です。介護度が高いこともあり、本人の思いをくみ取ることがなかなか難しいです。
そこで聞き書きという手法で、居室担当が、息子さん、娘さんに施設に来ていただいて、お話を聞いて入居者の方の人生録をつくっています。今まで生きてきた歴史を感じ、自らが主体となって「知る」ことで、家族との関係性や本人への寄り添い方にも良い変化をもたらしています。言語化・数値化するのは難しいですが、丁寧になったように感じます。
それら聞き書きでおこした人生録を、月に1回、「ライフストーリー学」という講座を開催し、一般の方にも聞いてもらっています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
スタートが大事と思っていたので、1年前に法人名を変え(社会福祉法人ウェル千寿会→社会福祉法人ライフの学校)、「学び合いの拠点として地域に福祉を開くためにさまざまなイベントをやります!」と宣言していた矢先、新型コロナウイルスの感染が蔓延、緊急事態宣言下になり、オープニングイベント開校式が延期となり、今なお、難しい判断を余儀なくされながら運営しています。
そういった意味では、本当のスタートダッシュは切れていませんが、プレオープン的に1年やってこられた点は良かったです。「今できること」を地道にコツコツやっていきます。
〈継続する仕組み、工夫〉
自らも楽しみながら企画・運営すること、また、スタッフの主体性を大切にし、活かすことです。
〈今後のビジョン〉
毎週、さまざまな企画を開催するのが浸透してきたので、これらの取り組みを各拠点に広げていきたいです。そうすることによって、拠点となる地域のつながりが広がり、地域の生の声「真意」を知ることができ、必要なサービスや資源を住民と一緒に開発していきたいと思っています。地域には巻き込まれたくない人もいます。それでも何か役立ちたいと心の底では思っているが、行動できない理由がある人もいます。そうした個別の事情を丁寧に紐解いた上で、地域のつながりをつくっていきたいです。
職員の主体性、多様性を活かすために、2021年度からインドネシアの技能実習生が来るので、その国の文化や料理を学ぶ講座をしたり、仙台市外から就職する職員もいるので、地域にゆかりのある企画をしたりと、スタッフ側も孤立させないような企画を検討しています。
震災から10年、仙台市の若林区の一中学校区のみにこだわり、事業を行ってきましたが、次年度には区をまたいで、事業展開が始まります。
現在の拠点で培ってきた経験を徐々に広げていくと共に、認知症対応型グループホームや、看護小規模多機能型居宅介護の開設など、現在行っていない事業種別にも挑戦し、支えあって、学びあって、少しでも多くの「目の前の1人」の人生を豊かにできる社会を目指していきたいです。
■事業名:地域に開くプロジェクト
■事業者名:社会福祉法人ライフの学校
■取材協力者名:田中 伸弥(社会福祉法人ライフの学校理事長)
■事業所住所:〒984-0838宮城県仙台市若林区上飯田字天神1-1
■サイト:https://gakkou.life/
■取材・まとめ:高瀬 比左子(NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表)
■取材時期:2021年3月