〈コンセプト・特色〉
「協賛」の仕組みで持続・継続性を担保。協賛企業・事業所が自社の得意分野を生かしたまちづくりへの参画を可能とし、このネットワークにより地域に暮らすすべての人たちの健康と元気を支えていく。
〈概要〉
■取り組みの規模当初は東京都大田区内65歳以上の方すべてを対象としていましたが、現在は、区内に暮らすすべての方を対象としています。
■具体的内容地域づくりセミナー:自身の健康維持と、隣近所の人たちの異変に気付くための気づきの視点を提供することを目的に、毎月第3土曜日に開催。毎回平均120名の住民が参加しています。
みま~もステーション:商店街と共同で行っているサロン事業。商店街にあるコミュニティスペースで、年間430講座を開催。事業効果により、商店街の活性にも寄与しています。
高齢者見守りキーホルダー:みま~もにかかわる専門職たちが、「地域に暮らす安心」をコンセプトに生み出したシステム。当初はみま~もとして申請を開始しましたが、2012年に大田区の施策として導入しました。大田区では延べ5万人の高齢者が登録しています(区内の高齢者人口は16万人)。元気な頃から地域包括支援センターとつながっている安心、万が一何かあったとしても確実に異変を家族に伝えることのできる安心につながっています。
〈運営主体〉
「おおた高齢者見守りネットワーク」本会は任意団体であり、会の趣旨に賛同いただいた各種団体の賛助会費によって運営しています。2016年3月末時点で、賛助会員は、病院・クリニック・薬局12、企業・法人34、在宅サービス事業所38、施設8の合計92団体、後援は、大田区、大田区社会福祉協議会、東京都健康長寿医療センター研究所です。賛助会員は、運営費の捻出だけでなく、会の運営に関わり、そのなかで専門性を発揮し、団体としての地域貢献を実現しています。
みま~もという任意団体を別組織として設立することにより、介護保険制度や政策、組織の枠にとらわれず、柔軟に活動することが可能となっています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2008年4月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
みま~もを発足し、呼びかけを始めたのは大田区地域包括支援センター入新井です。高齢者の総合相談窓口として設置された地域包括支援センターにおける相談件数は、年々増大しており、私たちの活動拠点である東京都大田区でも22カ所ある地域包括支援センターで、ひと月あたり約1万件もの相談に対応し、さらに増加傾向にあります。
今後、急速に高齢化が進んでいく大都市東京において、地域包括支援センターが介護保険制度の枠組みのなかだけで、まるで「もぐらたたき」のように一つひとつの相談に対応しているだけでは、高齢者が安心して暮らせる地域などできません。まして、これから一人の高齢者が抱える問題が多問題化、複雑化していくことを考えると、個別対応すら一筋縄ではいかず、難しくなることは明らかです。
このような限界を感じていた地域包括支援センター職員が、地域住民と地域で働く医療・保健・福祉専門職が広くつながり合い、高齢者を支え合うシステムづくり、町づくりに動き出したことがきっかけでした。
〈運営コスト〉
運営資金の核は、協賛企業・事業所からの協賛費です。これをもとに年間の事業計画を立てます。それぞれの事業支出については参加者から実費徴収しています。ランニングコストとして、商店街コミュニティスペース賃料、セミナー案内郵送費などがあります。
協賛の仕組みで取り組んでいるみま~もは、事業を運営していくスタッフも協賛事業所・企業が人材を投入してくれているため、人件費を抑えることができています(代表・事務責任者に関しては責任費を支払っています)。また、セミナー等の会場費も、公的機関である地域包括支援センターが関与しているため、会場を優先的に借りることができ、費用も無料です。
〈運営に必要な費用概算〉
13万円 /月
〈運営資金の確保〉
寄付、協賛企業・事業所からの協賛金、事業収入
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
これまでに苦労したことは、行政との関係性です。行政担当課の役職者が異動するたびに、対応が180度変わってしまうということもあり、それまで前職者と築いてきた関係性や方向性が振り出しに戻ったり、ときに自治体が示す枠組みから外れていると指摘を受け、新たな活動を諦めざるを得なかったり、みま~もが築いてきた歩みを後退させられてしまうということも少なからずありました。
このようなことから、担当部署の役職者が異動で変わるときには、当会で開催しているセミナーでのあいさつを依頼するなど、実際に足を運んでもらい、取り組みを見て、感じてもらい、そこから新たな関係構築を行うようにしています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
協賛を軸にしたまちづくりです。協賛の仕組みで会を運営していくと決めて取り組みを始めた当初は、「協賛」=活動資金を得るということが目的でしたが、今ではこの協賛の仕組みにより、ネットワークが医療・介護分野以外にも大きく波及することにつながっています。
そして、この幅広い分野に広がったネットワークは、あらゆる分野のあらゆる課題を、実現可能へと変える力となっています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
13年間の活動のなかで、目的の明確化、仕組みについてのシステム化ができているので、目の前のことで悩むことはあまりなくなっています。目の前のことで悩んだときには、常に、目的に照らして、今がどのような状態なのかを考え、力を入れるべきことに取り組むようにしています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
“お客さん”をつくらないことを大切にしています。協賛企業・事業所は、年度更新にしていますが、協賛金を支払い、1年間取り組みに何もかかわらない企業・事業所は、翌年の更新時にほとんどが辞めていきます。なぜなら、入っているメリットを見い出せないからです。
常に、「この人とだったら・・・」「この組織の得意分野と当会のネットワークがあればこんなことができる」という意識をもちながら、協賛、人の得意分野を生かした事業を一緒に考え、具体化するよう心掛けています。
〈今後のビジョン〉
今の社会状況を反映し、孤立・孤独な状況に陥り、自分ではSOSの声を発することのできない人たちが増加しています。この人たちに、私たち医療・介護専門職、公的機関は直接手を差し伸べることはことはできません。
この人たちの異変に早期に気づくことのできる人、組織(地縁団体・民間企業等)とさまざまな事業を通して日常的につながりを保つこと。生死にかかわるギリギリの状態で私たち専門職が初めてつながるのではなく、早期につながるための気づきのネットワークをさらに広く構築していくことを目指しています。そして、このネットワークを、高齢者のみを対象とするだけでなく、すべての世代を視野に展開していきたいと考えています。
■事業名:みま~も■事業者名:おおた高齢者見守りネットワーク■取材協力者名:澤登 久雄(おおた高齢者見守りネットワーク発起人) ■事業所住所:〒143-0016 東京都大田区大森北3‐24‐27(入新井老人いこいの家内) ■サイト:http://mima-mo.net/