〈コンセプト〉
団地を一つの大きな家族に
〈特色〉
私達の取り組みは、すでにある団地の一部屋を小規模多機能施設として運営することで、住み慣れた地域で、これまでの絆を保つことができるということです。生活に溶け込むように福祉を提供する。介護する側、される側という枠組みを超えて「一住民として」居住する集合住宅を目指しました。スタッフ約10名が住民として団地に暮らし、一人の家族・隣人として、ケアを実践し、その人の人生の物語に関わっています。
「ぐるんとびー小規模多機能型居宅介護」は、神奈川県藤沢市のUR団地の一部屋にあります。239戸、約478人が住んでおり、高齢化率は60%を超えます。人々が幸せに暮らすには、「住み慣れた地域で、人とつながりながら役割を持ち、自分らしく最期まで生ききる」ための仕組みが必要であると考えました。
私達が目指しているのは、高福祉の実現ではなく「ほどほど幸せに暮らし続けられる豊かな地域社会」の実現です。
〈取り組みをスタートした時期〉
2015年3月23日設立
〈概要〉
72名(常勤50名・非常勤22名)
小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、訪問看護ステーション、居宅介護支援
〈取り組みのきっかけ〉
きっかけは、東日本大震災です。支援に訪れた宮城県石巻市では、社会のインフラが津波に流され、既存の仕組みの多くが機能不全に陥っていました。友人を失い嘆く人。家や仕事を失い、生活の不安に押しつぶされそうな人。家族を失い、自分だけ助かった事を責めている人。そこには、深い悲しみが溢れていました。
そんな絶望を救ったのは人とのつながりでした。お互いの助け合い、声の掛け合いが、生きる希望を支える大きな力であり、その原点は、ご近所同士の助け合い、お互いへの思いやりでした。人のつながりの弱い地域では、多くの支援を必要とし、地域コミュニティを活性化する仕組みの必要性を痛感しました。
地域をつなげるハブとして、集合住宅に小規模多機能型居宅介護を入れることで、施設のような役割とさまざまな世代の交流の両方が実現できると閃き、「団地を一つの大きな家族に」というコンセプトでスタートしました。
〈運営コスト〉
小規模多機能型居宅介護(介護保険)
〈運営に必要な費用概算〉
資金調達:銀行からの借り入れ2000万円
初期コスト:総額450万円(住宅改修費30万円、スプリンクラー等の消火設備370万円、テーブル・椅子等の必要備品 50万円)
毎月の売上概算:686万787円
毎月の経費概算:606万5,160円
毎月の利益:79万5,627 円
利益率:11.6%
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
認知症や精神疾患のある高齢者をはじめ、若者、子育て世代の夫婦、シングルマザーなど、4年間で21世帯、39人が団地に引っ越ししてきて、共に暮らしています。生活と福祉が接続されることで、地域交流拠点となり、関係人口が増えます。また、スタッフが自治会役員(スタッフのうち20名が自治会の役員)になる事で、自治会員の平均年齢が76歳から58歳へと若返り、地域の持続可能性が高まっていると思います。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
株式会社が暮らしの中に入ってくるということに対して抵抗をもつ人が多くいましたが、6年かかってやっと定着してきています。今まで、介護のイメージが悪く、遠ざけられていました。介護のお世話になりたくないから、介護事業所を何で暮らしの場につくるのか、という声もありました。ほどほどの幸せを目指すとき、ほどほどの不都合ものみこまなくてはならないと感じています。
自治会から、営利の活動はするな、と言われたこともありました。ただ7年前に自治会長をされていた方がケアが必要な状況になり、はじめは介護サービスを使わないと断固、拒否されていたのですが、こちらが地道に関わり、ケアする中で、必要性を理解してくれ受け入れてくれることになりました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
私たちは、福祉を健康改善の目的ではなく、まちづくりの観点から、「団地を一つの大きな家族に」というコンセプトを掲げ、活動に取り組んだことがうまくいっている要因であると考えます。既存の制度を活用し、ない場合、ときに生み出し、地域の隙間を埋めていきました。その結果、介護だけでなく、自治会活動、子育て、障がい、待機児童、不登校等を支えることができています。
教訓として、既存の方法論に捉われず「常にこれが正しいということはない」という対話を繰り返しました。その中で、「やりたいを叶えるケア」に着目し、目の前の人にとって、よりよく生きるとは何かを考え、ときにはケンカもする。その人の感情に焦点を当て、ニーズに応えるためのチャレンジを諦めないということが重要であるとわかりました。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
補助金をもらっているわけでも家賃を安くしてもらっているわけでもないので、収益をしっかりと確保していくことは一番悩ましいところです。
また、営利的な事業は団地の自治会の方等に疎んじられる傾向があるため、防災イベントでは、炊き出しとしてカフェをするなど、表への出し方は工夫をしています。
仕事ではなく、ボランティアとして、地域包括支援センターが休みの土日に安否確認を頼まれたりするなど、さまざまなつなぎ役の機能を担っていますが、団地に住むスタッフは、仕事とプライベートの切り替えが上手くできるスタッフとそうでないスタッフもいるので、なかなか難しいところです。
〈今後のビジョン〉
私達は、つながりのなかでほどほどの幸せを感じられる街づくりを目指しています。「健康、安全」ではなく「幸せ」を目標としています。重要なのは、自分の人生を取り戻すこと。健康や安全に偏りすぎると、生きる意欲が削がれていきます。自分の人生を自分で決定できることは人々が役割をもち、自分らしく暮らしていけることにつながっていきます。
健康のために努力するのではなく、やりたいことや役割を通じて社会に参加していることで最期まで自尊心をもち、ほどほど幸せに暮らしていける。“お互いさま”と“お節介”をほどほどに大切にしながら、高齢になっても“いきいきと生きる姿”を次の世代に見せていくことが、次世代への生きる教科書であり、共に暮らすことが生きる学び舎になっています。
これからは、分譲住宅の1階に作った看護小規模多機能型居宅介護と地域交流スペースや、同じく隣接するアパートを全棟借りして多世代居住アパートにするなど、住民共創で地域課題に取り組む活動をさらに加速させていきたいと思っています。
■事業名:小規模多機能型居宅介護
■事業者名:株式会社ぐるんとびー
■取材協力者名:菅原 健介(株式会社ぐるんとびー代表取締役)
■事業所住所:〒251-0861 神奈川県藤沢市大庭5682-6 パークサイド駒寄3-612
■サイト:grundtvig.co.jp
■取材・まとめ:高瀬比左子(NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表)
■取材時期:2021年3月