〈コンセプト〉
おたがいさまに生きる
あんまり仕事と思わないで、その人といる感覚ですね。ただ隣にいるだけでいいと思うし、何か特別なことをしなくても、成り立つ関係がいいなと思います。無理をすると不自然になってしまいます。自然な形であれば居心地がいいので、また来たいと思えるようにしたいです。
おたがいさまに生きる社会にしていきたいと思いますし、多世代でかかわっていくことができたらいいなと思います。
〈事業形態〉
介護保険外の実費サービスで行っています。中には、掃除や買い物等の付き添い、施設入居のために自宅の片付けやパット交換など、介護保険内でできることを頼まれることもあります。草取り、犬の散歩、将棋の相手などプランに合わせてやるものではないため、「今やってほしい」というときに使ってもらうことができるので、利用する側の自由度は高いですね。
40代から90代まで、幅広い年齢層に利用していただいています。疾病による障がいや認知症の方なども利用されています。
特に営業はしていなくて、仕事についてはケアマネジャーや地域包括支援センターの方から相談がされることや、利用してくれた方がご友人などに紹介をしてくれて依頼が来るケースがほとんどです。インフォーマル・サポートとして必要なときに使ってもらえればと思っています。ケアマネジャーさんとは定期的な集まりなどにも参加し、施設の方や後見人の方などとコミュニケーションを図る機会もあります。
■利用の仕組み
利用者→事業所・行政→まごの手ひなた→アルバイト→利用者
〈運営コスト〉
山梨では車が移動手段になるので、ガソリン代など、車の維持費がかかります。ガソリンはその時々で値段が変わるので今は130円ぐらいですけど、上がったときは150円くらいでしたね。病院の付き添いもあるので、介護経験のある人をアルバイトで一人雇っています。病院の付き添いなどは、介護経験があった方がいいかなと思います。僕一人ではできないので契約という形でお願いすることもあります。
例えばですが、1時間に1,980円いただくとしたら1,600円をアルバイトの報酬としています。基本的には利用者から依頼が来たら、日程調整をして、はじめて利用する方については、私が一緒に行き、顔合わせをするようにしています。お年寄りの方だと最初は不安だったりするので、色々と説明をしながら安心していただけるようにつながりをつくっています。報酬については、直接アルバイトにお渡ししてもらい、そこから私に手数料という形で料金(変動あり)をいただいています。
■報酬の仕組み
報酬=基本料金-アルバイト受け取り料
〈やりがい、モチベーション〉
高校卒業後、9年間重紙工場で働いていました。3.11東日本大震災をきっかけに、人のためにできる仕事をしたいと思い、ヘルパー2級をとって介護の仕事を始めました。もともと、おじいちゃんやおばあちゃんが好きだったので、最初の3年間は特養ホームで働いていました。その後は、サ高住やリハビリ中心のデイサービスでも働きました。
送迎のときに、「ちょっと灯油入れてよ」「電球を換えてくれ」「回覧板を回してほしい」など介護保険ではできないような、ちょっとしたお願いをされることがありました。自分で何かできないかと考えていたので、電球を換えたり、草取りをしたり、自分の空いている時間を使って、身の回りの手伝いをするようになりました。それが事業を始めるきっかけとなりました。
最初は「そんなこと仕事になるの?」と結構言われました。でも、買い物に付き添ったり、一緒にご飯を食べるだけで仕事として成り立つんですよね。それぐらい「人とのかかわりを求めているのだな」と実感しています。実際、まごの手ひなたのような仕事を始めている人も増えていて、Facebookの観覧数も増えて「自分も始めたいんです」という問い合わせが来ることもあります。
この仕事の魅力なのかも知れませんが、多世代でかかわることでお年寄りも輝けるというか、利用者の方には「私も人の役に立っている」という役割をもってもらいたいと思っていて、ただただ家にいて鬱みたいになるよりは、どんどん社会に出て、「まだまだ社会的な役割があるんだよ」って見出していきたいと思っています。ちょっと病院に行きたいというママが子供を連れていくと「騒いでも困るし」ってときに、「じゃあちょっと私が見ていてあげるわ」って。
本当は、昔は近所の人に頼んでいたことが、今は疎遠になってしまい頼みづらい社会になってしまっていて、そういったときに「おたがいさまで生きる」ってとこで、くっつけられるんじゃないかと思っています。僕のずっとやりたいビジョンとしてあるんです。変な話、お互い様だったらお金が発生しないかもしれないですけど(笑)。
〈人材確保〉
協力してくださっている方はいろいろな縁がつながって、想いに共感してくれた人が手伝ってくれています。例えば、草取りなんかは、草取りが得意な人を引き合わせたりして、Uber Eatsみたいなマッチングの仕組みで人材確保をしています。話し相手は、お年寄りの方だと若い人がよいので、大学生などをつなげたりしています。僕なんかより若い大学生の方が受けがよかったりするので、世代交代かなと感じることもあります。お年寄りも若い人に食べさせたいと思っているし、大学生はコロナ禍で飲食店のアルバイトもできない中なので、「ちょっと病院連れて行ってくれたら、ご飯食べさせてあげる」みたいになるので、お互い様の精神で成り立つ関係で繋がりをつくっています。
主婦の方などは、「ついでに、これ買ってきて」みたいにして、隙間時間にできることをお願いしています。何より楽しいと思えるよう、心がけています。一対一の余裕がある感覚を、ぜひ介護経験がある人だけでなく、色んな人に味わってほしいなと思います。
〈課題〉
この仕事は、グレーなこともあります。人を車で移動させるためには、2種免許が必要になりますし、主婦の人に「2種免許を取ってください」というのは現実的ではないので、移動の時間は、ボランティアという形にして、その人といた時間を料金としていただいています。このように、グレーな部分をどうしていくのかを考えていく必要がありますね。
〈これからのビジョン〉
人は新しいことを始めるときに、「まず何かを用意して環境を整えて人を探して…」と考えがちですが、自分のやりたいことやついやっちゃうことのエネルギーを形にしていれば、自ずと人は集まるし、物事は勝手に動き出すと僕は思っています。そして何より、ないものに目を向けるのではなく、あるものから創造していけば自然とできあがると思います。
これから、もっと格差社会が広がっていくと思います。実際に現場を見ている中で、介護保険の限界も感じています。介護保険を支える世代が減ってきていますし、税収が減ったときに「じゃあ、どうするのか」と考えたときに、お互い様で、「これやってくれたら、これは私やるから」って、「お互いの役割でやっていけばいいね」ってなっていけば、お金はそんなに必要ではないと思います。このようなつながりを、広めていきたいと思います。
■事業名:まごの手 ひなた
■事業者名:まごの手 ひなた
■取材協力者名:日向 大輔(まごの手 ひなた代表)
■事業所住所:山梨県甲府市
■取材・まとめ:大木 幹也(特別養護老人ホーム勤務)
■取材時期:2020年11月