〈コンセプト・特色〉
子どもたちに思いやりの心を生産している老いと看取り
〈概要〉
この取り組みは「この日やりますよ」とかではなく、日常の中にあるもので、イベント的でもありません。というか、そもそも看取りはこの日に看取りますということができませんので、お年寄りが生活している日常の中にいかに子どもが入れる仕組みづくりをしていくかが大切です。
昔は、大家族でした。生活の中に多世代がいました。そんな中、お年寄りの役割がきちんとありました。お年寄りは自然の道理で耳が遠くなっていき聞こえづらくなってきます。孫たちは考える「なぜ聞こえなくなってくるのだろう? そうか、人って年を取るごとに耳が聞こえなくなってくるんだ。なるほどだから大きな声でゆっくり話してあげないと聞こえないんだ」と、生活の中で誰から教わることなく「老い」と「死」を学んでいました。
お年寄りはモノを作ることはしないので生産性がないと言われますが、きちんと子どもたちの心に「思いやる心を生産しています」。核家族化してきた今だからこそ、多世代が交流できる場所が必要です。
〈運営主体〉
「有限会社オールフォアワン」
「有限会社オールフォアワン」が運営しています。2006年1月1日から始めました。石井英寿個人は、淑徳大学社会福祉学科卒業後、精神科や大規模施設で8年勤め、独立しました。介護保険事業所だけでなく、ジェンダーや貧困などで、困った人、そして動物などもとにかく支えていきたいという心でやっています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2006年1月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
取り組みはこれをやろうと思って始まったわけではありません。シングルのママさんも応援したかったので、子連れ出勤ありということから始まりました。いつしか日本は縦割りの社会になってしまいました。昔はモノがなくても、心が豊かだったと思います。それはなぜなのかと追及していった結果、行きついたところは、多世代が集う場所がなかなかない中でそういった場所はやはり必要と感じたからです。
〈運営コスト〉
運営資金の調達は、主に介護報酬でやりくりしています。介護報酬が限られている中、スタッフには昇給させていかなければなりません。スタッフに還元するためにはまだまだ足りていませんので、常にwin-winを考え、マネタイズしていかねばならないと思っています。
〈運営に必要な費用概算〉
取り組み自体に費用は計算できません。
〈運営資金の確保〉
寄付、介護保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
スタッフがある利用者さんに対して転倒事故を起こし裁判になり、家族はとてもお怒りになっていました。起こしてしまったことに対して修正はできませんので、真摯に向き合い、誠実な姿勢を見せるしかありません。しかし、いろいろな人の看取りを行ってきて現在では、どんな悩みでも小さく感じるので、今となってはいい経験をさせていただきありがとうと言いたいと思っています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
うまくいっていることは「宅老所いしいさん家」が16年も続いていることです。このこと自体やってよかったと思っています。全部自分に還ってきます。これは雇われている時代には感じえなかったことです。大変ですが大変の概念も分からなくなってきます。いろいろな人がいると価値観もいろいろで、面白いと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
マネタイズ。他の施設でいわゆる「問題行動」と評価された人は利用をお断りされます。そんな方々を受け入れていくと、やはりそれだけ人を付けないといけませんので、人件費がかかります。理念と収益化は反比例します。事業を継続していくためには収益化が必要ですが、そこが難しいと言えます。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
ソーシャルキャピタルを意識しています。「認知症状の人を理解しよう」といったイベントも大切ですが、それは限定的でなかなか持続しません。大切なのは地域のつながりを再構築することです。子どもとお年寄りが集える場所を作る仕掛けづくりを行うことです。例えば通学の信号の旗振りをすること、お祭りの準備に参加すること、駄菓子屋を営み子どもとお年寄りが触れ合える場をつくること、自治会の役員になることなどです。
〈今後のビジョン〉
千葉県八千代市米本に新しい土地を購入し建物を建て、今までやってきたことをパワーアップさせていきます。「日本の介護の未来はそんな暗くない」「介護はここまでできるんだよ」ということをさらに実践・発信・伝達していきます。
■事業名:「いしいさん家」~お年寄りの最後の役割を子どもたちへ
■事業者名:有限会社オールフォアワン
■取材協力者名:石井 英寿(いしいさん家代表)
■事業所住所:〒275-0001 千葉県習志野市東習志野5-23-1