〈コンセプト・特色〉
認知症や障害、利用者や職員の関係などは横に置き、みなで創る共創のカタチ
〈概要〉
近所の人たちが集まる場から発展を続け、今では共生型地域密着型通所介護・障害者就労継続B型・ボランティアステーション・新型子ども会・新型自治会がごちゃ混ぜの食堂となっています。認知症や障害のある方が、ボランティアさんらとランチや弁当をつくり、地域住民が食べに来たり、弁当やパンを買いに来たり、ときには子ども会で、子どもがつくった料理を振る舞ったりしています。一般的には支援される立場にある人たちが輝き、周囲に笑顔と幸せを振り撒き、ほっこり安心できる居心地のよい空間をカタチ創っています。
【具体的な主な機能】
■亀吉鵠楽舞(サークル):会員1300名。神奈川県藤沢市鵠沼地区を中心に、居住地に縛られない新しいカタチの新型自治会を目指して活動中です。9割は近隣住民ですが、引っ越されてきた方が多く、居住地の自治会に加入していない方も多くいらっしゃいます。
■ボランティアステーション亀吉:亀吉鵠楽舞の内250名がボランティアとして活動しています。自身の特技を活かしてボランティア活動する方、特技はないけどお手伝いしたい方、特技もお手伝いもしたくないけど一緒にいたい方など、さまざまな方が、さまざまなかたちでボランティア活動を行っています。
■亀吉子ども会:亀吉鵠楽舞の内200名が子ども会の会員です。子ども食堂では、「子どもが料理をつくって親に振る舞う子ども食堂」を実施。引っ越されてくる住民の横のつながりに貢献しています。
■カルチャ―スクール亀吉(共生型地域密着型通所介護・生活介護):定員10名のデイサービスで、平均要介護度は1。7割が認知症のある方です。かめキッチンの料理をつくる方々で、働いた分だけ、時給で給料が支払われることも珍しい取り組みです。メディア等の取材を多数受けています。
■パン遊房亀吉(障害者就労継続B型事業所) :定員20名。障害のある方々が天然酵母・国産小麦のパンをつくり、販売しています。ふるさと納税サイト「さとふる」では、パン部門で、名だたるパン屋さんの中から、全国1位も獲得。若年性認知症や高次脳機能障害の方も多く働いています。
■よろず相談室・地域福祉支援センター亀吉(居宅介護・計画相談) :介護保険と障害福祉の両方を担当できるケアマネジャーが相談に応じます。市内に109ある相談事業所の中で、介護保険と障害福祉を担える方はごく僅かです。
・福祉住宅支援センター亀吉(宅地建物取引業) :不動産の相談窓口。主に住宅確保要配慮者(高齢・障害・生活困窮等)の相談に応じています。
・便利屋
・ヘルパーステーション
・地域の保健室
・心理教育室
・傾聴ボランティア育成派遣
・おばちゃん家
・地域の縁側(介護予防特化型)
などなど
〈運営主体〉
「NPO法人シニアライフセラピー研究所」当研究所は、高齢者(65歳以上)の方々が「高齢化問題」と社会で言われるように、“問題扱い”されている社会が問題であるという認識から誕生しています。「シニアライフ(シニアの人生)」を活用して世の中を「セラピー(療法)」していくNPO法人として、2006年にNPO法人シニアライフセラピー研究所を設立しました。理事長の鈴木しげが、一人で居宅介護支援事業所を立ち上げたところから始まっています。
・2007年 セルフケアプラン作成ソフトを開発(IT福祉事業)
・2007年 傾聴ボランティア育成派遣事業(市内20施設へボランティア派遣)を開始
・2007年 神奈川県初となる、カルチャー型デイサービス(通所介護)を開設
・2008年 藤沢市初となる、介護情報マップを作成
・2013年 藤沢市初となる、三障害(身体・知的・精神)、子ども、高齢者、外国人、ボランティア、地域住民等が集う“ごちゃまぜ施設”である、福祉コミュニティカフェ亀吉(就労移行・就労B型)を開設
・2017年 首都圏初となる、NPO法人が運営する宅地建物取扱業・不動産業、福祉住宅支援センター亀吉を開設
・2017年 新型自治会(居住地に縛られないゆるやかな住民組織)へのチャレンジとして、亀吉鵠楽舞を設立(初年度会員1,072名)
・2017年 パン遊房亀吉(就労B型)でつくる「国産小麦・天然酵母ミニパンセット」が、ふるさと納税サイト「さとふる」でパン部門月間ランキング全国1位を獲得。藤沢市に約1,500万円のふるさと納税を集める(2018年)
・2018年 全国初となる、「働く×リハビリ」+レストラン(食品衛生法)のカルチャースクール亀吉+かめキッチンを開設。利用者が有償ボランティアで、一般客に料理を提供するレストラン
・2018年 神奈川県初として、カルチャースクール亀吉が共生型デイサービスの指定を受ける
・2018年 神奈川県で3番目に、神奈川県指定「住宅確保要配慮者居住支援法人」となる
・2019年 株式会社ユーキャンの「高齢者傾聴スペシャリスト講座」を監修
〈取り組みをスタートした時期〉
2006年4月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
一人、また一人と担当する利用者が増えるたびに、一人ひとりの“生活を支える”ことは、介護保険制度のサービス利用だけで簡単に割り切れるものではないことを痛感してきました。地域住民やボランティアを巻き込みながら、ふらっと立ち寄れる場所が必要とあれば、地域サロンを立ち上げる。話し相手が必要とあれば、傾聴ボランティア育成派遣事業を立ち上げる。融通の利くヘルパーさんが必要とあれば、ヘルパーステーションを立ち上げる。遠くに出かけたいという希望があれば、福祉有償運送を立ち上げる。家の修理が必要とあれば、便利屋を立ち上げる……。
常に利用者のニーズに耳を傾けながら、「ないモノは創る」「夢をかたちに」をモットーに事業に取り組んできた結果、2020年6月時点で、43事業を展開するまでとなりました。“研究所”と名付けたとおり、常に地域福祉のパイオニアとして「10年先のスタンダード」を掲げ、斬新で先駆的な視点で事業を展開してきています。
〈運営コスト〉
介護保険や障害福祉サービスでの給付が一番大きな収入源になりますが、それでも運営が苦しいという声も聞きます。当法人の場合は、利用者やボランティアさんが仕事を担ってくれるため、必要最低限の職員数で運営することができています。そのため、経営で最も大きな割合を占める「人件費」が低いため、比較的容易に事業を回せていけています。
2025年には介護保険を脱却し、地域住民による自由気ままなボランティア運営に、2050年には脱職員化を目指したいと思っています。その時初めて、地域で永続発展する新型自治会として機能するのではと期待しています。
〈運営に必要な費用概算〉
200万円/月(かめキッチン)・1400万円/月(法人)
〈運営資金の確保〉
自費、寄付、介護保険、その他の公的補助
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
第1位:先駆的であるが故に否定されることが多いかめキッチンの前身は、すでに13年も前から開設していました。その当時は「認知症の人に包丁を持たせるのか」という声はもちろん、「デイサービスに娯楽は不要」とキッパリ言われていた時代です。デイサービスの県指定を取るのに何度も呼び出され、否定され続けました。利用者に相談すると、「けしからん」と県会議員に電話を入れてくれました。「これは人権問題だ」として反論しながら、次第に落としどころが見えてきて解決し、指定が取れました。
第2位:介護職員が問題をつくる設立当初は、地域住民の繋がりで職員を確保してきましたが、事業が右肩上がりとなり、人手が追い付かずに、ハローワークで人を募集するようになりました。そして雇った介護職員が、残念ながら問題を次々とつくっていく結果になりました。
具体的には、利用者を“利用者”として見て、サービス(あれもこれもやってあげる)をしてしまい、その結果、利用者さんやボランティアさんが担っていたものを奪い、やりがいを奪ってしまうことになり、さらには、「この方はあれができない。これが課題…」と、利用者を問題扱いすることが増えました。
2015年度に「サラリーマンよ、さようなら」という働き方改革を行い、約半分の常勤職員が退職することになりましたが、結果として、職員が減るごとに利用者さんやボランティアさんが活き活きして、残業が減り、仕事が楽になり、一人当たりの年収が上がることになりました。
第3位:事業所ではなく商店化へどうしても地域では「事業所さん」という見られ方をしてしまい、うまく地域に馴染めないところがありました。「あそこのお肉屋さん」「あそこのお魚屋さん」という流れで、「亀吉さん」というお店になることが目標だったため、施設と見れないためにどうしたらよいのかといろいろ試行錯誤しました。
介護保険事業者連絡会から脱退したり、地域包括ケアシステムから離脱したりして施設関係者との接触を減らし、逆に商店街や農家、他の技術職などと交流しつつ、新商品の開発や物販に力を入れ、商品で、地域の方に「おいしい」と言われることを目指して動くようにしました。今では、「あそこのパン屋さんおいしい!」と言われる、地域のお店になりました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
100点を目指さず、70点を目指す運営をしています。100点を目指すと、障害や認知症のある方には不利な環境となってしまいます。皆が70点くらいで回す環境であれば、誰にとってもやさしい環境となります。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
おそらく、介護事業所としてこんな回答をするところはないと思いますが、以下の3つとなります。
■新商品の開発 近くのモールで、弁当、惣菜、パンなどを販売していますが、一般の商店の商品が並ぶ激戦なので、そこでも1番に輝く商品開発ができればと試行錯誤中
■販路拡大 認知症や障害のある方の能力に合わせて商品を開発していくため、例えば、絵とか、陶芸作品とか、手芸品などを、なるべく高く売れる販路拡大を試行錯誤中
■生産効率の向上 認知症や障害のある方の工賃を上げるために、生産効率をムリなく上げて、ムリなく稼ぐラインを試行錯誤中
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
「上を目指すのではなく、下を目指して行きます」
上を目指して皆ががんばったり、目標を掲げてがんばったりすると、負荷がかかり、持続できず、ストレスがうまれます。
当法人では、下を目指して、皆ががんばらず、サービスなどはせずに、自分たち都合で、適当に遊んでいても回るシステムづくりを模索しています。
脱「がんばる」、脱「サービス」、脱「働く」という点に、仕組みづくりや工夫をしています。
〈今後のビジョン〉
2025年に、介護保険事業を、住民活動事業へと転換。
2050年に、新型自治会(現在会員1500人)を、新型自治体(会員2万人)へと転換。
給付や税金に頼らず、「誰もが安心して、ゆっくり、楽しく暮らせる鵠沼」を創造していきたいと思います。
■事業名:共創(かめキッチン)
■事業者名:NPO法人シニアライフセラピー研究所
■取材協力者名:鈴木 しげ
■事業所住所:〒251-0037 神奈川県藤沢市鵠沼海岸7-20-21 亀吉
■サイト:https://slt.tanemaki.fun/