〈コンセプト・特色〉
医療、介護の専門職も加わった若年性認知症本人と家族の集い。情報提供、共有、相談などを行う
〈運営主体について〉
caféマリエの運営主体は、個人で看護師です。高齢者施設の看護師として勤務していた2017年に、地域包括支援センターの協力を得て、caféマリエを立ち上げました。2019年に退職した後も、地域活動として毎月続けています。caféマリエは現在、渋谷区のオレンジカフェの1つとなっています。普段は、「暮らしの保健室」で地域住民のよろず相談にのっています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年9月3日
〈概要〉
参加者は、22人~25人(本人8人ほか)です。
毎月定期的(第3火曜日13:30~15:30)に若年性認知症本人、家族、専門職、地域ボランティアが会場(友人の経営するカフェ)に集い、コーヒーやお菓子を提供し、おしゃべりが始まります。前半は皆で情報提供、共有などを行いながら、後半は本人と家族にそれぞれテーブルを分け、相談や近況報告、悩み、今後の予定、希望などを聞くようにしています。それぞれに専門職が加わり、必要なことがあれば専門窓口につなぎます。
「本人のやりたいこと」を優先しており、過去には、シラス丼を食べに江の島まで日帰り旅行をしたり、お弁当を持参し代々木公園でピクニックをしたりしました。一時は農園を借り、野菜の栽培(ほうれん草、じゃがいも、ビーツ等)も行いました。時には夜カフェと称して皆で焼き肉を食べに行き、家族のストレス軽減も図っています。
毎年夏には高齢者施設で本人たちの浴衣姿を披露し、盆踊りのボランティアも続けています。年に一度講師を招き、caféマリエの中で若年性認知症に関わる講演も行っています。
〈取り組みのきっかけ〉
2014年から地域で試行錯誤の末、オレンジカフェ(認知症カフェ)をスタートしました。最初は主に高齢者が集い、時に認知症専門医を講師に招き、専門職も加わりながら、おしゃべりや学びの時間を続けていました。
ちょうどそのころ、若年性認知症本人の講演を聞く機会があり、若年性認知症の人はまだまだ世間に広く知られておらず、公的なサービスも確立されていないことから、通う場所もなく受け入れ先もないことを知りました。地域包括支援センターに聞くと、自分の住んでいる地域にも、若年性認知症の人が暮らしていることがわかりました。その方はつながるサービスもなく、2年近く家に引きこもった状態でした。そのことを知り、若年性認知症の人の集いの場を作ろうと決心しました。
2017年、地域包括支援センターの後押しもあり、「若年性認知症本人と家族の集い/caféマリエ」の立上げに至ったのです。マリエは、ハワイ語で「穏やか」を意味する言葉です。現在は、仲間の誰にとっても居心地のいい場所になっています。
〈運営コスト〉
運営資金は、行政からオレンジカフェの活動費として年間5000円が支給されています。カフェの開催時に、1人200円の参加費をいただくため、毎回4000円~5000円の収入があり、お菓子や飲み物などの必要経費を除いても多少の残金はあります。イベント外出時の交通費、食事代は各個人持ちです。講師を招いての講演料は、毎月の残金を貯めた中から支払います。事業として行っているわけではないので、多少の赤字は個人で負担したり寄付金で賄ったりしており、大きな赤字はありません。
〈運営に必要な費用概算〉
2800円/月
〈運営資金の確保〉
自費、寄付、その他の公的補助
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
caféマリエを持続させるためには、開催できる場所の確保がまず大切です。現在は、友人のお店を無償で借りているため家賃、部屋代は発生していません。都心部で何かを行う場合、無償での場所の確保はとても難しいことです。公的な施設は、抽選、順番、その他決まりごとがいろいろあって、それに当てはまらないと使用許可が下りません。場所さえ確保できれば、それ以外のことは工夫次第で何とかやっていけるように思います。地域の空き家利用などが第一候補になるでしょう。さまざまな世代の、居心地のいい居場所になると思います。あとは、活動に理解のあるよき仲間を集めることが大切です。一人では、絶対に続かないと思います。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
caféマリエを始めて大変だったことは、地域包括支援センターから新しい若年性認知症の方を紹介されても、なかなか本人の初めの一歩が踏み出せず、参加していただけなかったことです。せっかく参加しても、不安が強く、すぐに立ち上がり帰ってしまう……。そんなことが度々ありました。
不安を取り除き、仲よくなるために、まず一緒に昼食を作り一緒に食べるところから始めました。できることをできる人が行って、カレー、手作り餃子、天ぷらそばなどをつくって食べているうちに、少しずつ距離が縮まり会話も増えていきました。それでも出て来られない人のために、レストランで外食イベントを行ったところ、初めての人も参加できました。会場ではなく外のお店だったことは、きっかけづくりにはよかったと思います。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
やって一番よかったことは、caféマリエの仲間で行政に「若年性認知症デイサービスの新設」を要望したことです。皆で力を合わせ、その声をたびたび行政に届けました。担当者をマリエの集いに招待し、直接本人や家族の想いを伝えたり、手紙に書いて渡したり、さまざまな方法でアプローチし、決して諦めませんでした。
その甲斐あって、2019年4月、待望の「若年性認知症デイサービス」がオープンしました。全国でも、まだその存在は少ないでしょう。デイサービスに本人が通えるようになり、家族は安心して仕事に出かけられるようになり、生活の不安はなくなりました。現在は、皆さん週に3~5日利用されています。やってよかった1番のことだと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
進行性の病気のため、いつまでも同じ状態が続かないことです。そのために、在宅で過ごせる時間にも限りがあります。caféマリエを始めて3年半になりますが、昨年仲間が2人在宅での生活が限界となり、施設入所となってしまいました。それは、高齢者の入居する特別養護老人ホームで、入居者は、若年性認知症の人にとっては、親世代の人ばかりです。施設での日々の暮らしに想いを馳せると、ちょっと悲しくなります。時代背景の違い過ぎる年代なので、当然共有できる思い出はないでしょう。若年性認知症の人専用のグループホームや施設はできないものだろうか、高齢者と若い人では、その対処の仕方はきっと違うはずだから、と思います。
〈今後のビジョン〉
まずは、caféマリエを続けていくことです。そのために、理解のある若い後継者をみつけ仲間を増やしたいと思います。地域に空き家が借りられたら、そこを拠点とし、多世代交流を目指しながら、若年性認知症の人や高齢者、障害者、子どもたちの放課後の居場所などに活用したいと考えています。地域の人のよろず相談所「暮らしの保健室」も併設したいと思います。誰でもが入りやすい、敷居の低い居場所が理想です。
■事業名:若年性認知症本人と家族の集い/caféマリエ
■事業者名:中島 珠子
■取材協力者名:中島 珠子(caféマリエ代表)
■事業所住所:〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-12-7-5F