〈コンセプト・特色〉
山間地域の高齢者の住み替えを減らし、その間に、空き家を利用し、外部からの移住者を増やし、地域の子どもを増やし、地域の仕事場を増やす
〈取り組みの概要〉
長野県長野市の信州中条地区一帯と、西山地域と呼ばれる中条に隣接する地区です。高齢化率は53%で、中条地区の集落の一つは100%です。また、誰も住んでいない集落もあります。隣接する地区も同様です。
独居・夫婦高齢者が多く、子どもたちは地区外に自宅を建て、地区に戻る予定がありません。地区外にいる子どもたちは、高齢の親の生活が心配で、何か課題があると施設入所等を勧め、地域からいなくなります。すると、空き家が増えます。空き家は、そのままだと古びて使えなくなります。また、田畑を管理する人が減り、荒れ地となっています。
まずは、高齢者が希望すれば、最期まで自宅で安心して生活できるよう、看護小規模多機能事業を開始しました。
家族にも緊急時に対応できる安心感をつくるため、集落に高齢者がいる間に、集落の空き家を使用できるうちに紹介し、コロナの影響でもリモートで仕事ができる、密にならない環境での生活を提案しました。
また、山間地域で田畑を行いながら生活する人を募集しました。さらに、少子化により小中学校の存続が危機に面しているため、外部からの移住を増やすことで、子どもが増えることを期待しました。その際、大規模校と違い、少人数学級での学びの場の利点を提案しました。
看護小規模多機能型のスタッフとしても、中条に住み替えた方の仕事場としても提供しました。山間地域の循環をつくること、集落で若い人が増えることで、集落文化の継承が行われ、文化が守られます。そして、人口が増えることで、他の産業(商店・飲食店)などにも空き家等を利用してもらえるのではないかと考え、利用者の募集を検討しています。
〈運営主体について〉
・株式会社ながの地域福祉サービス(介護保険事業。事業所名:看護小規模多機能型居宅介護事業 燦倶楽部中条)
・社会福祉士(一応独立型)
・地区内で男同士が飲みながらやりたいことを企画する「男!飲み会」
・中条地区住民自治協議会(空き家対策:再熱プロジェクト。担当者を決め、集落に住む住民に、空き家があれば紹介してもらい、登録します。必要に応じて、市の補助事業につなげます。中条に住みたい人の相談窓口の一つです)
・中条アートロケーション「場」(中条地区で活動する、金属造形化さんです。中条地区を芸術家が集まる「場」にするために企画を行います)
〈取り組みをスタートした時期〉
2018年3月
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
同じ長野市内で、街中の地区にある介護保険事業所にて、17年前より地域密着型通所介護(宅老所)を現在2カ所、居宅介護支援1カ所運営しています。
7年前に、前法人より、現在のながの地域福祉サービスに譲渡されました。その際、自宅が中条のため、本社を中条地区に置き、その後、地区が開催する、地域の色々な方が集まる会議に声をかけていただき、参加するようになりました。
11年前に、中条村から長野市に合併し、中条地区になりました。合併時2,200人の人口が、年約80人のペースで減少。現在は1,600人程度です。高齢化率も高くなり、独居・夫婦高齢者世帯が増えていると知りました。また、高齢化による自宅での生活に不安があることも知りました。現在、中条地区にある介護保険サービスのみでは最期まで自宅での生活支援が難しいと知りました。また、空き家も多くあり、今後も空き家が増えることが予想されます。田畑も、高齢化により、年々荒れ地になること、お祭りなどの文化、地区行事も開催が難しいことを知りました。私自身、子どもがいますが、保育園・小中学校も、子どもが減るため、存続が厳しいという現実を知りました。
一つひとつの課題を別々に考えても、解決しません。この悪循環を止めるために、トータル的に考え、悪循環の一つを止めることで、全体的に変える必要があると考えました。その実行の中心は、20代から60代の住民と考え、まずは男同士で夢を語り、意見を出しあうために、飲み会組織をつくることから始めました。
〈運営コスト〉
介護保険事業は、株式会社ながの地域福祉サービスの運営として行っています。ボランティアなどの活動の拠点として、地域交流スペースの活用により、費用を減らしています。また、介護保険事業自体の継続が、高齢者の流失を減らし、雇用を増やす機会となっています。ここでの資金調達は、運営で賄っています。
空き家にかかる費用は、現在、私が社会福祉士であるため、成年後見の報酬を地域活動という名目で投入しています。しばらくは、社会福祉士活動として資金を使用していました。その後、空き家管理を行うNPO法人を立ち上げ、建物・土地の譲渡の受付や、安価での購入をしています。その後、リフォーム、管理、貸出を法人で運営しています。家賃収入等で、継続できるよう検討中です。
〈運営に必要な費用概算〉
3万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
当初、空き家に関しては、中条地区住民自治協議会の事務局に相談しても、あまり乗り気ではありませんでした。空き家の情報も一度調査したのみで活用もありませんでした。そのため、2年かけて自分で、中条地区を回り、空き家の調査と、当法人のホームページにて、空き家を紹介するサイトを立ち上げました。空き家には、紹介させてほしいというチラシと返信ハガキをポストに入れました。その後、空き家の情報を共有しました。また、中条に住みたいという問い合わせがあり、住民自治協議会としても、再熱プロジェクトを立ち上げました。
今後は、空き家については、住民自治協議会が中心となります。同じ世代の住民、特に中条地区で生まれ、生活する同年代は、人口が減ることに懸念があるも、行動がありませんでした。そのため、私自身もどんな同年代がいるのかを知り、そして知り合いたいという目的で、「男!飲み会」を企画しました。これは、住民自治協議会の協力を得て、家庭配布で飲み会の告知を行い、十数回、中条地区で飲める場所で開催し、その中で、盛り上がった話の活動を、企画・実行しています。空き家のリフォームの手伝いもお願いできるようになり、中条での楽しいことを提案できるようにもなります。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
個人の考えが、現在、中条住民自治協議会を通し、長野市中条地区でも地域の活動として認めてもらうことが増えてきました(空き家対策:再熱プロジェクト。長野市の移住の補助金や空き家対策の補助金活用)。
また、同年代の集まりが増え、中条での活動の提案、活動そのものが増えてきています。芸術家の方との交流もでき、世界規模の活動者へ中条の発信にもつながっています。少しずつですが、中条への移住の相談、問い合わせが増えてきています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
中条地区の空き家の持ち主の協力が得られないことです。「貸す、売る」を躊躇しており、そのまま置いておけば住めない状況になるのですが、放置が続いています。田畑に関しても同様です。そのため、移住の相談があっても、勧められる物件が少ないことです。
中条地区のコミュニティとして、ある流れがあります。介護保険事業所を開所するも、直接の相談が少なく、もともとある施設へ相談しなければならないとなり、その相談施設が抱え込もうとすると、紹介がなく、結果、施設入所を勧められ、集落からの高齢者減少に歯止めがかかりません。また、子どもの減少が著しく、学校の存続は一時、厳しいと思われます。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
中条地区内での生活の循環をつくることです。これは、今まで生活してきた方の、地区外に住む子どもに期待するのではなく(地区外に生活ができているので、無理に変えられない)、新しい住民を増やすことが必要です。新しい中条の住民を増やし、その中で循環をつくれるか。
今度は、子どもたちは中条に戻ろう事業です。高校、大学、若い頃の職場は、中条の地区外でもよいが、必ず戻ってくる。戻るときはできればパートナーを連れて戻る(友釣り作戦)事業です。
空き家や誰もいない集落に関しては、企業誘致なども企画しています。東京から新幹線を使えば、「最速2時間半で、山間地域」を利点として紹介します。ビルのテナント料を考えれば、コストも抑えられます。また、自然豊かな生活でリフレッシュでき、長野市内もへも30分以内で行けることで、買い物なども生活への不便さも減少します。
〈今後のビジョン〉
中条地区人口3,000人を目指します。中条の地区内で、50年前に戻ること…がよいかはわかりませんが、中条地区内で、生活がある程度完結できることです。
・お店もあり、飲み屋もある。
・仕事場も会社誘致で増え、また田畑として利用していた農業、山林を整備し活用する。
・中条の恵みを出荷できる。
・中条での観光も、歴史、山登り、温泉、キャンプなども増やしていける。
・学校も少人数学級で、手厚い勉強ができる。
・今まであった集落の文化も守られ、継続ができる。そして、希望すれば最期まで自宅で住み続けられる。
・3,000人規模になると、循環と完結が行える。
■事業名:信州中条(長野市)山間地域過疎化活性化
■事業者名:株式会社ながの地域福祉サービス
■取材協力者名:小林俊之(株式会社ながの地域福祉サービス代表取締役)
■事業所住所:〒381-3203 長野県長野市中条2294番地7