〈コンセプト・特色〉
一つの空間で、高齢者も障がい者も子どもも動物もみんな一緒に生活する、小さなコミュニティ
〈概要〉
介護保険の拠点を使い共生型と言われる保険事業の営みの中で、制度にはまらない人や困難な悩みを抱える人々の居場所づくりから始めようと地域に出向いてみると、地域のさまざまな課題が見えてきました。空き店舗を活用して商業と介護の融合を図り、町の中に明かりを灯し、枠にはまらないサービスを提供しています。
〈運営主体〉
「有限会社わが家」
有限会社という形態をとっています。地方公務員であった女性2名で事業を立ち上げ、制度に人をはめ込むことなくできることを見つけるとともに、その反対に制度化されていなかったものを制度化して地域の困りごとに対応してきた実績から、「困ったときのわが家さん」と言われる今日この頃です。
〈取り組みをスタートした時期〉
2003年9月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
まずは自身の親の認知症介護ができる場所として、「宅幼老所」を地域(長野県宮田村)の中で設えました。近隣地域の方々に関わるにつれ、困っているのは認知症の高齢者だけではないことを教えてもらい、障がいのある方、子ども、妊娠中のお母さんと利用者が広がりました。
〈運営コスト〉
運営資金については、保険収入が9割がたを占めています。その他は自費設定の分と、有料老人ホームの賃料が収入です。地銀2行さんがアドバイザー的な役割で関わってくださり、いつでも相談に乗ってくれています。持続可能な仕組みを作るため、シニア世代の活用と、介護を卒業したOBさんたちに関わっていただきながら、弊社の強みなどを地域に発信しています。また、行政の方々とも良好な関係でつながっていますので、何かあればすぐに相談できる間柄です。
〈運営に必要な費用概算〉
1,500万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
事業開始当時、立ち上げメンバーの絆が深く、1年で結婚退職者が4人も出た年がありました。その時のスタッフなら何でもできるものと思っていたのですが、1人欠け2人辞めといった状況の中、人員の補充はできたのですが、最高のパフォーマンスができなくなって悩んだこともありました。自分自身の発想の転換と、目の前にいてくれた一人ひとりの利用者さん、家族の声に救われました。
また、40代の役職者がやりたいという事業のために法人側が準備を進めていたにもかかわらず、「仕事と家族のどちらを取りますか」というような状況になってしまい、家族を優先し退職したこともありました。その時は、部下たちが落ち込んで悩み、モチベーションを保つのがとても大変だったと思います。しかし、同僚たちが、一致団結して気分を上げていき仕事に穴を開けない努力をしてくれました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
社内外に目利きの世話焼きおばさんたち(昭和生まれ)を配置しています。経営を担う者たちに不足しているものに気づき、心配等の声を上げられる人たち、また、相談に乗ってくれ何とかしてくれる、そういったおせっかいおばさんたちがいてくれます。子育てに悩むスタッフや介護に行き詰まったスタッフのケアをしてくれたり、地域へどんどん出向き困っていることを掘り出し、それからしかるべきところにつなげることを積極的に行ってくれ、町の中の地域包括支援センターの“ブランチ”みたいな場所づくりをしてくれています。
また、いろいろな世代に働いてもらうため、子どもたちと一緒に仕事に来たり、介護している親を一緒に連れて来たり、上は82歳から下は2歳が、お仕事をしてくれています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
人材育成については、いつも悩むところです。スキルアップはどのスタッフも望むところなので、法人としてもバックアップはします。しかし近年では、身に付けたであろうスキルを十分に発揮して仕事に向き合うスタッフがあまりにも少ないような気がしています。また、キャリアアップにしても、役職に就くことを望まない現状があり、役職についたとたんに離職を考えたり、精神的ダメージを受けてしまったりする30代が多いと感じます。小規模がゆえに整っていないシステムにも原因があるかと思いますが、いつまでも現場にいたいというスタッフが大半で、組織マネジメントを一緒にできるスタッフ探しが大変です。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
今年1月、「長野県SDGs推進企業登録制度」に申請を行いました。申請にあたり勉強させてもらう中で、私たちがこれまで行ってきた取り組みでこの理念に合ったものがいくつもあり、それをきちんと自分たちで、評価し分析し、それを強みとしていくことが大切ではないかと思いました。
今後、高齢者人口はいったん増えますが、人そのものが減っていく時代に何がどう必要かを考え、30年後の未来に向けて今の仕事をしようと思っています。人にやさしい、地域にやさしい、地球にやさしい、そんな事業体でありたいと考えています。
〈今後のビジョン〉
私たちに関わってくれているすべての方々が、自分らしく、地域の中で生き抜くことを、全力で応援できる企業でありたいと思います。企業ですから利益も考えますが、みんなが3方良し、5方良しになれれば何よりです。そのために弊社の強みを生かして、地域から困りごとを聞き、みんなと一緒に悩み、解決の道筋をつけ、地域を元気にしていく。「困ったときはお互い様」と言える社会で、究極の目標は、「有限会社わが家」を解散することです。なぜなら、みんなで支え合えれば、うちのような会社は必要ありませんから。早くそんな日が来ればと思います。
■事業名:「わが家」~宅幼老所から地域づくりまで
■事業者名:有限会社わが家
■取材協力者名:大石 ひとみ(有限会社わが家代表取締役)
■事業所住所:〒399-4301 長野県上伊那郡宮田村7576-8