〈コンセプト〉
なごみの家葛西南部は、子どもから高齢者まで、誰もが集える交流の場です。コロナ前までは1日平均40人ほどが訪れていました。
地域のつながりを学生と共につくっていくことをコンセプトに運営しています。
〈特色〉
「なごみの家」は江戸川区内に全部で9カ所あります。その中で、学校が運営しているのは、この「なごみの家葛西南部」だけで、東京福祉専門学校の校舎内に併設しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2018年 4月1日
〈概要〉
江戸川区社会福祉協議会より学校法人滋慶学園東京福祉専門学校が運営委託を受けています。職員は常勤3名、非常勤5名です。職種は3つに分かれており、一番のメインは相談員(コミュニティーソーシャルワーカー)で常勤2名です。そのうち1名は卒業生です。
所長は、管理員という立場になります。施設整備や事務的なこと、初めて来たときの話し相手になり、相談員や看護師につなぎます。あとは非常勤の看護師がローテーションしています。毎日3~4名勤務しており、相談員と看護師は必ず毎日おります。その他にボランティアとして学生や卒業生が、都合に合わせて運営に関わっています。
〈取り組みのきっかけ〉
江戸川区社会福祉協議会より委託を受け、「なごみの家」として2018年4月から運営を始めました。
2014年7月~2018年3月までは、東京福祉専門学校として、地域向けに高齢者サロンを開いていました。高齢者サロンは、学生のコミュニケーション力向上と、地域の信頼を得ることが目的でしたので、住民の主体性を引き出し、地域課題を地域住民の手で解決することを目指す「なごみの家」とは目的が異なります。
当時は、人の役に立ちたいという思いはあるけれど、どうかかわっていいのか全くわからないという学生が多くなってきた頃で、実習先で何もできず途中で実習が中止になることもあり、コミュニケーション力の向上が課題でした。
コミュニケーションは授業だけでは、なかなか身につきません。学校の近所は高齢者の多い地域であり、その人たちに楽しんでいただくことを通して、日常的に実践できれば、学生のコミュニケーション力向上につながるだろうと考えたのが、高齢者サロンでした。
プログラムを行っていれば、人が集まってくるわけではありません。最初の頃は、私が近所の公園から、おじいさんを連れてきたりしていました。そうやって一人、また一人と来てくださる方が増えていきました。一気に人が増えるようなことはありません。
高齢者サロンに来ていた方の中には、今も「なごみの家」にも引き続き来てくださっている方がいらっしゃいます。
〈運営コスト〉
収入は社会福祉協議会からの委託費(年間契約)がすべてです。
経費の約8割が人件費で、残りは光熱費や消耗品の購入等に充てています。この事業だけでの利益はありません。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
■人材育成
社協主催の研修には必ず参加しています。また、学園単位、学校単位の研修では組織運営を中心に学んでいます。その他に、現在は月2回の運営会議の中で、職員に講師を割り振って研修(インシデント・アクシデント、個人情報、防災)をしています。
開設当初は目の前の問題に追われていましたが、3年経ちそれぞれのスタッフが何をすべきかを理解するようになってきました。
最近では、朝礼・終礼時においても職員同士で深い議論を交わせるようになってきました。そして、ときには職員が頼んでもいない資料を作成してくることもあり、驚いています。仕組みではありませんが、職員間のコミュニケーションの大切さを痛感しています。
サロン活動では、卒業生による月1回の健康講座のほか、現役の学生は授業や研究の一環としてボランティアとして活動したりしています。これからはサロン活動だけにとどまらずに、もっと学生が前面に出るようにしたいと思っています。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
認知度が低いことです。江戸川区の実施した調査では、「なごみの家」を知っていると答えた人が15%以下だったそうです。
「なごみの家」という名前は聞いたことがあるけれど、何をしている所かわからない。お年寄りの場所だから関係ない、と思われている方もたくさんいます。“福祉施設“というイメージです。
「なんでも相談を受けます」と窓口を開いていても、知らなければ、相談には来ません。相談内容は個人の課題ですが、実はそれは地域の課題につながっていると意識しないといけないと考えています。
ですから、すべての仕事は地域のニーズや課題につなげ、「なごみの家」としても解決策を考えて、解決していくことが大切だと思っています。
認知度を上げるためにチラシを2500枚程度配ったり、先日は、ポケットティッシュのポスティングもしました。なりふり構わずやっていきます。
もう一つ苦労といえば、成果を表現できず、伝えることができていないという点です。
成果を見える化して、地域で見てもらえたら、さらに良くなると考えています。現在は自己評価のみ行っていますが、地域からの評価も受けてみたいと思っています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
地域と関わるのは難しいことですが、楽しいことです。
地域の方々とうまくかみ合わないことも時にはあります。思いもよらないことも起きます。その全てを受け止めることが、私は楽しいです。受け止めれば、そこから何かが始まり、考えるきっかけになります。だから、毎日が楽しいです。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
失敗したと考えているのは、学生が企画したプログラムに参加し、来た人が楽しんで帰っていく様子に満足し、目先の喜びを追い求めてしまったことです。
高齢者サロンでは、目先の喜びが達成できればそれで充分でしたが、「なごみの家」が目指すのは地域共生です。「学生から高齢者に何かをしてあげる」という関係は、福祉のほんの一部分にすぎません。私たちが本当に目指しているのは、地域住民が主体性を発揮するきっかけをつくり、育むことです。
福祉専門職は、地域共生社会の鍵となる人材です。しかし、地域共生は福祉ばかりではありません。幅広い分野の人たちとのかかわるスキルが必要になってきます。福祉専門職には個別支援のスキルはあるけれど、地域支援のスキルはまだまだです。なごみの家葛西南部としても、今までは個人に目がいって、地域支援が薄かったと思っています。
〈今後のビジョン〉
地域の課題を地域住民の手で解決できるよう後押しをするのが、「なごみの家」の役割で、それが地域共生社会につながっていくと考えています。地域の中で、その担い手を学生と共に育んでいきたいです。
難しく時間もかかると思いますが、一人二人から地道にコツコツとそういう方たちを募って徐々に数を増やしながら、「なごみの家」の信頼も高めていきたいです。
これまでは派手なことも結構やってきたけれど、これからは地道なこともコツコツやっていかないといけないと思っています。
それと、在学中の学生が継続的に「なごみの家」の事業に関われるような形にしたいと思っています。支援の対象によって職種が異なると思っている学生もいますが、それだけに留まらないということを伝えていきたいです。
社会福祉士のカリキュラムも変わり地域に重きを置くようになりました。「なごみの家」はその最先端を実践していると自負しています。学校の中で運営しているにもかかわらずそのことを学生が知らないということがないように、地域とともに活動していきます。
「なごみの家」が地域の人に用事もなく立ち寄れるような「2番目の家」になること、と同時に、福祉の専門職が用もなく地域のコミュニティの中に入っていけるような関係性をつくっていきたいです。
■事業名:なごみ家葛西南部
■事業者名:江戸川区社会福祉協議会・学校法人滋慶学園 東京福祉専門学校
■取材協力者:福原 康久(なごみ家葛西南部所長)
■住所:〒134-0087 東京都江戸川区清新町2-7-20 東京福祉専門学校内
■取材・まとめ:立崎 直樹(有料老人ホーム勤務)
■取材時期:2021年2月