〈コンセプト・特色〉
病気で諦めていた“旅行”を叶える、医師主導による旅行連携サポート事業
〈取り組みの概要〉
弊社では「病気で“旅行”を諦めていたすべての人が、安心して安全に旅行ができる環境づくり」を目指して活動しています。
病気を抱えていても「自分らしく生きたい」と願い、その方法の一つとして「旅行へ行きたい」方が医療現場には大勢います。しかしながら、実際に病気を抱えながら旅行が実現できる人は、現状はごく一部に限られてしまっています。
旅行を諦めてしまう大きな原因としては、①医療介護の不安、②同行者の不在、③情報の課題、④時間の課題の4つが挙げられます。
これまでも旅行会社や看護師・介護士などによる旅行サポートは存在していましたが、医師による旅行サポート体制はごくわずかでした。そのため弊社では、医療と旅行の両方の知識をもつ「旅行医」が、医療と旅行の隙間を埋めることで、病気で諦めていた旅行を叶え、医師主導による旅行サポートを実施しています。
〈運営主体について〉
「トラベルドクター株式会社」
2020年12月24日設立(代表取締役、医師:伊藤玲哉)。医師を含む医療・介護従事者(看護師やリハビリ・介護士など)による旅行サポートチームにより、安全な旅行の実現に向けて医療介護サポートを実現しています。また、医療業界だけでなく、旅行業界(旅行会社・運輸会社・宿泊施設・保険会社)などのさまざまな業界を超えた連携も行っています。
現在は、「諦めていた“旅行”を叶える、たびかなプロジェクト」を実施中です。
〈取り組みをスタートした時期〉
2020年12月24日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
これまで医師として、医療現場で多くの患者さんの診察に従事する中、「旅行へ行きたい」という言葉を多く聞いてきました。
「温泉に入りたい」「あの店の料理をもう一度食べたい」「お世話になった人に会いに行きたい」「故郷に帰って、もう一度お墓参りがしたい」など、患者さん一人ひとりの人生には特別な想いがあります。しかし、多くは願いを叶えられないまま最期を迎えられています。
そこで、これまで医療現場で多くの患者さんが叶えられなかった願いを、医療の力で支えるため、諦めていた旅行を叶える医師、すなわち「旅行医」を志すようになりました。
これまではボランティア活動が主でしたが、自分一人で叶えられる旅行には限界がある。そこで、誰もが旅行できる仕組みづくりを作るべきだと考え、法人を設立する運びとなりました。
〈運営コスト〉
現在、事業のサービス化に向けて準備を進めています。まずは、実際にご病気を抱えている方が旅行している姿を認知していただくため、約半年間は料金を徴収せず、プロジェクトとして活動を進め、サービス化に向けて安全性を確認します。資金は、クラウドファンディングにて380万円を調達しました。
プロジェクト終了後から旅行者もしくは旅行関連会社より料金・手数料を受け取ります。人的コストによりサービス開始直後は、高単価サービスとなってしまいますが、対応範囲拡大や旅行者数増加に伴う規模の経済によりコスト低下を実現し、一般化を目指します。
〈運営に必要な費用概算〉
100万円
〈運営資金の確保〉
自費
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
多くの患者さんは、長期間に及ぶ闘病生活により「旅行に行ける」という自信を失ってしまっています。また旅行を諦めているのは患者さんだけではなく、医療従事者や旅行関連会社も不安を抱えています。それは「もし旅行中に、何かあったらどうしよう」という不安です。しかし、この「何か」を具体的に説明できる人はほとんどいません。それは、自身のいる専門分野以外の業界について知らず、業界を超えた連携が不十分だからです。
弊社は、医療介護の総合チームにより、病気を抱えた方の課題を解決します。さらには旅行業界や航空業界などとの業界を超えた連携により、「何か」という漠然とした不安感を一つひとつ可視化して解決することで、病気で諦めていた旅行を実現します。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
一番の想いは、「旅行を通じた体験」です。
我々はこれまで旅行を通じ、病気を抱える人のさまざまな変化を見守ってきました。これまで病気により自信を失い沈み込みがちだった方が、旅行を通じて「自分はまだこんなにできることがあったのだ」と自信をもつことができ、目標をもって生きていける道しるべとなることができました。
また、ご家族にとっての変化も大きいです。認知症の場合、直近の記憶を忘れてしまうため、家族間でのトラブルにつながってしまうことがあります。しかし認知症の場合は、過去の記憶は残っていることが多いのです。そのため、旅行で思い出の土地を巡ることで、「昔ここでよく遊んでいた」といった会話が生まれることにより、家族にとってもご本人の新しい一面を知るきっかけになります。旅行の体験を通じ、家族の絆を強められると実感しています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
一番は、新型コロナウィルス感染症です。認知症のような疾患は、人から人へ病気が移ることはないですが、感染症は違います。新型コロナウィルス感染症により、これまで以上に感染リスクのある高齢者や基礎疾患のある方の旅行が遠のいてしまったことは間違いないでしょう。
しかし、別の変化もありました。それは、社会の意識の変化です。これまでは、旅行は「娯楽」と位置付けされることが多く、そのため「旅行ができなくても問題ない」と思われがちになり、持病のある方の旅行の必要性を軽視されることが度々ありました。
しかし現在、新型コロナ感染症により、健康者や若年者も旅行ができないという経験をしている。その中で、「旅行は人生によって不可欠なものだ」と認識し、この事業に共感する人や企業が増えたと実感しています。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
国内海外を含め、持病を抱える方への旅行支援をされている多くの素晴らしいボランティア団体やNPO法人が存在しています。旅行会社でバリアフリーツーリズムに長年取り組まれている企業もあります。
しかし、病気で諦めていた潜在的な旅行ニーズを満たすには、まだまだ規模としては十分ではありません。寄付だけに依存するモデルでは、社会情勢や景気の影響により持続性には不安が残ってしまいます。今後100年間、安定して誰しもが行きたい場所へ旅行ができる環境づくりのためには、経済的にも自立したビジネスモデルの構築も必要になると考えています。
〈今後のビジョン〉
「旅行に行きたい」という患者さんの言葉には、「今を生きたい」という願いが込められています。
弊社は、病気で旅行を諦めていたすべての人が、安心して安全に旅行ができる環境づくりを目指しています。たとえ大きな病気を抱えていたとしても、旅行を通じて誰もが「自分らしく生きる」ことができる社会を目指し、一つずつ実現していきたいです。
また、日本は世界一の高齢化社会です。今後高齢化を迎える他国に向け、旅行を通じた日本の医療の新しいカタチを示していきたいです。将来的には日本モデルを海外でも普及し、日本から海外へ、そして海外から日本へも安全に旅行ができる環境を目指します。
■事業名:トラベルドクター株式会社
■事業者名:トラベルドクター株式会社
■取材協力者名:伊藤 玲哉(トラベルドクター株式会社代表取締役CEO)
■事業所住所:〒143-0014 東京都大田区大森中2-15-7