〈コンセプト・特色〉
ダブルケアのおしゃべり会・想いの共有の場・ピアサポートの場
〈取り組みの概要〉
取り組みから5年経過し、少しずつ広がってきている状況です。
今現在、奥州市水沢で毎月、奥州市江刺の子育て支援センターで隔月、花巻開催はお休み中、紫波開催は隔月、盛岡開催を始めたばかり、という感じで開催しています。毎回2時間くらいの時間で、公共のスペースを主に利用する他、子連れに優しい飲食店で時々ランチ会を開催しています。特徴としては、子育て支援センターのイベントとして組み込んでいただいている他、花巻開催は日曜日に設定していました(現在お休み中)。
コロナ禍においては、オンラインでの開催も試してみました。
〈運営主体について〉
岩手奥州ダブルケアの会の主な活動は、以下の4つです。
①ダブルケアカフェの開催
②ダブルケア周知活動(ダブルケアシンポジウムや勉強会の開催)
③ダブルケアに関する研究や取材依頼への協力
④ブログ等を活用したダブルケアに関する情報発信
〈取り組みをスタートした時期〉
2016年3月18日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
代表の八幡は、ダブルケア当事者でした。子育て支援センターで介護の話はしづらい、かといって、介護者教室や認知症勉強会に行くと、30代の参加者は自分一人。決して子育て支援センターで話を聞いてもらえなかったわけでも、介護者教室で仲間ができなかったわけでもありませんが、どんどん孤独を感じるようになりました。
そこで、ダブルケア当事者同士の「ならでは話」で笑い合えたり、泣き合えたりしたらよいのではないかと考え仲間探しを始めたのがきっかけです。当時、ダブルケアカフェを開催していた横浜の団体があり、「私も開きたい」と相談し、開催するに至りました。
〈運営コスト〉
ダブルケアシンポジウムやダブルケア勉強会の開催の際には、その都度、助成金を申請し、開催していますが、「ダブルケアカフェ」事業に関しては、会場費のかからない場所、飲食代は各自といったように、お金をかけずに開催してきました。しかし、ダブルケアカフェの開催場所が広範囲になり、お世話係の八幡の交通費もかさむことになったことから、来年度まではカフェ事業でも助成金を活用しています。
持続可能性を確保するための工夫としては、「お世話係の八幡はがんばりすぎない」「他の会員に役割や当番を求めない(参加者が自然と手伝ってくれます)」「ゆる~く開催する」に尽きると思います。また今後は、その地域で主体的に開催してくれそうな想いのある当事者のサポートをしていくことにも注力していきたいと考えています。実際に、いつか自分もダブルエアカフェを開催したいという声も届いています。
〈運営に必要な費用概算〉
6,000円/月
※ほぼ交通費・チラシ印刷費
〈運営資金の確保〉
福祉財団等の助成金
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
カフェ開催を始めて5年ですが、苦労していると思ったことはありません。当初、どうしたらいいかな? と思ったことは、ダブルケアカフェ、いえ、そもそもの「ダブルケア」に関する周知が全くできていなくて、必要な人に情報が届いていないことでした。それは、ブログやホームページにより、ネット検索が主流の当事者世代に少しずつ届くようになりました。
次は、当事者の話を聞くにつれ、支援者側が「ダブルケアを知らない」という事実も見えてきました。より多くの人に知ってもらうために、第一線の研究者を招いてのシンポジウムや勉強会(ワークショップ)を開催してきました。もちろん、一任意団体が開催する勉強会では、なかなか参加者は増えませんが、新聞で報道されることも増え、参加してくださった議員さんが議会で質問してくださり、さらには社会福祉法の改正により「重層的支援体制整備事業」にダブルケアが書かれたことにより、注目を集められるようになりました。
奥州市では、市内の幼保施設にダブルケアカフェのチラシが貼られ(これは直接私が依頼したことではありません)、岩手県はダブルケアガイドブックを作成しました。小さな活動ですが、着実なボトムアップ作戦をしてこられたと思っています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
やっていてよかったと思うことは、月並みですが、「この場所があってよかった」「ここに助けられた」「介護の話は今までしたことがなかったから…」といったダブルケアラーの言葉を聞けることです。また、5年開催してみて気づいたことですが、長く参加してくださっている方が、自然と聞き役になってくれたり、運営のお手伝いに回ってくれたりするという、よいサイクルができてきていると思います。
また、一つ前の回答とも重複しますが、シンポジウムや勉強会の開催を着実にしてきたことにより、新聞で報道され、専門職だけでなく市民にも広く知られ、議会で質問され、私たちの小さな活動も制度の狭間で困っている人への支援をしている場所という「市民権」を得られるようになったと感じています。
今では、市や県の各種計画にダブルケアが盛り込まれ、市の広報や、岩手県が作成したダブルケアガイドブックにも当会の活動を載せていただけるようになりました。まだまだ、相談窓口で思うようにダブルケアへの理解が得られず苦しむダブルケアラーもいますが、着実に進んでいると感じています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
今、悩んでいることは組織体制をどうしていったらいいのか…ということです。前述したとおり、役割や当番制などは一切行わず、「参加者は参加したいときだけ参加する、ゆる~く開催する」というのがモットーの開催方法です。
会員は、ほぼダブルケアラーであり、当然ながら、「忙しい」みなさんです。また、ダブルケアを終え、フルタイム勤務に戻っていく方もいますので、それぞれのダブルケアのステージによって、毎回参加するとき(人)もあれば、気が向いたときだけ参加するとき(人)もあります。カフェには参加できないけれど、気にかけて連絡をくださる人もいます。
そのような体制でいいと思っているのですが、全国でもまだ珍しいダブルケアの当事者団体で、これからダブルケアカフェというピアサポートの場を広げていくためには、体制をもう少し整えたほうがいいのかなと、悩むこともあります。
そして、整えることによって、忙しいダブルケアラーが少しでも収入を得られる(経験談を話すなどの講演活動等)団体になれないかと考えることもあります。これまでに、メンバーで寸劇を公演するなどして、謝礼をいただくことがありました。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
持続させるための工夫は、会場は公共のスペースや理解のある飲食店を利用し、飲食代などは、各自負担にしています。助成金を申請する手前、会員になっていただいていますが、役割や当番制をとっていません。代表(お世話人)である八幡もがんばりすぎないことにし、毎回お茶やお菓子等は用意せず、てぶらで行っています(笑)。八幡の役割は、会場を予約して日程を配信(ブログと公式LINE)することです。そうすると、長く参加してくださっている方が、「八幡さん一人で大変じゃない?」と言ってお手伝いをする側に回ってくれます。
5年前、「参加者がゼロのときがあっても落ちこまない! 5年後10年後に奥州市にダブルケアカフェがあってよかったね、と言ってもらえていればそれでいいから、細く長く続けよう」という目標で始めました。今5年が経過して、今でも参加者ゼロのときもありますが(笑)、社会の中でのダブルケアの周知は、着実に進んでいると実感しています。
〈今後のビジョン〉
今後のビジョンは、たくさんありますが……一つだけ書きます。
私は、ダブルケアは「地域共生の実践者」であると思っています。
ダブルケアラーが過ごしやすい地域は、介護が必要なお年寄りも、小さな子どもも、ケアラーも過ごしやすい地域ということです。ダブルケアラーが地域に積極的に出ていくことによって、そこに自然と地域共生社会ができあがります。ダブルケアが磁石となり、高齢者も子どもも、支援者(専門職も一般市民も)も引き寄せられます。ですので、私はダブルケアラーも、もっと地域を頼り、地域に出て行こうと声をかけています。例えば、地域の認知症カフェ、地域のイベント、近所のお茶っ子のみetc。
民生委員さんやご近所の福祉スタッフさんを知らないダブルケアラーも多く、高齢者の見守りをする人、というイメージがあるようです。そうではなくて、積極的にそういった地域の人とかかわり、ゆくゆくダブルケアを終えた後には、自分もご近所のサポート役となるような人材にもなり得ると思うのです(もちろん、必ずやれというわけではないですよ)。
ダブルケアが地域をつくっていく、という壮大なビジョンをもっています。
■事業名:ダブルケアカフェ
■事業者名:岩手奥州ダブルケアの会
■取材協力者名:八幡 初恵(岩手奥州ダブルケアの会代表)
■事業所住所:〒023-0854 岩手県奥州市水沢大鐘町一丁目72