〈コンセプト・特色〉
認知症の人たちが全国から集まり、富士山のふもとで、日本一をかけて戦うソフトボール大会
〈概要〉
全国から約300人(うち認知症当事者60人)が参加し、チームを4~6チームに分けて大会を行います。前日には親睦を目的に交流を図ります。
【土曜日】交流
親睦会、富士宮市メンバーとの交流・観光案内(富士宮市メンバーには各地区の担当者がいます)
【日曜日】大会
・場所 静岡県営ソフトボール場
・プログラム
(1)開会式 9時~9時30分
(2)エキシビジョンマッチ 9時40分~10時20分
(3)第1試合 10時30分~11時40分
(4)応援合戦(宮っ子鼓隊)11時45分~12時
(5)第2試合 12時10分~13時20分
(6)第3試合 13時30分~14時40分
(7)閉会式(表彰式) 14時40分~15時10分
〈運営主体〉
「Dシリーズ実行委員会」
「認知症になっても安心して暮らしていけるまち」を目指して集まった有志による団体です。メンバーには、富士宮商店街連盟、認知症当事者、家族、福祉事業者、社会福祉協議会、キャラバンメイト、コミュニティラジオのパーソナリティ、行政等が参加しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2014年11月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
認知症の人たちの旅行支援を行っているNPO法人「認知症フレンドシップクラブ富士宮」のメンバーが、奈良に旅行に出かけた際、旅先で女性の認知症当事者から「ソフトボールの全国大会をやったら、楽しいのではないか」と提案されたのがきっかけでした。富士宮市には1998年に女子ソフトの世界大会が開かれた県営のソフトボール場があることも後押しとなり、全国の認知症当事者や家族に、「ソフトボールをやるために、富士宮市に来てみませんか」と呼びかけてみることになりました。
〈運営コスト〉
Dシリーズ実行委員会メンバーが中心となり寄付を集めます。寄附は市内の介護事業者、JA、商店街、飲食店、スポーツ店等。大会当日はボランティアが募金箱を持って客席を回り、寄付を集めます。
〈運営に必要な費用概算〉
15万円/年
〈運営資金の確保〉
寄付
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
実行員会を開催した当初は、認知症の人のマイナス面をどうサポートするのかといった議論に陥りやすかった面もありましたが、選手(認知症ご本人)たちの中には、“サポートはいらない”と話す人もいました。たぶん、日常生活において積み重なっていた不満の表れでもあったように思います。周りのサポーターも、選手たちのいきいきとした表情、球場に入るや否や、やる気満々でキャッチボールを始め、巧みにゴロをさばき、グランドで転んでもすぐに立ち上がりプレーを続ける姿を見るうちに、心配どころか一緒になって試合にのめりこむようになっていきました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
Ⅾシリーズは毎回ドラマが生まれるように感じます。若年性認知症で引きこもりがちだったAさんは、大阪で認知症の人の家族会に入ったのがきっかけでⅮシリーズに誘われ、心配した仲間に半ば強引に連れて来られたようでした。しかし、試合で活躍し、最優秀選手にも選ばれました。Ⅾシリーズを経験して、病気になっても感動できることに気づき、趣味の登山も楽しめるようになったと言います。Aさんは、毎年大阪から参加しています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
2020年、2021年は新型コロナウイルス感染拡大により大会を開催できませんでした。しかし、Ⅾシリーズは、選手たちが1年に1回元気な姿を見せ合うことで、選手たちの励みにもなっているように感じていました。2年続けて開催できなかった今回は、オンラインによる交流イベント(大会)ができないか、実行委員会で模索しています。Ⅾシリーズの良さを活かしながら、選手たちの交流イベントをどう行うか頭を悩ませています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
実行委員会を開催する際、必ず最初に目的を共有することです。「認知症になっても安心して暮らしていけるまち」になるということは、誰が認知症になっても、自分のやりたいことにチャレンジできるまちです。また周りがそれを尊重して応援できるまちだと思います。
Ⅾシリーズは、ソフトボール大会を通じて、富士宮市民と、認知症を持ちながらも元気に活動している全国の認知症当事者および認知症サポーターとの交流を図ることにより、富士宮市民に認知症になっても自分らしくチャレンジできることを体感してもらい、認知症になっても暮らしやすいまちづくりをめざすものです。
〈今後のビジョン〉
毎年、大会を続ける中で、以前には普通にプレーできていた人が、ボールを打てなくなったり、キャッチができなくなります。走っていた人が歩くことしかできなくなります。そうした姿を目の当たりにすることになりました。
過去の参加者に参加を呼びかけると、「今年は無理だと思います」という返事が家族から返ってくることがあります。それだけ症状が進行しているという意味です。しかし、そうした家族が球場に顔を見せて、「今年も来られました!」と笑顔であいさつすると、なじみの顔がそれを大喜びで出迎えるという、そんなドラマが毎年繰り返されるようになりました。そのような症状の進行した人でも参加し続けることのできる仕組みづくりに取り組んでいます。 参加者には、前の年よりもできないことが増えた惨めさを抱えて帰るのではなくて、新たな楽しさを見つけて帰ってほしいと考えています。「認知症が進行したからもうダメですね」と言うのではなく、この大会自体も選手たちと共に成長していく必要があると考えます。
■事業名:Dシリーズ・富士宮市ソフトボール大会
■事業者名:Dシリーズ実行委員会
■取材協力者名:稲垣 康次(Dシリーズ設立メンバー)
■事業所住所:〒418-8601 静岡県富士宮市弓沢町150番地