〈コンセプト・特色〉
ひとりひとりの生きがいを創る
〈概要〉
大阪府堺市で、障がいのある方と地域を支えていく活動を行っています。主な業は八百屋であり、そこを起点に無農薬の米づくりや野菜づくりの農業を行なっています。また、近隣の農業とコラボして、野菜の栽培や袋詰め作業、加工などにも取り組み始めています。さらに地場の伝統産業の注染手ぬぐいの袋詰めの仕事や、地域のお困りごとを支援する活動などもしています。
農業をはじめ、伝統産業、地域課題の解決に、障がいのある方々とともに取り組んでおり、障がい者の自立や就労支援につなげています。
〈運営主体〉
「特定非営利活動法人ASUの会」
①堺市南区泉北ニュータウンの槇塚台近隣センター内の空き店舗を借り、高齢者を対象としたコミュニティカフェを運営。喫茶、住民の手づくり作品の販売、近隣12軒の農家や南河内の新鮮野菜の販売を行っています。
②地球環境保護の一つとして、大阪府立大学と共同し、廃食用油からBDF(植物性廃食用油を原料とするバイオディーゼル燃料)を製造をしています。
③障害者支援では、就労移行支援事業として大阪府下の一般企業への就職から定着までをサポートを目指しています。就労継続B型事業では、堺市南区の大自然に囲まれた環境で、農作業の栽培・収穫・出荷・販売を通じて、幅広く個々人に合った仕事づくりに努めています。また、調理・カフェの仕事にも取り組んでいます。
〈取り組みをスタートした時期〉
2007年2月
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
2005年3月に大阪府シルバーアドバイザー養成講座(南部)を修了した志を同じくする仲間12名が、NPO法人設立準備委員会を結成しました。当時、団塊の世代が定年を迎え、シニアが増加する社会のなかで、シニアの経験や実力を発揮できる場を創ることを目的にしました。
具体的には、① “シニアのためのサロン運営”、②地球環境保護として“廃食用油利活用”の2つの事業に取り組みました。③中間支援として、堺市セカンドステージ応援団運営協議会に参加し、「いきいき堺市民大学」講座の開催などにも取り組みました。
2018年8月より、これまでの「高齢者支援」「環境保護」の活動領域に加え、「子どもから大人まですべての人」を対象とするよう定款を改定して、障がい者支援を開始しました。
〈運営コスト〉
運営資金については、障害者総合支援法に基づき事業を進めているために、障がい者の利用人数により運営費が決定されています。そのため、利用者の確保が必要になります。運営費のほとんどが障がい者の支援スタッフの人件費に充てられています。利用者の収入は、工賃というかたちで、活動して得た収入を分配する仕組みになっています。たとえば、野菜の販売売上や、企業内での業務を行った委託費用などで収入を得ています。
〈運営に必要な費用概算〉
250万円/月
〈運営資金の確保〉
その他の公的補助
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
スタートした当時は利用者の確保が困難で、関係機関に営業に回ったり、利用につながったとしてもすぐに退所したりと、うまくいきませんでした。そんななか、利用者一人ひとりのニーズややりがいに、ていねいに寄り添って同じ目線で見つめ直していくことで、課題がみえてきたり、取り組む方向性がみえてくることになりました。すると、地域の産業や業務とのマッチングができるようになり、少しづつ地域への提案ができるようになりました。
一つ提案ができると業務の信頼につながり、利用者のやりがいにもつながるという循環が生まれていきました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
高齢者の居場所づくりからスタートした当法人は、70代の高齢者と、子育て世代の女性スタッフが融合した形で運営しています。そこに障がいのある方々が加わることで、10代から70代までのあらゆる世代が混在しているため、どんな世代の人にも配慮し合う価値観が生まれています。その融合した協働の力で、地域に役立つ活動をしています。そのことが、障がい者の自立のみならず、スタッフも含めて、それぞれの人の生きがいにつながっていると思います。
障がいがある人もない人もお互いにサポートし合いながら、地域活動を行っています。これは、日本初の事業所ではないかと自負しています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
元々、ボランティア活動から始まった団体のため、事業性がなく、運営面での資金繰りが大きな課題です。3年前に障害者就労支援事業所として福祉サービスを組み合わせ、徐々に利用者数が増加してきたことで安定した経営基盤がようやく築けてきました。その反面、異常気象や自然災害、コロナ渦等の影響で、突然仕事が受けられなくなるような事態に何度も直面してきました。
今後は、利用者の多様なニーズに応え続けていけるよう、継続性の高い事業の確立を視野に、充分な広さや機能性を備えた適正な場所の確保が急務となっています。しかしながら立地や費用面を含め、条件の合った場所を得られていないのが現状です。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
人は、どんなに高いスキルをもっていても、1人では生きられないものです。一人ひとりがもっている技能を差し出し合い、お互いに関わり合っていける仕組みをつくることで、共助、協働の循環が起きるようにしています。単に形だけの仕組みをつくっても、循環を起こすことは困難です。
多世代のさまざまな立場の人たちが気軽に集い、楽しくお互いを知ることができる交流の場を仕掛けることで、自分の中にある思いやりの心を感じたり、相手の立場に立って考え行動することでいつの間にか自分の願いも実現されていくといった、利他の考え方が自然と実感できるような体験の機会をつくる工夫をしています。
〈今後のビジョン〉
未来の子どもたちに、想いで繋がり合える安心できる地域社会を残すことが私たちの願いであり、社会的使命であると考えています。そのために、みんなの間にある障がいを取り除き、顔や名前のわかる距離感の繋がりをつくり、その中で循環させていく事業づくりを続けていきます。
子どもたちの日常と隣り合わせに、私たちの事業によって生きがいをもって生きる人たちの暮らしや仕事があること。“お互いさま”の心で繋がり合え、その人らしく生きられるすてきな社会を実現することで、喜びや豊かさを行き渡らせ、50年後の未来の子どもたちの笑顔を守りたいと考えています。
■事業名:まちかどステーション八百萬屋
■事業者名:特定非営利活動法人ASUの会
■取材協力者名:増田 靖(まちかどステーション八百萬屋管理者/サービス管理責任者)
■事業所住所:〒590-0114 大阪府堺市南区槇塚台3-1-7