〈コンセプト〉
タコ足配線のように、何かと何かがつながるとそこに電気が通る、化学反応が起きるようなことがあると思います。タコ足配線をつなげる役割をしたいと、地域のおっちゃんである郡司さんが言いました。それを一緒に活動してきた福祉職の私たちは、面白い考え方だと思い、タコ足ケアシステムのネーミングが生まれました。
楽しいと思えたら自然と人が集まり活動していますが、組織がはっきりしているわけでも役割やルールをキッチリ決めているわけでもありません。楽しいと思える活動を、そのときに参加する人たちを通して、タコ足のようにさまざまな活動に人がつながっている集まりです。商店街のお店や福祉専門職、町役場の人々が福祉サークル感覚で活動しています。
〈特色、概要〉
きっかけは、地域の福祉施設(多古新町ハウス)の建物の中にフリースペースができたことです。ご自由にどうぞと書かれても最初は正直入りにくかったです。そのうち小学生が集まり、大人が集まり、寺子屋と命名された場所に、年齢も性別もさまざまな人が集まりはじめました。
そこを使ううちに暗黙のルールで、勉強している人がいれば静かにする、誰もいなければみんなでワイワイするなどを通して、色んな交流が生まれました。想像する以上に色んなことが起きていたんだと思います。そんな中で、在田さんの働く施設に「何か面白いことができないかな?」と郡司さんが話をしたところ、福祉に関するツアー企画を行う人を探してくれて町内のツアーがスタートしました。そういった感じで、テーマに共感する住民や団体がボランティアでさまざまな活動に参加しています。
おもしろくないと人は集まりません。責任をもたされたら嫌になってしまいます。コアになるような組織ももたないで、今日集まれたら集まろうといった具合にその輪が広がってきました。何かと何かが結びついたらおもしろいことができそう、異分野の人が集まり興味のあることだけに参加する形なので、リーダーもいません。色んな行事に地域住民も一緒に参加し、福祉介護の事業所が町の中に溶け込んで町の一つの風景になった感じがしています。気楽に入れて、遊べて、知らないうちに社会貢献しているんです。
多古町は、地域のつながりがとてもあったわけではありません。程よく仲が良くて仲が悪い、色んな人がいる地域です。地域づくりを考えようとしていたわけではなく、純粋に楽しんで活動をしています。
〈運営コストについて〉
ツアー開催による収入が主になります。その収入で、タコ足で勉強会をしたときの講師料などに活用しています。また、多古町で台風災害があったときに色んな人が支援してくれたことがありました。寄付金をいただいたこともあります。それを、別地域の水害があったときに、逆に寄付をしたこともあります。小さい取り組みや、イベントをするとき、何か買いたいときにそこからお金が出せるのが気軽に使えていいと感じています。
〈やりがいやモチベーションに感じていること〉
だんだん年を取ってきたときに何もなく朝を迎えるのはつらいし、何かやることがあるのはやりがいがあると感じています。趣味に近い形で、サークル活動的にやっています。それを、やらなければという使命感はなく、楽しいからやっていたら福祉につながっていました。色んな人間が自分にかかわってくれていることに気づきました。普通に生活していれば気づきにくいことです。
〈活動を継続すること〉
昔と違って3世代の家族がだいぶ少なくなりました。地域全体でバランスよく3世代になっていければいいので、元に戻すのではなく、地域でかかわりながら3世代になっていければいいなと感じています。持続可能性を考えると、「楽しさ」がキーワードです。楽しいと続きます。明確なシステムやルールがあるから続いていくわけではないのです。楽しさをいかに生み出していけるか、それを継続していければ、持続可能と考えています。子どもたちが活動に参加するのは、楽しいからです。
多古町で、タコ足ケアシステムでは新しいことができそう、何かできそう、楽しいことができそうなのだと思ってくれていて、楽しさは人を惹きつけるのだと感じています。そのような活動を継続してきた中で、行政職員が何かやりたいときにタコ足ケアシステムを活用しようと考えるようになってきました。この町なら声を出したら「何かできるのではないか」と思えるようになってきているのだと思います。郡司さんのような地域住民がかかわってくれることでハードルが下がっています。困難に思えることも、あっさりクリアしています。
福祉施設は地域と言いながらも、住民参加型が難しい状況があります。障がい者施設の人々は外に出るのがおっかなびっくりでした。でも今は、入所者を気にかけてくれるくらいのお友だちになってくれています。何十年も存在した壁を吹っ飛ばしてくれていて、これまで難しいと考えていたことがあっさり叶っています。やっぱりそこには、楽しさと何らかの役割があります。何かやったらありがとうと言われることがうれしかったりもします。
タコ足ケアシステムはいろんな活動をしていて、誰かがいなければできないこともなく、知らないうちにタコ足の名前が使われていることもあります。でも、そのことに「いいね、どうぞ」と思える関係なのです。タコ足ケアシステムと称していますが、仕組みが特になく、ルールもありません。場所ではなく人でつながっており、意識の中でつながっています。そのつながりを通して、知りあいになり、知っていることによって、みんなができないことでも、誰かはできることがあります。知ることは大切で、困っていることを知ったから助けてくれますし、困ったときに困ったと言える関係です。
〈苦労していること〉
この集まりに関してはあまりないです。でも、活動を通して地域や福祉の仕事の苦労が見えてくることはあります。福祉施設でも、日々の苦労が働いているとあり、障害施設の子どもがパニックになったときに、地域に出かけたら近所の人が支えてくれてふんわり解決、フォローしてくれることがありました。
福祉の仕事は、あまりストイックになってやるとよくないと感じています。施設の中で一生懸命働くことも大切ですが、その中で固定化して苦しくなって仕事が嫌になることもあります。辞めそうな職員に対して地域の人が気にかけ、声をかけてくれることがありました。組織の外でのつながりも大切にしていきたいです。職場と家庭とそれ以外につながる場所があることが大切です。
〈今後のビジョン〉
このタコ足ケアシステムが、近隣の市町村に広がっていければいいなと思います。でも、同じようにやることは難しいだろうなと思うので、ご縁やつながりでいろんなことが実現できて、楽しい思いを感じている人が増えていければと思っています。今の時代の多古町の中では、たまたまマッチしている活動なのだと思います。それを、行政も温度を感じてくれています。町のプランに福祉やタコ足ケアシステムが入ってきており、変化を感じています。行政がやると計画立てて予算をとり、どれくらいの効果が予測できるかまでしっかりしないといけません。1万4000人の町でみんなが望むような事業は予測しにくい部分があります。小さく試してみるためのネットワークがタコ足ケアシステムでもあるのだと思います。
個人の困りごとを形にしていって、解決していくプロセスを、みんながいいよねと思ってくれている感じです。気軽に相談したり、それぞれの立場で助言したりしています。困りごとと困りごとをつないでいくと解決していることもあって、お金をかけずにできています。本当はそこに経済が入ってくるのは大切だと思いますが、気楽でゆるいつながりでいいのかなと。地域の人が自然と福祉を語ってくれる今のタコ足ケアシステムを大切にしていきたいです。
■事業名:タコ足ケアシステム
■事業者名:多古町のみなさん
■取材協力者名:郡司 保美(メイン回答者)、在田 創一、髙安 一弘、平野 香
■事業所住所:千葉県香取郡多古町
■取材・まとめ:安保 奈緒(老人保健施設勤務)
■取材時期:2021年3月