〈コンセプト・特色〉
野遊びと人のつながりで、まちを元気にする健康おせっかい保健室
〈取り組みの概要〉
島根県雲南市で矢田明子さんが中心となって築き上げてきたコミュニティナースというコンセプトがあります。人とつながり、まちを元気にする実践のあり方で、看護師でなくても取り組むことができます。カフェやガソリンスタンド、郵便局など、生活の導線に健康おせっかいを実践するコミュニティナースが溶け込んでいたら、そのまちはきっと元気なまちになっていきそうですよね。
コミュニティナースは、ヒトとコトをつなぎ、まちを元気にする暮らしの身近な存在として「毎日のうれしいや楽しい」を地域の人とともにつくり、役割や立場を越えたつながりを育みます。自由で多様なケアを通じて地域の人の可能性や、やりたいことを引き出し、コミュニティナーシングの担い手として、まちの可能性を広げます。また、実践を進める中で多様な専門性をもつ仲間と、暮らしの身近な場所に足りていない機能や必要な機能をつくります。
私の「まちの保健室」は、ゲストハウスや神社前のコミュニティースペース、こども食堂などを活動場所として、人のつながりでかかわる人をちょっと元気にしています。
〈運営主体について〉
「西田 悠一郎」
私は、2013年4月に豊田市役所に入庁した行政の保健師です。障がい福祉課、介護保険課を経て、現在は保健支援課で精神・難病事業を担当しています。
2020年12月に、株式会社コミュニティナースカンパニーが主催する「コミュニティナース実践講座@雲南1期」を修了し、2021年1月から「まちの保健室」を実施しています。愛知県豊田市竹生町のゲストハウス「kabo.」を拠点として、豊田市内の各イベントやこども食堂にもブースのようなかたちで参加しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2021年1月9日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
行政保健師として日々精神疾患や難病を抱える方と接している中で、「市役所の保健師さん」という安心感がある一方で敷居の高さを感じている方もいらっしゃり、まちの中で生活の導線に溶け込みながら、まずは、まちの人として対等に出会うことから始めたいと感じ、地域での活動を始めました。〈運営コスト〉
現在は、自腹を切って活動をしています。営利企業従事願を職場の人事課に提出し許可を受けることで報酬を受けることができますが、健康保険や介護保険による給付が浸透した日本では、相談者から直接支払いを受ける仕組みをとりにくいと感じています。
実費としては、拠点にしている場所の利用料程度で、1回につき飲み会1回分程度なので、地域経済にも貢献するだろうと思い、現在は持続可能性は検討せず取り組んでいます。今後は事業を法人化し、行政と成果報酬型の委託契約を締結したり、各種補助金を活用したりして持続可能性を確保していこうと考えています。
〈運営に必要な費用概算〉
8,000円/月
〈運営資金の確保〉
自費
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
地域の方に自分の活動を知ってもらうチラシを作成した際に、高齢者の方から「カタカナがわからん。字も小さい」といわれたことがありました。興味を引いてもらえるようオシャレにしたのが裏目に出たのです。そこでカタカナわからんおじちゃんに声をかけて一緒にチラシをつくりました。そのおじちゃんがたまたま自治区の役員もしていたため、自分がつくったチラシだと喜んで配布いただき、情報発信につながりました。
また、コミュニティナースとしてのかかわり方や事業化の進め方について、コミュニティナース実践講座の同期やコミュニティナースの先輩方と情報交換しながら、地方創生交付金やSIBについての構想を練っています。自分だけではパンクしそうなことでも、同志と一緒に活動できることで乗り越えています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
活動の輪が広がり、声を掛け合う人のつながりとエネルギーを感じています。拠点にしているゲストハウスで、まちの保健室を実施していることを知った別の地区の方が「こども食堂にも来てもらえないか」と声をかけてくださったり、また別の神社でまちの保健室を実施した際に、相談者だった方がこども食堂を手伝ってくださるようになったり。
色んな点がつながっていき、一人ずつですがその人らしさを見つけ出してくれているように感じられると、やってよかったと思います。また、町の人から「西田くんまたよろしく頼むよ」と期待感のあるお声をいただくと、町のワクワクの一助になれたかもしれないと感じ、次へのエネルギーになります。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
自分があと5人くらい欲しいなと思います。今の方法では、どうしても週末にしか活動ができず、企画が重なると、どちらかにしか参加することができません。一緒にまちの保健室に取り組んでくれている仲間が2、3人いますが、町中に活動を広めたり、色んな場所に巻き込まれに行ったりするためには、より多くの仲間が必要だと感じています。そもそも仲間が増えたときの役割分担や求める姿勢も明確なものがありませんが、まずやってみることを少しずつ積み重ねたいと思います。
悩んでいることは、本業以外の時間を、まちの保健室や事業構想の検討に費やしているため、家族との時間を十分とれていないことです。たまに何も予定を入れず、ただ子どもと遊ぶことがありますが、とても貴重な時間だと感じます。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
生活に必要な収入を何らかのかたちで得ることは必要だと思います。現状は、収益を意識せず継続できていますが、それはまちの保健室とは別に、公務員としての収入があるからこそ。まずは自身の生活を損なわないような仕組みをもつ必要があると思います。
一方で、貨幣価値以外に目を向けることも大切だと思います。人とのつながりや生きがいは、ポジティヴヘルスでは、身体的、精神的な要素と同様に重要です。お金では測れない価値にこそ、価値があると思います。目的をもつことは欠かせません。現場のニーズをダイレクトに聞くため、やり方を変えるかどうか、参加していいかどうか考えることがありますが、自分の活動の目的を意識することで判断しやすくなります。
拗ねずに対話を続けることは意識する必要があります。何かを言われたときに、「じゃあ〇〇したらいいじゃん」と拗ねるのではなく、そう感じている自分を俯瞰して感じ、本当はどう振る舞うといいのか、自分の心に正直になって行動し、相手と対話し続けることが重要です。まずは巻き込まれにいくことで、そのコミュニティの一員になり、ネットワークのハブになることができます。その結果、自分の思いに巻き込まれてくれるコミュニティパーソンに出会うことができます。相手を信頼し、甘えることもあります。
自分では忙しく感じていなくても、気づけば家族との時間が減っていることもあります。そのため、家族と食事をとることはできるだけ大切にしています。十分な睡眠をとることも大切です。気づけば3、4時間しか寝られなかったということもありますが、十分な睡眠がないと、全体のパフォーマンスも下がります。まずは自分が明日を元気に過ごせるよう、しっかりと寝ることで活動を持続させることができます。
〈今後のビジョン〉
令和3年度は、準備期間とし、令和4年度から本格的に事業化し、野遊びを通してポジティヴヘルスを獲得できる仕組みを構築し、活動の拠点となる自治区単位からまずは始めます。
顔の見える人たちが、たとえどんな病気に罹ったり、大切な人を失ったりしたとしても、その問題に適応し、自分で管理できる能力を少しずつ地域全体で育んでいくことで、個人だけでなく、まち全体のwell-beingを醸成していきます。ふと思い浮かべたあの人の元気を応援できる、そんな人を増やします。
■事業名:まちの保健室
■事業者名:野遊びコミュニティナース
■取材協力者名:西田悠一郎
■事業所住所:〒471-0077 愛知県豊田市竹生町2-4-22