〈コンセプト〉
暮らしの保健室を中心として、地域の市民と医療という枠を超えてつながっていくことで「病気になっても安心して暮らせるまち」をつくる。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年4月17日
〈概要〉
「暮らしの保健室」の運営を中心として、「医療者と住民が気軽につながることができる」チャネルを地域内に散りばめることを目的としています。具体的には利用者とスタッフおよび地域住民の人間的な関係を基盤に、Quality of Life向上につながる最良の解決策を見出すために、コミュニティナースを中心としたケアを、市民も含めたチームで提供しています。そのなかで、専門職としての判断に則り、一方的なケアを提供するのではなく、住民・患者・家族の自立支援および意思決定支援を行うという、いわば「医療の民主化」に取り組んでいます。
〈運営主体について〉
「一般社団法人プラスケア」
当法人は、がんなどの重大な疾病に罹患した患者とその家族を中心とする多くの一般市民に対して、それら疾病などによる精神的・社会的・実存的苦痛への支援、知識の普及啓発及び広報並びに地域医療・福祉に関する調査研究を行うことによって、地域社会の保健・医療又は福祉の増進と、公衆衛生の向上、地域包括ケアの推進に寄与することを目的としています。
〈取り組みのきっかけ〉
私たちは、神奈川県川崎市中原区で武蔵小杉駅周辺の地域マネジメントを行うNPO法人「小杉駅周辺エリアマネジメント」の取り組みとして、NPO、企業、医療者、住民が協力して、自分たちの健康・生活を自分たちで守るための「+Care Project」を2014年6月に立ち上げました。
14~15年にかけては、「予防」をテーマに、運動や食などに関する健康啓発のためのイベントなどの企画を行ってきましたが、16年からは+Care Project立ち上げの際のスローガンである「病気にならないまち/病気になっても安心して暮らせるまち」のうち、後者への取り組みを中心に行っていこうと考えました。
そこで、2015年10月に中原区武蔵小杉において「あなたにとって、病気になっても安心して暮らせるまちとは」をテーマに街頭アンケートを行ったところ、124名の方から回答をいただき、まとめると「信頼できる医療機関・医師がある」「住民同士がお互い支えあえる仕組みがある」「健康問題などに関して気軽に相談できる場所がある」という結果となりました。私たちはこの3つを満たす解として「武蔵小杉に『暮らしの保健室』をつくろう」と考え、一般社団プラスケアとして独立して事業を行うことになりました。
〈運営コスト〉
運営資金を入手する方法としては主に3つあります。一つ目は寄付。個人だけではなく企業からも寄付を募っています。二つ目は会費。一般社団法人プラスケアの会員に加え、私たちが企業として実践しているもうひとつの取り組みである「社会的処方研究所」の会費についても大きな収入源になっています。そして三つ目は事業委託費。暮らしの保健室をコワーキングスペースに併設することでフリーランスの方の健康相談ができる環境を提供したり、診療所に併設して看護職員などの教育研修の機会を提供したりすることで対価を得ています。公的資金については、収入源として不安定な面があるため、創業以来利用したことはありません。
〈運営に必要な費用概算〉
50万円
〈運営資金の確保の手段〉
寄付、会費、業務委託費
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
多くの方が、何かこのような事業を始めようとしたときに「できるだけしっかりした仕組みをつくってから始めよう」と思うかもしれません。しかし、社会的事業はむしろ「スロー・シンプル・スリム」という小さなところから始めて徐々に成長させていくことが肝要だと思います。暮らしの保健室も最初は月に1度、3時間だけというところからスタートしました。そうやって地域の中で小さな旗を上げ続けることで、次第に仲間が集まって自ら成長していったのです。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
創業1年目から資金面での不安が大きかったです。暮らしの保健室自体はお金を稼ぎだす仕組みではないため、初年度は寄付金や会費に依存している面が大きく、持続可能性が低いことが問題と感じていました。しかし、地域で地道に活動していく中で、暮らしの保健室の価値を認めてくれる仲間たちが増え、資金面でも契約というかたちで得られるようになったことは大きかったです。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
暮らしの保健室においてさまざまな相談を受けていますが、相談に来たときは暗い顔をして入ってきた方が、コーヒーを飲んで、雑談を交えながら「実はね…」と話をしてくれます。そうして1時間ほども経てば、次第に本人のほうが「私が悩んでいたことってこんなことだったのかもしれない」と自ら気づき、保健室に来たときとは見違えるように晴れやかな顔で帰っていきます。そういった姿を何人も見ていると、やっていてよかったと感じます。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
メンバーのうち正規職員は1名のみで、他は全員プロボノというチームなので、全員の意思統一やコミュニケーションを図ることが難しいと感じます。コロナ禍によって、直接集まってミーティングする機会がなくなってしまったことで、コミュニケーションがより難しくなってしまいました。暮らしの保健室自体も、川崎市内にいくつもの拠点があるため、その場を一緒に運営している他の事業者さんとのコミュニケーションや、当社メンバー内での情報共有に課題があると感じています。
〈今後のビジョン〉
薬で人を健康にするのではなく、地域とのつながりで人を元気にする仕組みである「社会的処方」という考え方があります。今後、私たちは地域の医療機関や地域包括支援センター、またNPO法人や地元のサークル活動などと連携して、まちの中にある社会的孤立を解消していきたいと考えています。その拠点として暮らしの保健室を利用していくつもりです。
■事業名:暮らしの保健室(川崎)
■事業者名:一般社団法人プラスケア
■回答者名:西 智弘(一般社団法人プラスケア代表理事)
■事業所住所:〒211-0025 神奈川県川崎市中原区木月1-32-3内田マンション2階