〈コンセプト・特色〉
老いと死をタブー視しないコミュニティ・デザインプロジェクト
〈概要〉
①年に3〜4回、フリーペーパー『紙のigoku』(フルカラー12ページ)を各1万部発行しています。②年に一度、直接体験型イベント「igokuフェス」を開催しています。2019年は、約4,500名を動員しました。2020年はオンライン生配信(再生回数5,000回)を行いました。③「WEBのigoku」で、記事(年間30本程度)を随時発信しています。 ④その他、各種SNSで随時発信しています。
〈運営主体〉
「いわき市の地域包括ケア推進課」
現時点の主体は、いわき市の地域包括ケア推進課です。当時(2016年)、推進課にいた職員(猪狩 僚、筆者)が、今までにない福祉の情報発信と、クリエイティブの地産地消を目的に、フリーランスを中心にメンバーを集め、チームを結成し、プロジェクトを開始しました。
グッドデザイン2019の金賞受賞を経て、そのチームは現在、クリエイティブ集団「そこをなんとか」と名乗り、igoku以外でも、介護事業所など福祉の分野をはじめ、多くのプロジェクトを手がけています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2017年9月17日 ウェブサイト公開
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
地域包括ケア推進課に配属となった猪狩が、よくわからない「地域包括ケア」を求めて、高齢者の通いの場から、医療・介護の多職種の勉強会まで、市内のあらゆる所へ顔を出していくうちに、①元気ですてきな高齢者を発信したい②医療・介護の専門職の情熱を発信したい ③人生の最期をどこで迎えたいかに思いを馳せるために、その前段階として、「縁起でもない」といって、「老い」や「死」から目を背けることのない地域に少しでもしていきたい と考えるようになったことがきっかけです。
〈運営コスト〉
いわき市地域包括ケア推進課の予算が運営コストです。立ち上げ職員(猪狩)着任前からあった既存予算の組み替え(例:◯◯講演会→igokuフェス)などにより、捻出・対応し始めました。その後、議会などから、フリーペーパーの発行部数増を求められ、予算も多少増額されていきました。
igokuプロジェクトは、年間1,000万円に満たない予算で展開しています。かたや、いわき市の年間の介護保険予算の総額は約300億円。一人でも多くの方が人生の最期に思いを馳せること。一組でも多くの家族が本人の意思を尊重すること。それを地域コミュニティや医療・介護の多職種が連携し支えること。地域包括ケアの根幹を進める取り組みを、介護保険全体の中での”投資的”比率として、どう考えていくかを、役所内はもとより、社会全体で考えていくことが大事だと思います。
〈運営に必要な費用概算〉
600万円
〈運営資金の確保〉
自治体予算
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
地方自治体として、大手広告代理店への丸投げ発注ではなく、フリーランスを集めてチームを結成すること、またその発信内容やデザイン、イベント内容なども、従来の「ザ・福祉」的なトンマナ(トーン&マナー)ではなかったことから、役所内でOKを取り付け、世に出していく所に一番苦労しました。
ただ、「世の中に出さえすれば、いわきの医療・介護の関係者や高齢者の皆さんは喜んでくれるはずだ」という自信は、igokuのプロジェクトの前、一年かけて市内を飛び回ることで感じていたので、小さな一歩でも、役所からOKをもらい、世に出すことに力を注ぎました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
一番やらなそうな「役所」が、①「老い」や「死」のタブーへチャレンジしたこと②医療・介護について発信したこと ③年を重ねることのすてきさを、高齢者を主役にして発信したこと ④役所っぽい、福祉っぽい、企画やデザインではなかったこと などにより、医療・介護を超えた、世代も超えた多くの方々に共感してもらい、igokuをおもしろがってもらえました。地域包括ケアや医療介護のことを、その外側にいる人たちにも届けることができたこと、裾野を広げることができたことがよかったと思います。
また、役所が「旗を立てた」ことで、法人や職種の壁を超えて、多くの専門職の力を合わせることができたのも、やってよかったと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
ありがちですが、一人の職員(猪狩)が立ち上げ、4年に渡りプロジェクトを展開してきたので、その職員の人事異動により、パッション、ノウハウ、展開などを後任にうまく引き継げず、プロジェクト自体が停滞していることです。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
市内外に、igokuのファンを多く作り出すこと。そのファンが、「最近のigoku、どうなってますかー?」と声をあげてくださることで、igokuのニーズや役割を、主体である行政に持ち続けてもらうことが、持続させる仕組みとなるかもしれません。
〈今後のビジョン〉
地域包括ケア、高齢者福祉、医療と介護などを軸にプロジェクトを進めてきましたが、進めるほどに「暮らし」というものに行き着いていく感じがしています。「暮らし」は食、歴史、風土、文化、伝統芸能、祭りやアートなど多領域に渡っていきます。
「役所がこんなプロジェクトを?!」が驚かれ、評価されてきたigokuですが、これまでの「100%役所の事業」から、少しその(負担)割合を減らし、その分、役所的には難しい、もっと自由な福祉 × 多領域横断的な取り組みを増やしていき、
①地域包括ケアという言葉が厚生労働省を超えていく
②igokuが地域包括ケアという言葉を超えていく
いずれかのようなことになり、人が生まれ、生き、死んでいくことが、今よりもう少し社会の共有知となり、かけがえのない命と人生を目一杯楽しみ、生き切ること。そして、性別、年齢、国籍、障害(認知症)の有無で、人を括らないこと。当たり前に、一人ひとりと向き合う世の中に「少しでも」なっていけばいいなと考えています。
■事業名:いわきの地域包括ケアigoku(いごく)
■事業者名:いわき市保健福祉部地域包括ケア推進課
■取材協力者名:猪狩 僚(いわき市保健福祉部健康づくり推進課)
■事業所住所:〒973-8408 福島県いわき市内郷高坂町四方木田191
■サイト:https://igoku.jp/