〈コンセプト・特色〉
デイサービス送迎車の相乗りによる交通弱者支援サービス「福祉Mover」。
全国各地を毎日縦横無尽に走り回っているデイサービス送迎車の空席を、AIにより有効活用し、法令順守のモデルとしました。
〈取り組みの概要〉
配車計画自動化機能と、デイサービス送迎車の空席と移動希望者のリアルタイム最適マッチング機能を兼ね備えたAIプラットフォーム「福祉Mover」により、デイサービスの業務効率化・標準化と、地域の交通弱者の自由な移動の両方を実現しています。
単独法人として、2018年11月から2019年2月まで、エムダブルエス日高のデイサービスの半径5キロの範囲にて、総務省戦略的情報通信研究開発推進(SCOPE)事業(採択者:公立はこだて未来大学)の一環として、計38台の送迎車で実証を実施しました。
また法人の垣根を越えた取り組みとして、経済産業省 2020年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金に採択。群馬県高崎市・前橋市・太田市・大泉町・邑楽町、栃木県足利市、新潟県阿賀野市で計222台の送迎車で実証しています(阿賀野市は、市営バス1台を含め、市と連携)。
〈運営主体について〉
株式会社エムダブルエス日高は、群馬県高崎市の地域医療支援病院である日高病院を母体とし、群馬県内においてデイサービスをはじめ介護事業を展開しており、ビジネスを通して社会課題を解決することを企業ミッションに掲げています。
福祉・介護分野でのICT活用に力を入れており、社内システムエンジニアが「福祉Mover」事業の他、高齢者の認知症予防と介護予防・介護改善を目的としたリハビリ支援システム「ICTリハ(平成28年度経済産業省 健康寿命産業創出推進事業)」等を開発・運営しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2014年4月
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
群馬県は、自家用車の保有率が日本一高く、車の免許を返納すると日常生活が営めなくなります。買い物や通院などの日常生活において、移動が困難な交通弱者の課題は、群馬県のみならずわが国共通のものです。
エムダブルエス日高は、群馬県内に送迎車両を200台以上所有しています。デイサービスを中心に事業展開しており、自宅からデイサービスの間をドアツードアで毎日群馬県中を縦横無尽に送迎しています。送迎中に空席ができるので、この空席を交通弱者の方に相乗りしてもらえば、免許を返納しても日常生活が送ることができる社会を実現できるのではないかと考えました。
法令順守するために、群馬運輸支局に4年以上足を運び、ビジネスモデルを構築し、AIによる無人の最適配車を実現するため、株式会社未来シェアと提携し、実現できました。
〈運営コスト〉
経済産業省 令和2年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金を活用しました。将来的には、全国展開を図り、事業収益を得る計画ですが、利用者の負担は現時点では無料です。
本業のデイサービス等、当社の介護サービスを利用する方に「福祉Mover」の利用対象者を絞ることで、他社にはない独自サービスとして、通所日だけでなく、非通所日にも外出することができ、自然と運動量が増え、認知症予防につながります。こうすることで、本業の利用者を増やし、本業で利益を出し、事業として持続可能性を確保しています。
〈運営に必要な費用概算〉
100万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険、その他の公的補助、自治体予算、企業協賛金
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
法令順守するために、群馬運輸支局に4年以上足を運び、ビジネスモデルを構築しました。それは株式会社エムダブルエス日高を母体にする一般社団法人ソーシャルアクション機構が、旅行業の認可を受け、移動希望者とデイサービス送迎車をマッチングし、仲介料を移動希望者からもらうモデルです。たとえると、宿泊希望者とホテルをマッチングする会社が仲介料を取るのと同じです。
このモデルであれば、運賃にあたらず、“白タク行為”にならないとの関東運輸局の了承のうえ、群馬運輸支局から得ました。送迎主体である、エムダブルエス日高や参加デイサービスへソーシャルアクション機構から送迎対価を支払うと運賃とみなされ、“白タク行為”となってしまいます。参加するデイサービスはボランティアベースです。
参加するデイサービスのメリットは、次の3つです。
①残業の温床となる煩雑な送迎計画を自動化し、かつ、通所者への道順をタブレット上に示し、新人ドライバーでも事前に場所を調べることなく送迎ができる、「福祉Mover」をソーシャルアクション機構から無償提供されること
②通所日ではない非通所日に外出支援するデイサービスとして独自アピールができ、集客できること
③外出支援して社会貢献に尽力しているデイサービス、法人としてのイメージアップが図れ、リクルーティングおよび集客が進むこと
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
単独法人として、2018年11月から2019年2月まで行った実証事業の経験を、次に生かしました。
法人の垣根を越えた取り組みとして、経済産業省 令和2年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金に採択。群馬県高崎市・前橋市・太田市・大泉町・邑楽町、栃木県足利市、新潟県阿賀野市で計222台の送迎車で実証(阿賀野市は市営バス1台を含め、市と連携)しましたが、単独法人として、実証事業を実施したときには、予想したほど参加希望者がいませんでした。
そこで、対象者を、デイサービス利用者(介護保険認定者)に限定せず、60歳以上で移動に困っている方なら、エムダブルエス日高のサービスを利用していない方も参加できるように対象者の枠を広げました。また、単独法人として実証事業を実施したときには、スマホ利用者に限定していましたが、ガラケー利用者もコールセンターを設け、対応するようにしました。
その結果、200名の参加申込者の目標に対し295名、ひと月に200回の依頼を目標としていましたが、最終月の2月には、556回の依頼がありました。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
全国から自治体に実証事業の視察に来ていただき、またこちらから自治体へ伺い、「福祉Mover」のプレゼンテーションを行っていますが、よい取り組みとの評価を得るものの、最終的に自治体への導入には至っていません。
その理由は、タクシー業界との軋轢を心配してのことです。ある自治体では、「タクシー協会の会長と話し合いに応じますよ」と自治体担当者に伝えましたが、「先方は会いたがらない」との返事でした。また、「他の自治体が導入した前例がないか」と自治体担当者から尋ねられることもあります。「前例は、一緒につくりましょう」と回答しますが、大きな壁があると感じています。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
将来的には全国展開を図り、事業収益を得る計画ですが、利用者の負担は現時点では無料です。本業のデイサービス等、当社の介護サービスを利用する方に、「福祉Mover」の利用対象者を絞ることで、他社にはない独自サービスとして、本業の利用者を増やし、本業で利益を出し、事業として持続可能性を確保しています。
また、新型コロナウィルスのワクチン接種が、これから全国の高齢者にも始まります。それに伴い、接種場所への移動が、全国の自治体で課題になると予想しています。現在、「福祉Mover」では、自宅を含め5カ所の乗降場所を事前登録していますが、接種場所を6カ所目の乗降場所として登録することができます。ワクチン接種の移動支援として取り組みたいと考えています。
〈今後のビジョン〉
全国展開を図っていきたいです。交通弱者支援は、全国、そして世界の共通課題です。全国で導入した自治体の前例を1つでもつくれば、続く自治体は多いと感じています。
関西の地方都市で進めている実証事業は、最初の前例になる可能性が高いと期待していますし、群馬県前橋市が、スーパーシティに立候補した際、「福祉Mover」を前橋市に提案し、スーパーシティの連携事業者として選出されました。前橋市がスーパーシティに選ばれる必要がありますが、規制改革が前提となるので、送迎主体に送迎の対価を渡しても、運賃にあたらないとの規制改革を行い、デイサービス事業者の「福祉Mover」への参加意欲が高められると構想しています。
本業のデイサービス等、当社の介護サービスを利用する方に「福祉Mover」の利用対象者を絞ることで、他社にはない独自サービスとして、本業の利用者を増やし、本業で利益を出し、事業として持続可能性を確保する」この方式を、全国の地方の雄といわれる、福祉・医療法人へ商圏を独占する契約で売却するモデルも検討中です。
■事業名:交通弱者支援サービス「福祉Mover」
■事業者名:株式会社エムダブルエス日高
■取材協力者名:大江 一徳(エムダブルエス日高 事業管理課長)
■事業所住所:〒370-0002 群馬県高崎市日高町349