〈コンセプト・特色〉
医療福祉に関する事柄を地域住民へ理解してもらうための啓発活動
〈概要〉
■単独事業 ※基本的にNPO法人だけで動いている事業
①出前授業
医師、看護師、薬剤師、介護福祉士、ケアマネージャーなどの医療福祉専門職が、幼稚園〜大学までの教育機関と市民センターなどの地域に根ざした行政機関などで、その依頼者や企業、地域から医療福祉に関する困りごとや疑問、知りたいことをお聞きして、講座を開催するという取り組みです。
基本的には相手側のNeeds(要望)を聞いて実施しますが、社会情勢に応じて感染症対策など、現代に必要な知識提供も実施しています。
②Needs放送局
FM 北九州で2カ月に1回、ラジオ番組を担当しています。
医療福祉の専門家が地域住民に医療福祉に興味関心を持ってもらうべく、啓発活動の一環として実施しています。
③KITAQ HEALTH LAB(学生組織)
北九州市内にある西南女学院大学のご協力で、NPO法人に学生組織を設置しています。大人だけではみつけることができない地域課題(特に医療福祉に関する課題)の発見や解決に向けて、さまざまな活動に取り組んでもらっています。
④engawa(コミュニュティカフェ)
昔はどんな家にもあったような縁側。そんなイメージで、“誰もが気軽に集まり過ごすことができる”をコンセプトにしたコミュニュティカフェです。こちらは③の学生組織が中心となり運営しています。地産地消を目指して、カフェの内容や地域住民とのやりとりも学生が主体で実施しています。商店街にあるお店に協力をしてもらい、地域活性化の一助を担いたいとの思いで取り組んでいます。
⑤げんき塾
区役所内にあるスペースで、毎月1回、地域住民のための体操教室を開催しています。主な講師は健康運動指導士と理学療法士です。単なる体操教室ではなく、事前に医師や薬剤師などによる医療に関する講座を受けてもらい、その後運動をしてもらいます。医療知識も得られ、身体も動かすことができるので、とても重宝されています。通い続けることで「地域健康ケアサポーター」という資格を取得することができます。資格取得者には、周囲の人に、今まで学んだ医療知識と運動技術を拡散してもらう役割を担ってもらっています。
■共同事業 ※複数の法人や企業、行政と一緒に取り組んでいる事業
⑥モバイル屋台プロジェクト
⑦気になる子どもの相談カフェ
⑧Turn the Town
⑨古民家畑プロジェクト
※各取り組みの詳細はホームページをご覧ください
〈運営主体〉
「NPO法人地域医療連繋団体.Needs」
地域社会を「川」ととらえています。地域は川上、病院や施設は川下という考えです。
世の中では、川上で生活していても、途中で病気や怪我、いろいろな問題によって溺れてしまい、川下へ流れ着いてしまことが多くあります。僕らが川上で未病予防教育を行い、地域住民とともに活動することで、溺れても助けてもらえる“お互いさま”の関係性の構築、溺れても自分で戻ってくることができる知識の獲得、川下へ流れついたとしても、そこで暮らしていくためのスキルの取得、そのような考え方の構築を目指しています。
また、僕らのような医療福祉の専門職が、病院や施設に留まることなく一歩外へ出て、地域住民と手を取り合い、安心を提供できる存在となれるよう、常に目新しいことに挑戦しつつ研鑽を重ねたいと思って行動しています。
メンバーは、医師、看護師、薬剤師、診療放射線技師、理学療法士、介護福祉士、ケアマネジャーなどの医療福祉の専門職が主となっています。教育機関に赴くことも多いので、現場の知識や経験を補うために教師も在籍しており、出前授業で医療教育を行っています。
最近では、行政の障害部門から講演依頼をいただく機会も多くあります。自らに障害があり地域で啓発活動をしている人材に、NPO法人のスタッフとして協力してもらい、当事者目線での話をしてもらうなど、幅広いNeedsに対応できるような法人を目指しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2016年7月(任意団体として2015年から活動開始)
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
NPO法人を構成するメンバーのうち、理事を務める5人は、学生時代からの友人です。医療の専門職になる前から、未来の地域医療について多く語り合ってきました。僕らが資格を取得した先にどんな未来があるか。たくさんの予測を立てながら、明るい未来を描いて過ごしながら資格を取得し、それぞれが別々の地域や臨床現場で仕事をスタートしました。
いざ、働いてみると、国は「地域共生社会」「地域包括ケアシステムの構築」と言っているものの、そんなイメージ像とは異なるものばかりが目に映り込んできました。
病院は病院で完結し、医療と福祉、地域の連携は見えず、退院すれば後の行方はわからぬまま。院内や施設内での多職種連携もままならない場所すらあります。人の人生は、病院であっても施設であっても、地域で始まり地域で終わる。そのはずですが、端的に完結している様子がたくさん感じ取れました。
それは1人だけが感じた違和感ではなく、5人ともが感じた違和感でした。このままでは、これからの明るい地域医療福祉が構築できない可能性があると思い、医療者が地域へ赴くきっかけをつくりたいと、子どもから高齢者までが安心して過ごせる地域社会をかたち創るために、任意団体として教育機関での出前授業を始めました。その一年後に、さらに多くの仲間に声をかけ、NPO法人を設立して現在に至ります。
〈運営コスト〉
活動を始めた当初は市や県の助成金に頼らざるを得ない状況が続いていましたが、次第に活動が認知されて依頼をいただくことが多くなり、今は行政からの依頼や出前授業の事業費などで資金繰りができる状態に落ち着きつつあります。
しかしながら、自分たちで地域医療福祉をより良いものにしたいという想いから始まりましたので、当初と変わらず自分たちで会費を出し合って、その会費をengawaの運営などに使用したり、学生たちの活動を後押ししたりと、僕らだけではなく未来の担い手の育成にも費用を投じています。
〈運営に必要な費用概算〉
その月の活動内容にもよりますが、現在は3万円程度です。コロナ禍でなければ、出張費用などがあるので、この金額の3倍ほどになる時もあります。
〈運営資金の確保〉
自費、寄付、行政(主に北九州市関連機関での講演費)
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
活動を開始した当初は、NPO法人地域医療連繋団体.Needsと名乗っても、「どこの誰かもわからない」「どんな団体かもわからない」という感じでした。教育機関やその他機関に連絡をしても、電話口でお断りされることがとても多く、本当に苦労しました。
それでも、「医療福祉を自分ごととしてとらえ、少しでも川で溺れないように、地域社会が暮らしやすくなれば」と考え、諦めずにさまざまな方面に「医療福祉のことで聞きたいことはないか?」「必要なことはないか?」と聞いて足を運ぶうちに理解していただき、本当に運の良いことに、少しずつメディアにも取り上げられるようになり依頼が増えてきました。
そして、出前授業だけではなく、そのほかの事業でも、その時に相談にのって下さった方々がいまだに気にかけてくださり、お仕事を一緒にさせてもらえたり、いろいろと活動する場を与えてくださったりと、協力してくださっているので今があります。
本当に出逢いと周囲の皆様のおかげです。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
自分たちが本当に上手くいっているのかなど、他と比べて判断する材料がないためわかりませんが、続けられていること、そして依頼があることが唯一その答えなのかと思っています。
やってよかったと思う瞬間は、何かしらの事業を終えた際にクライアントからいただく感謝の言葉です。わからなかった、知りたかった、不安に思っていた医療福祉のことが理解できて、解決できて本当によかったと。そこからまた周囲に広めたいと思います、とお言葉をいただいた時は、特によかったと感じました。
学生組織もあり、教育機関に足を運ぶことも多いので、僕らよりも若い次の世代に、これからの地域共生社会に必要なことを伝えることができたり、それを受けてその世代の人たちが自分の考えを上乗せして成長をし、行動に移す様子を見ることができると、今だけではなく、未来のための一助も担えていると、とても嬉しくなります。
NPO法人は現在正規スタッフが19名在籍しているのですが、その仲間たち1人ひとりが、自分の「やりたい地域医療福祉の事柄」を少しでも実行できたという報告を受けたりすると、とても嬉しく思い、スタッフみんなでまた成長しようと思えます。
事業が多いように感じるかもしれませんが、子どもや高齢者、そしてその時の状況に応じて医療福祉の事柄が伝わりやすくなるようにさまざまな形を創っています。ときには講義、ときにはラジオ、ときには体操教室、ときには大学生から、ときには他企業と共同して。このように柔軟に形を変えつつ、医療福祉の事柄を啓発しているスタイルは、受け入れられやすく、よかったのかなと感じています。
元々、自分たちだけではなく、既存の企業や教育機関、行政などと連携することによって、医療福祉を身近に感じていただく事業を展開していきたいと考え、法人名にも「繋」という漢字を入れています。共同事業然り、できる範囲にはなりますが、周囲と連携しつつ事業を展開できているのではないかと感じています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
僕らの法人名は、連携の「携」を「繋」という漢字にし、「連繋」という造語を作っています。地域医療福祉をより良いものにするためには、多くの人や企業、そして行政や教育機関などが「繋がる」ことが重要だと考えているからです。
多くの人が繋がり、今必要なものは何かを表出して一丸となったときに、きっと良い地域医療福祉がもっと構築されると考えています。
その想いを考えた際に、うまくいっている事にも書いてしまいましたので、悩みというか上手くいっていないとも言い難いのですが、「さらに」よくなれば、「さらに」できればいいなという願いを込めるとして考えるならば、もっと繋がりが増えて、今後益々自分の住んでいる地域を好きになり活性化するために、医療福祉を自分ごとととらえて行動する人が増えていければいいなと思います。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
1つひとつの事業に関しては、NPO法人のスタッフの誰か一人かけてしまってもうまくいかないと感じています。そのため、週に1回は定期ミーティングを実施して、何かを実施しようとする際には他のメンバーの意見を必ず聞く機会を設けるようにしています。
また、メンバーが19名いますが、それぞれ別の人間ですので、ベクトルは同じだとしてもやりたいことが違ってきます。そのため、その“やりたい”を叶えるために、少しでも可能性があることに「NO」とは言わず、「GO」を出すように皆で心がけています。
そして、内部以外でとても重要だと感じているのは、地域に存在する既存の医療機関、福祉施設、そして他のNPO法人や企業やその他を大切にするということです。僕らのNPO法人だけでは何も変わらないし、変えることはできないと思っています。これから先、地域医療福祉を自分ごととしてよいものであると感じてもらうために、すでに存在して活動している人たちのことをより一層大切に思い、ある意味で邪魔をしないようにともに歩む姿勢を創っていくことを心がけています。
〈今後のビジョン〉
僕ら1人ひとりは小さな力しか持ち合わせてなく、法人としてもとても小さな団体です。
しかし、地域医療福祉をよくしたい、みんなが笑顔になれる地域社会を創りたいという想いはとても大きいものです。想いはあれど、行動すれど、まだまだ未熟者の僕らは、周囲の方々の支えなくしては成り立たないと感じており、本当に感謝の気持ちしかありません。
新型コロナウイルスによって社会が少し変わってしまったように、今後も社会は変化を続けていくと思います。
現在、法人で実施している事業は継続していくつもりですが、時代に合わせて医療福祉を身近に感じてもらえる媒体を、臨機応変に構築していければと思います。
今後最も力を入れようと考えていることは、お世話になっている方々や周囲の人々への恩返しです。もちろんまだまだ道半ばではありますが、すでにたくさんの恩を受けています。誰しもが医療福祉を自分ごととしてとらえることができるように行動を続けながら、未来を担う人材の育成も含め、育ててくださっている地域社会に恩返しができるように、研鑽を積んでいければと思います。
■事業名:出前授業、Needs放送局、KITAQ HEALTH LAB、engawa
■事業者名:NPO法人地域医療連繋団体.Needs
■取材協力者名:伊東 浩樹(NPO法人地域医療連繋団体.Needs代表理事)
■連絡先:nponeeds@gmail.com