〈コンセプト〉
フィットネスを目的化して、介護予防を日常に
〈立ち上げのきっかけ〉
介護事業所で昔、リハビリテーションをやっていて、拘縮している方の訓練をしていましたが、次の日にはすぐに拘縮していました。もっとリハビリを自然なかたちで生活の中に定着させたいと思っていました。また、介護事業所内に地域の人に来てもらうために、カフェやヨガ教室をオープンするなど、さまざまなことに取り組みましたが、なかなか来てもらえず、やはり自分たち(介護事業者側)から一般の人たちが利用する場に出ていく必要があるのではないかと考えました。そこで、普通のフィットネス施設をつくり、その中でデイサービスの利用者もフィットネスを利用できるような取り組みをスタートしました。
〈法人概要〉
・2019年4月に、弘前のデパート内にフィットネス施設をつくり、そこに規制緩和デイサービスの機能をもたせました。
・介護の責任者が一人(常勤)、栄養士が一人(パート)。
・要支援1は週1回まで、要支援2は週2回まで利用可。
・要支援2:3,377円→2,701円、要支援1:1,647円→1,317円(ちょうど2割減の緩和対応)
・現在は、毎日4名利用(最大10名まで可能)。
・規定ではデイサービスの職員は3名必要ですが、市町村との交渉の末、2名で運営しています。滞在時間は3時間未満でも可能です。通常、生活相談員や経験のある介護福祉士等を置く必要がありますが、資格はなしで可。ケアマネジメントにおいても、モニタリングは必要に応じて実施、サービス担当者会議はしなくてもよいという形に緩和されています。
※市町村への提案、交渉などで、上記の規制緩和が成立しています。
〈特色〉
弘前は、弘前大学医学部のほか、リハビリなどの専門学校も多く、リハビリや介護予防に対するリテラシーが高いことが、この取り組みの後押しにもなったかもしれません。市町村によって、担当者によっても、かなりの温度差があり、同じように他地域で取り組もうとしてもなかなか難しいと感じています。私も各地で交渉に臨みましたが、いずれもうまくいきませんでした。
コロナ禍では、オンラインフィットネスを取り入れています。リアルな場でも参加できるときにはしてもらい、家にいてもオンラインで参加できます。オンラインでリアルな先生の授業が受けられるのがポイントです。
要支援の人も、若い人と一緒にフィットネスできるのを喜んでいます。また、フィットネス施設は、デパートの中にあるので、レストランや洋服屋、100円ショップ、温泉などがあり、ついでにいろいろ楽しめます。
〈運営コスト〉
デイサービスの管理者(常勤)の給与は、フィットネス施設の収益から、パートの栄養士の給与は、利用者(4名)の収益から負担(約20万円)しています。
フィットネス施設の収益は、月会費5,800円で会員800人(コロナ前は、会員が1,150名ほどいた)なので、月500万円ほどの収入です。家賃は約150万円。毎日の勤務体制は、フィットネスとデイを合わせて5名(常勤管理者、パート栄養士含む)です。
デパートの同フロアにあるスーパー銭湯と連携し、会員は、無料でスーパー銭湯が利用できますが、その連携の費用として、月150万円(重油代70万円、水道代30万円、電気代50万円)ほどかかっています。
〈やりがい、モチベーション〉
お客さんが本当に、感謝してくれることです。介護保険でフィットネスに来られる、これを考えた人に会いたい等と言ってくれます。また、デパートで買い物もできるし、お風呂も入れる。一般の人も来られるところに来られると言ってくれるのが嬉しいです。介護施設に入ると、行きたいところにも行けなくなり、尊厳が守れなくなりますが、ここでは利用者の方が普通に生活を楽しめる場として来てくれています。
〈人材確保の方法〉
普通にハローワークに出せば来てくれますので、介護予防の運動指導員、看護師、歯科衛生士、理学療法士、栄養士などを積極的に採用しています。普通は、病院のような場所しか働く場所がない専門職が街中のフィットネス施設で働ける、ということに価値を感じてもらえているのではないかと思っています。
〈苦労していることや課題、解決の工夫〉
立ち上げ時に(一号店は八戸)、フィットネス施設の中にデイサービスをつくるということが、市町村の制度の枠組みになく、交渉することに苦労しました。八戸は、エリアで分けて運営しています。おそらく数年後に来る混合介護の未来像として、一般の人も同時に使えれば、要介護も自立も一緒の空間になり、さらにはデイサービスに規定される医療専門職も世に解放されると提案しました。
その後、総合事業制度が始まり、要支援者に対する市町村による独自の制度が始まったことを受け、八戸市に交渉し緩和された通所サービスC(短期間型)を事業開始しました。約1年が経過し、通所Cでは、制度上3~6カ月で利用が終了するため、支援と収益の継続が困難となり、事業終了した経緯があります。
※通所サービスCとは、市町村の保健師等が公民館等で生活機能を改善するための運動器の機能向上や栄養改善等のプログラムを、3~6カ月の短期間で行うサービスです。
弘前市は、市町村担当者が理解ある担当者で、今のフィットネス施設利用者とデイサービス利用者が、同フロアで一緒にエクササイズに参加できる形で運営ができるようになりました。
〈持続する仕組み、工夫〉
コロナ禍で、一気に600名近くの会員が減ったとき、自宅で運動が継続できるよう、トレーニング動画を無料で週1回配信を始めました。そうしたこともあり、1年間YouTube配信を継続して、今はまた200名ぐらい戻ってきてくれています。また、YouTubeで無料配信しつつ、有料の教室もスタートし、収入減をカバーしています。ヨガ教室やボクササイズなど、一部の授業を会員費と別に、1回500円をいただいて運営しています。
〈これからの事業として方向性〉
2021年4月に、盛岡で新たなフィットネス施設をオープンする予定です。こちらは介護保険のデイサービスの仕組みは使わず、月1,500円の会費と個別のクラス参加費で、参加人数に応じて給与もアップし、働く職員(インストラクター等)のモチベーションアップにもつなげていける仕組みにしたいと考えています。
また、直営で5店舗程度、運営がうまくいけばスケールできる取り組みになるので、まだどうなるかわからないですが、まずは盛岡で、今までにないフィットネスにチャレンジしたいと思っています。
ここ数年、予防を日常化するべく、緩和されたデイサービスにフィットネスとしての機能をもたせることで一般の人も来られるように、ご縁のある市町村ごとに提案を続けてきましたが、タイミングや地域性から、うまく進むことができていませんでした。一方で、フィットネス業界の課題として、フィットネスを継続する人は、人口の4%と言われており、20年来、変わっていない課題があります。
これを解決するには、30代の子育て世代でも自分の健康に継続投資できる価格が必須です。そのため、オンラインフィットネスや会員管理システムの独自開発、最低限の機能により余分な設備の削減に取り組むことで、毎月定額1,500円の低価格フィットネスを、2021年4月盛岡市にオープンすることを決めました。
この実験が事業として成功すれば、新たな健康ビジネスモデルとして日本に浸透し、健康維持・予防を目的とした「手段」としてのフィットネスが、いずれはフィットネスそのものが「目的化」し、4%のフィットネス人口が10%に広がるものと確信しています。
■事業名:規制緩和型デイサービス
■事業者名:株式会社newfitness
■取材協力者名:下沢 貴之(株式会社newfitness代表)
■取材・まとめ:高瀬 比左子(NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表)
■取材時期:2021年2月