〈コンセプト〉
「人は人と生きてこそ人」
人の生き方に正解も不正解もありません。互いを尊重し気にかけ合いながら生きていくことに意味と価値があります。障がいや生きづらさ、年齢にかかわらず、周りに頼れる人や大切にしてくれる人がいれば、人の心は安定し、幸せな生活を送る支えとなります。そんな関係づくりを応援しています。
〈特色〉
福祉の枠を越えた多様な活動によって、お互いがつながり合う場所をつくり、つながりの大切さを伝えています。福祉関係者よりも多種多様な分野の「人と人のつながり」が特徴。年齢、障がいに関係なく、アイデアをみんなでもちよって活動をつくり上げています。
〈設立の経緯〉
■NPO法人Happy Spot Club
高齢者の介護施設で働いていたら、ある日、養護学校の生徒が訪問してくれました。そのときに生まれた高齢者と生徒の交流に感動し、イベントの力を感じました。そして、イベントによって人と人とのつながりを応援する任意団体としてHappy Spot Clubを立ち上げました。設立当時は、高齢者福祉、障がい者福祉、児童福祉といった枠組みを外して活動することは難しかったのですが、イベントの力を発揮して、さまざまな福祉団体、民間の団体、個人などの接点を増やしていきました。
イベントによるつながりの力を再認識したのが、2011年から2020年まで毎年開催してきた「ハピスポひろば」です。数人の美容師と高齢者のつながりによって高齢者がモデルのファッションショーを行ったり、信州プロレスと重度の障がいがある若者のつながりによって障がい者プロレスを行ったり、分野や立場を越えて活動してきました。2014年からはビッグハットで開催し、参加者が3,000人を上回るようになりました。
■コミュニケーションスペース「ごちゃまぜカフェ」
福祉の枠組みを越えた活動に共感して集まったたくさんの方に後押しされ、2016年、コミュニケーションスペース「ごちゃまぜカフェ」を開店。福祉的な事業所ではなく、一般の飲食ができる普通のカフェとして営業しました。障がいの有無や年齢、立場や職業にかかわらず、それぞれが生きづらさを抱えながらも気軽に立ち寄る場所として運営しました。時には子育てや福祉のイベントを行ったり、心や身体の病をお互いに支え合う学びの時間をもったりしてきました。
ただぶらりとお茶を飲みに来る近所の方と一緒に時間を過ごすことで、お互いに自然とかかわり合いを深め合えるスペースとなっていきました。やがて口コミやSNSやメディアを通じて、福祉をもっと身近に感じてほしいと思うさまざまな分野の方とつながりを深めることもできました。
〈初期の活動資金、運営コスト〉
Happy Spot Clubは、当初法人ではなく、民間のボランティア団体でした。「ハピスポひろば」などの大きなイベントもクラウドファンディングや企業および個人からの寄付で資金調達をしていました。
「ごちゃまぜカフェ」を起業するときは、できるだけ費用がかからないようにしました。幸い居抜きで入ったため、設備投資は大きくありませんでした。また、就労支援事業所などの福祉サービスではないため、純粋に飲食店として経営していました。
〈運営上の課題〉
「ハピスポひろば」は、新型コロナウィルスの影響により、2020年からは開催を見送っています。大きなイベントを開催するのは難しいため、オンラインの活用も念頭に入れたこれからのイベントのあり方を模索しています。
誰でも立ち寄れる居場所としての「ごちゃまぜカフェ」は、地域でも信頼されるようになり大きな反響を呼びましたが、慣れない飲食営業や維持費の捻出に運営自体は厳しく、収益化は困難でした。また、福祉サービスではないため福祉制度による支援を活用できませんでした。ギリギリな経営状況の中で新型コロナウィルスの影響もあり、2020年4月に閉業しました。
福祉の枠組みにとらわれない運営をしながら事業継続していくことが大きな課題です。
〈現在の主な活動〉
コロナ禍のため、オンラインでの活動が増えました。地域共生社会の学習会をリモートで開催したり、生きづらさを抱えた方たちと共につくり上げる「うたひろば」というライブ配信を不定期に行っています。代表・高山さや佳が別会社として立ち上げた「株式会社ゼロへの道のり」では、介護事業として「宅幼老所和らぎの家」を運営しています。
〈継続の仕組み、工夫〉
「ハピスポひろば」の開催の目処がつかなくても、「ごちゃまぜカフェ」が閉業しても、NPO法人Happy SpotClubが存続しているのは、Happy Spot Clubが明確な組織ではなく、人と人とのつながりによって成り立っているためだと思います。何か困りごとがあれば相談が来ますし、その解決もつながりによって実現しています。発達障がいの相談、育児の悩み、捻挫の応急処置やパソコンの使い方まで、大抵のことは誰かに相談すれば解決します。みなさん優しいので、快く相談に乗ってくれます。
また、「ごちゃまぜカフェ」で困りごとを抱えていた人は、今は他の人の相談に乗っています。自らが困っていた経験をもつ人は、誰かの困りごとに敏感です。そうやって役割を変えて形を変えながらつながり続けていくのがHappySpot Clubなのだと思います。
〈やってみてよかったこと〉
イベント、カフェ、そして介護事業の立ち上げなど多様な活動を経験した中で、人は「人材」や「人脈」でなく、「仲間」なんだと感じました。地域共生社会は「みんなで生きていく」ことなんだと思います。一緒に生きていけるような対等の関係をつくれたことは何より嬉しく思いますし、これからも大事にしていきたいです。そして、みんなで生きていくことを大切に思ってくれる人が増えてくれたことに喜びを感じています。
〈今後のビジョン〉
新型コロナウィルスの影響によってオンラインでの活動が主体になりましたが、やはりリアルな居場所づくりは大切です。「ハピスポひろば」や「ごちゃまぜカフェ」での経験と学びを生かした居場所として、長野市内に古民家を改造した「かえるのいえ」というスペースを立ち上げます。これまでも一緒にハピスポをつくってきた仲間が企画から参加し、一人ひとりが主体的に参加してつくり上げています。
「かえるのいえ」では、人と人とのていねいな関係づくりとそれを担うリーダーの育成が大切だと考えています。人と人が出会って、気遣いあったり、支えあったりという関係を、これからの時代に仕組みとして落とし込みながら活動を続けていきたいと思っています。
■事業名:NPO法人Happy Spot Club
■事業者名:NPO法人Happy Spot Club
■取材協力者名:高山 さや佳(NPO法人Happy Spot Club代表理事)
■事業所住所:〒387-0012 長野県千曲市大字桜堂555番地3
■取材・まとめ:松木 信治(デイサービス勤務)
■取材時期:2021年2月