〈コンセプト・特色〉
医師や看護師が移動式屋台を引いて街に繰り出し、コーヒーを媒介に住民とコミュニケーションをとる
〈概要〉
YATAI CAFE(2016)は、医療福祉従事者がモバイル屋台を引いて市井に繰り出し、コーヒーの物々交換によって地域住民と健康生成的なコミュニケーションを行う取り組みです。診察室で白衣を着た医師として住民と接するのではなく、“コーヒーを配る人”として語り合うことで、より本音で話ができます。
モバイル屋台が移動する先々で、屋台を核として、子どもから高齢者までが集まってきます。相互にコミュニティを紹介したり、健康相談にのったりと、小規模多機能な公共空間が形成されます(孫大輔,密山要用,守本陽一:家庭医が街で屋台を引いたら:モバイル屋台による地域健康生成プロジェクト.日本プライマリ・ケア連合学会誌 2018;41(3):136-139.)。
〈運営主体〉
「一般社団法人ケアと暮らしの編集社」
医療介護関係者のみならず、街に暮らす人々とともに、アートやデザインを活用したコミュニティ活動を実践することで、地域の医療・介護リソースの確保ならびに住民のウェルビーイングの醸成、ならびに健康増進に貢献することを目的に、兵庫県豊岡市を中心に医療福祉関係者が設立した法人です(2020年11月設立)。それまでは任意団体として、YATAI CAFEで活動してきました。YATAI CAFEのほか、シェア型図書館である、本と暮らしのあるところ だいかい文庫を2020年12月にオープンしています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2016年12月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
もともと医学教育の中で地域医療を知る機会が少なかったことから、総合診療医の守本陽一は独自に地域診断を行っていました。健康課題が多くみつかりましたが、病院の中にいたり、健康教室をしたりして待っているだけでは、健康無関心層の人とコミュニケーションをとることができませんでした。
そこで、健康に興味がない人とも何かしらのかたちでコミュニケーションをとりたいと考え、街に出ることにしました。同じように活動していた人たちと、屋台とコーヒーを媒介物に街に繰り出しました。
〈運営コスト〉
基本的には、最初の屋台代などの初期投資分だけクラウドファンディングで集めました。その後は楽しい、おもしろいというところを大切に、無理せず、数名のスタッフが月1回ペースで行っています。また、コーヒーは物々交換で提供しており、住民から差し入れのあったコーヒー豆やお菓子などを材料費としています。
〈運営に必要な費用概算〉
0円
〈運営資金の確保〉
寄付
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
資金調達も仲間の募集も、それまで地域診断や健康教室などの活動をしていたおかげで比較的スムーズに進んできました。当初参加していた方は、私生活もあり、徐々に参加が難しくなっていきましたが、SNSを見て、新たに参加してくれる方もいたのはうれしいことでした。保健所から露店営業許可を取るように言われた時は、屋台をリノベーションするイベント化することで、ピンチをチャンスにし、多くの人を巻き込むことに成功しました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
コーヒーを媒介にカジュアルな対話を行うことで、健康相談のみならず、人々のつながりを生み出すことに成功しました。移動式屋台で移動することで、地縁型のコミュニティだけでなく移住者やテーマ型コミュニティを、多層的なネットワークコミュニティへと形成することに寄与しました。そうしたネットワークを構築することで、健康相談に来た方にインフォーマルなコミュ二ティを社会的処方することも多くあります。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
月1回の活動であるため、偶然お会いできる方は多いものの、逆にいうと定期的に通える場がありませんでした。そのため、だいかい文庫というシェア型図書館をつくりました。お店番をする側に立つ方も、定期的に遊びに来られる方も出てきています。その中で、不調に感じたことを日常的な対話から健康相談する方もおり、まちに暮らすことで自然とケアとの接点が生まれています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
運営コストの点でも記述しましたが、楽しい、おもしろいというところを大切に、無理せず、数名のスタッフが月1回ペースで行うことで持続可能な仕組みにしています。お金はもらわず物々交換という形で行っており、下手にお金の発生する仕事としてやるのではなく、参加するのが、スタッフ側でもお客さん側でも楽しめるような関係性の場をつくっています。
〈今後のビジョン〉
上述した通り、まちに「行く」ことができた分、逆にその場に「ある」ところをつくりたいと考えています。YATAI CAFEは金銭が全く絡まない活動としつつ、だいかい文庫では健康相談や居場所の相談にのる場合、医療福祉関係者に給与を発生させ、カジュアルなケアの対話の場を持続可能な形でつくるチャレンジをしています。
YATAI CAFEはハレの日の非日常な活動として、だいかい文庫はケの日の日常的な場として機能させたいと考えています。
■事業名:YATAI CAFE
■事業者名:一般社団法人ケアと暮らしの編集社
■取材協力者名:守本 陽一(一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事)
■事業所住所:〒668-0033 兵庫県豊岡市中央町6-1