〈コンセプト・特色〉
YouTubeを活用した認知症ケアの情報発信
〈取り組みの概要〉
取り組みの規模は、現在、日本全体です。
具体的な内容は、介護職やご家族、介護する方に対して、YouTubeを活用した認知症をはじめとした介護の情報発信をしています。この情報発信によって、介護する方の介護力を高めることができれば、認知症の方がいつまでも住みなれたご自宅、地域で共生できる社会が実現すると思っております。
具体的に、現在、総SNSフォロワーは1.8万名以上いらっしゃいます。①YouTube 7,400名以上、②TikTok 8,200名以上、③Instagram 1,800名以上、④Facebook 700名以上、⑤Twitter 200名以上、⑥Clubhouse 300名以上、それぞれのSNSに合わせた情報を届けています。
①YouTubeは、最低週2回以上の動画を投稿しています。動画の内容は、一期一笑在宅ケアグループの認知症ケアのやり方、改善事例紹介、認知症介護に関する書籍の要約、介護職に対する研修、介護保険に関する解説等をしています。
②TikTokは、1分間のワンポイント介護動画を投稿しています。目的は、若年層へ介護に対する興味をもっていただくことと、私たちのYouTubeに興味をもっていただくことです。2021年3月は、TikTokフォロワーさんを増やすため、毎日投稿をしていました。普段は、TikTokも週2回投稿です。
③Instagram、④Facebook、⑤Twitterは、①、②と異なるユーザーへ情報が届くように、①、②で作成した動画を編集し直して画像や文字で投稿しています。
⑥Clubhouseは、介護で悩む方の悩みを傾聴し、アドバイスできることがあればアドバイスします。他のSNSと異なり、音声会話ができることがClubhouseの強みです。その強みを活かした運用を検討しています。
〈運営主体について〉
「一期一笑 在宅ケアグループ」
一期一笑 在宅ケアグループは、東京都東村山市を中心に、通所介護6事業所、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援を運営しております。また、介護保険外事業として、物販、家財整理・不用品買取、身元保証、人財育成・採用、不動産、経営コンサルティング、YouTubeをはじめとした動画制作を行っています。
目的は、地域の高齢者がより便利でより住みやすい環境を整えることです。一期一笑に依頼すれば、介護のことだけでなくなんでも相談できるという、高齢者にとって地域になくてはならない法人を目指しています。2021年には、配食事業も開始する予定です。
〈取り組みをスタートした時期〉
2020年3月18日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
1日でも早く、当社が実践している認知症ケアを世界中に正しく広めたかったからです。
2012年より介護事業をしておりますが、介護保険事業だけ行っていても、事業所がある地域の介護職員、住民にしか正しい認知症ケアを提供することができませんでした。そんな事業所がある地域でさえ、浸透させられていないのが現状です。「海外に事業所をつくる!」なんて考えていた時期もありましたが、夢のまた夢です。
介護保険事業だけで、地域の介護職員や住民に認知症ケアを理解してもらうことがいかに大変か理解できました。実現には途方もない時間と労力がかかります。1日でも早く広めるという目的を考えたときに、YouTubeを使うことによって、その目的が達成される日が早まると考えたためです。
〈運営コスト〉
運営コストは、動画制作費です。主に人件費であり、原稿づくり、撮影、動画編集などがあげられます。運営資金は、介護保険事業や介護保険外事業から捻出しています。少しずつですがYouTubeからの広告収入、講師依頼、企業案件をいただけるようになっており、動画制作事業単体での黒字化を目指しています。
現在は、私が共同代表ということで、私に対するプラスの人件費はありませんから、ほぼボランティア(笑)ということで、動画制作事業が成り立っています。
〈運営に必要な費用概算〉
10万円/月
〈運営資金の確保〉
介護保険、チャンネル運営から発生する報酬や無償での労働提供
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
現在も苦労していることですが、チャンネル登録者が思うように増えないことです。おかげさまで現在7,400人登録は到達することができましたが、先を行く認知症チャンネルは、現在8.58万人です。私たちはまだその1/10にも到達していません。
ライバルとなるチャンネルよりも、より多くの情報を届ける、質を落とさず投稿頻度を高める。視聴者さんが飽きずに最後まで動画を見てくれるようにおもしろく話すなど、工夫が必要だと思っています。登録者が1,000人に到達するよう、ない知恵を振り絞って、毎日動画を投稿していた時期もありました。
どんな事業でも同じだと思いますが、まずはお客様のニーズを満たすことが大切だと思っています。私たちのチャンネルを登録してくださっている方は、主に介護職の方だと思います。介護職の方が、介護福祉士やケアマネの資格取得のためにどうやって効率よく勉強できるかという動画を投稿したり、わかりにくい介護報酬改定の要約をしたりと、本来伝えたい認知症ケアの内容ではなく、お客様が求めているものを投稿するようにしました。
お客様が見たいと思う動画を投稿することで、チャンネル登録してくれることも増えました。チャンネル登録者が増えれば、たまには私たちが伝えたい認知症ケアについても混ぜて、情報発信していく。そうすることで、認知症ケアの動画を見てくれた方が、「あぁ、こうすると認知症の方々が落ち着いてくれたり、BPSDが減少したりするんだ」という、介護職の方の気づきになってほしいと思っています。
自分の伝えたいメッセージの前に、相手のニーズを満たす。そうすることで、自分が伝えたいメッセージも少しずつ伝わっていくと思います。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
YouTube広告収益化と言われるチャンネル登録者1,000人かつチャンネル総再生時間4,000時間は達成することができました。この条件を達成するチャンネルの割合は、YouTubeチャンネル全体の15〜20%といわれています。
もちろん黒字化することは、動画制作事業を継続する以上、必ず成し遂げなければいけないことだと思っています。いつまでも赤字では、どんな事業であっても継続していくことはできません。ただYouTubeの収益だけを求めると、「だから介護職はダメなんだ!」というような介護職をネガティブに捉えた動画の視聴回数が増加する傾向が見られます。
あくまでも収益化することが目的ではありません。収益化だけに目を向けてしまうと、私の目指す目的からは離れていく可能性もあります。収益化だけ最大化するような動画作成にはならないよう注意しています。収益を考えながらも、視聴者によい意味でこびず、伝えたい内容も混ぜていくことを心がけています。
目的である認知症ケアを広めるということに関しては、動画を見てくれる人は確実に増えていると思います。「勉強になりました!」とか「明日からのケアに活かします!」というコメントをいただくことも増えています。そのようなコメントをいただくと、つらい時期もありましたが、継続してよかったなぁと思えますし、始めてよかったなぁと思います。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
うまくいっていないことは、メインターゲットの2つ目、介護するご家族様がチャンネル登録してくれていないということです。あくまでも推測になりますが、チャンネル登録者が増えた動画は、完全に介護職向けの動画です。その点を考えると、おそらく介護するご家族様はそこまで私たちのチャンネルを登録してくれていないと考えられます。
私たちの目的は、介護する人に正しい認知症ケアを広めていくことです。介護職の方だけでなく、ご家族様にも認知症ケアを学んでいただくことが必要不可欠だと思っています。
介護するという行為は同じなのですが、介護職と、ご家族様は、ターゲットを分ける必要があると動画投稿を通じて感じています。おそらく同じ資源(時間や人件費)を投下して、2つ目となるご家族様向けチャンネルを作成すると、ご家族様も見ていただけるものになるのではないかと仮定しておりますが、2つ目のチャンネルに同じ資源を投下することができないこと、これこそが現在の悩みです。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
持続させるために私が必要だと思うことは、①時間をつくること、②小さく目標設定すること、③大風呂敷を広げることだと思っています。
①時間をつくること
時間をつくらなければ、新しいことを始めることはできません。人間の時間は24時間です。私はまず、時間をつくるために何をやめるか考えました。ちょうどコロナ禍ということもあり、会食や遊びをやめました(笑)。
さらに会議や打ち合わせも極力Zoom等のオンラインで行うようにしました。直接対面して、お話しするよりも多少伝わりづらい部分もありますが、伝えられることも多いです。こうして会食や遊び、移動時間等を削減し、この時間を動画制作の時間にあてました。
②小さく目標設定すること
大きく目標設定することは、とても大切なのですが、その中で小さく目標設定していくことも大切です。具体的にはチャンネル登録1,000人に行くまでは、チャンネル登録100人ごとに目標設定をして、進捗を毎日確認し、動画のありとあらゆることを検証し、考えた対策を翌日の動画でやってみるなど、地道に分析して進めました。
③大風呂敷を広げること
大風呂敷を広げたことによって背水の陣を敷きました(笑)。チャンネル開設した日にすぐお客様やケアマネさん用のチラシを作成しました。おそらくお客様だけで500名ほどいらっしゃいますので、ケアマネさん含めると600名以上の方々にチラシを配ってYouTubeを宣伝したことになります。ここまで大風呂敷を広げたので、私自身簡単にやめない決意をもっていることと、簡単にやめられない環境をつくりました。ここまで大々的に告知して、簡単にやめたら、「すぐやめたカッコ悪いやつ」と後ろ指を指されてしまうからです(笑)。
その代わり、ダラダラやる気はありませんでした。1年間YouTube継続してみて、チャンネル登録者1,000人が到達できなかったら潔くやめようと思っていました。趣味でやっているわけではなく、あくまでも仕事なので、そこはしっかりと撤退タイミングを初めから決めていました。
このようなことを意識して、日々活動を継続しています。
〈今後のビジョン〉
私たちの目的は一つです。それは認知症の方々を「ゼロ」にすることです。
現代の医学では、認知症の原因となる病気を治すことはできません。そして、その治療法をみつけることは、お医者さんや研究機関のお仕事だと思っています。
今、私たち介護する人にできることは、「認知症のBPSDをなくすこと」です。WHOの認知症の定義(ICD-10等)より、記憶障害のみを呈する例や記銘力や他の認知機能低下を呈している例であっても、社会生活や日常生活に支障がない症例は、認知症と診断しないとなっています(引用:https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_02.pdf1、2ページ)。年相応の物忘れはあるけど、BPSDがなければ、みんなが幸せに暮らし続けていくことができると思っています。そのために、YouTubeでの情報発信も続けますし、翻訳して世界中に情報発信することも本気で考えています。
他にも、認知症の方々を介護するご家族様や介護職も含めて日々の事例を共有しあって、認知症ケアに活かしていく。このようなオンラインサロン的な場もつくっていきたいと思っています。めちゃくちゃなことを申しておりますが、これが実現できれば認知症の方が住み慣れた地域で、お元気に健康的で暮らし続けることができると本当に思っています。
■事業名:介護YouTube大学、YouTubeを使った認知症ケアの情報提供
■事業者名:一期一笑 在宅ケアグループ(エンジョイ株式会社)
■取材協力者名:吉田 聡(一期一笑 在宅ケアグループ創業者)
■事業所住所:〒189-0012 東京都東村山市萩山町1-8-12-201